説明依頼
各領地で脱税が行われていない事を確認する様に王命が下された日に、パノの父ラーダ・コーハナル侯爵からは直ぐにコーハナル侯爵領に関して問題ない旨の報告が提出されたが、その日の内、いくらも時間を置かずに、報告に問題がないとの回答が王宮よりラーダに送り返されて来た。
王宮の対応の余りの早さにラーダも、バルの父ガダ・コードナ侯爵も、やはりミリとソロン王太子の間に予め何らかの遣り取りがされていたのだろうと思っていた。何せ、ガダがまだコーハナル侯爵邸にいる内に、王宮からの回答が届いたのだ。
しかし、回答が届いた為にラーダにもう一度喚ばれたミリもまた、対応が早過ぎると驚いていた。元王女チリンの息子ディリオを愛でる暇もない。
「ミリ、王宮からの回答が来た。読んでみてくれ」
ラーダはミリに王宮からの書簡を手渡す。
ミリがその文面を読む様子に付いて、ラーダもガダも注目をしていた。二人はミリがソロン王太子との遣り取りを通じて、予め何らかの情報を持っていたのかどうかを見極めようとする。
しかし書簡の内容に関しては、ミリは事前には知らなかった。
目を通し終わると視線を上げて、ミリは書簡をラーダに返す。
「報告内容に問題がないと判断されたのは良かったですけれど、見本としたいとの要望はどうなさるのですか?養伯父様?」
「受けようかと考えている。我が領もコードナ侯爵領と同じく、見られて困るものはないからな」
「そうですね」
ミリはラーダの言葉に肯いた。
国王陛下も養伯父様に感謝をするでしょうし、王太子殿下も素早い対応を喜んでくれているでしょうね、とミリは思う。
ミリが納得している様子を見せるのを見てから、ラーダはミリに問い掛けた。
「それで報告内容の説明に付いてなのだが、ミリ?」
「はい、養伯父様」
「ミリに担当をして貰いたいのだが、どうだ?」
「・・・説明とは、そこに書かれている他家に対しての説明ですか?」
ミリが王宮からの書簡を手で示すと、ラーダが「そうだ」と肯く。
「しかし養伯父様?その文面から察するに、説明は単に形式的なものなのではありませんか?」
「それは何故?何故そう思うのだ?」
「何故も何も、報告内容が問題ないと言うのですから、王宮の文官の方達も納得している筈ではありせんか?」
「もちろん、そうだろうな。それで?そうだとしたら?」
「それなので、文官の方達が説明すれば良いところを養伯父様に依頼するのは、国王陛下の言葉を養伯父様が代わりに伝える様なものではありませんか?王命に協力的に従った事に対する褒美として、貴族各家の前に立って説明をする名誉を与えると言う事ですよね?」
「それを理解しているのなら、その名誉を受けるのがミリを置いて他にいない事も分かるだろう?」
「え?いえ、ですが、私はただコーハナル侯爵家のお手伝いをしただけですし」
「しかし報告書を書いたのはミリだな?」
「それは、そうですけれど」
「内容を一番理解しているのもミリだ」
「報告書をチェックして、問題ないと判断なさったのですから、養伯父様もではありませんか」
「いいや。私が説明をするとしても、それはミリの言葉を代弁するだけに過ぎない。それならミリが説明した方が、話が早いだろう?」
「それほど変わるものではありませんけれど」
「いいや。それにその場で出て来る質問や意見を受けて、報告内容が変わる事もあるかも知れない」
「そうですね。その可能性はあります」
「私が説明する事で、報告の仕方がひっくり返されるかも知れないぞ?」
「その様な事はないと思いますけれど」
「いいや。万が一にもそうなったら報告書の作り直しが必要になるし、ミリがディリオの相手をする時間が減るのではないか?」
「え?」
「私が説明を行うとしても、その準備はミリに手伝って貰う事になる。それよりはミリが説明をする方が、ミリの手を煩わせる時間が少ないのではないか?」
ラーダにそう言われると、確かにその様な気がミリもして来た。
「ミリ?」
「はい、養伯父様」
「報告書を作り直さなくて済ませる為にも、また作り直すとしても最小限の労力で済む様に調整する為にも、各家に対しての説明役を引き受けて貰えないだろうか?」
「・・・分かりました」
肯いたミリにラーダは笑顔を向ける。
「ありがとう。よろしく頼む」
「はい」
ミリは引き受ける限りは、全力で時間を掛けずに終わらせようと決心をした。
「私からも礼を言おう」
「え?お祖父様?」
「ミリが報告方法が変更されない様に抑えてくれるなら、コードナ侯爵領でも追加の調査などは必要ない事になるからな」
「分かりました。二領の為にも、上手に説明を熟す様に努めます」
「期待しているからな?ミリ?上手く出来たら、褒美を弾むぞ?」
「説明して貰える事に対して、コーハナル侯爵家からも褒美を上乗せしよう。そして修正報告をせずに済めば、更に追加で褒美を出す。欲しい物ややって貰いたい事を考えておきなさい」
「はい、お祖父様、養伯父様」
ミリは両家からの褒美は物ではなく、ディリオと過ごす時間を増やす為になる様な事に使わせて貰おうと思った。
ラーダから王宮への回答には、ミリに説明させる事も伝えられた。王宮からはそれで良いとの返事と共に、明日早速説明をして欲しいとの要望が来た。
ミリは早く済ませたかったので、その依頼を受け入れた。




