表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
451/645

報告の報酬は?

 ミリは、実母ラーラの戸籍上の兄に当たる養伯父ラーダ・コーハナル侯爵と、血の繋がらない父バルの父に当たる祖父ガダ・コードナ侯爵に呼び出され、二人から用件を聞くと直ぐに元王女チリンの寝室を訪ねてチリンの息子ディリオを一度抱っこして気力を高めると、コーハナル侯爵邸内のミリに宛がわれている部屋に戻り、コーハナル侯爵から王宮へ提出する報告書を書き始める。

 そして報告書が出来上がったら直ぐさま、それをラーダに届けた。


 コーハナル侯爵邸にまだ残っていたガダもいる前で、ミリはラーダに向けて報告書の説明を行う。

 報告書に目を通しながらミリの説明を聞き終えたラーダは、その場で直ぐにその報告書を王宮に届ける様に手配をした。


 ラーダの対応が少し早過ぎる気がしたけれど、早い分には良いか、とミリは納得して小さく肯いて、同席していたガダに視線を向けた。


「お祖父様?」

「なんだい?ミリ?」

「コードナ侯爵領の資料を作る為に、以前に私がお渡しした報告書と関係する資料も一緒に、コーハナル侯爵邸に送って頂けないでしょうか?」

「我が領の出納資料もか?」

「はい。駄目でしょうか?」

「駄目なのは分かっているんだな?」


 ミリは「はい」と肯くと、項垂れたまま顔を上げなかった。


「ここからコードナ侯爵邸に戻っても、大した時間ではないだろう?」

「・・・はい」

「・・・ディリオか?」

「はい。ディリオちゃんと離れがたいのです」


 項垂れたままそう答えるミリに、ディリオの祖父であるラーダは苦笑いを浮かべるし、ガダも苦笑した。


「リドラも、ミリに取り上げて貰えば良かったな」


 ガダが長男ラゴの長女を話題に出す。リドラはガダの孫で、ミリの戸籍上の従妹に当たった。


「私も早く、リドラちゃんに会ってみたいです」


 顔を上げてそう返すミリに、ガダはまた苦笑する。


「王都に連れて来られる様になるのは、まだ先だな。だからミリの方から会いに行ってやってくれ」

「そうですね・・・」


 ミリはバルの兄ラゴとは、数度しか会った事がない。三男バルと長男ラゴ、それに次男ガスとの兄弟仲が良い事はミリも知っている。けれどコードナ侯爵領まで訪ねて行けるほど、ミリはラゴに親しみを感じてはいなかった。


「どうした?気が乗らないのか?」

「そう言う訳ではありませんけれど、あまり王都を離れる気にはならなくて」

「うん?ミリは先日、コーカデス伯爵領に行って来たではないか?」

「それはディリオちゃんが生まれる前ですから」

「ふっ、ああ、そう言う事か」


 ガダは苦笑いを漏らす。もっと早く、ミリをコードナ侯爵領に誘えば良かったとガダは思った。まさかこれ程ミリが、小さい子を好むとはガダは思ってもいなかった。


 ラーダは表情を消し、発言も控えていた。

 ここまでの会話の字面上では、ミリがガダの孫のリドラより、自分の孫のディリオを選んでいる様に取れなくもない。その事は、ミリがラーダともガダとも血が繋がっていない事を踏まえれば、とてもデリケートな話題だ。

 しかし、この場に三人しかいないからとはいえ、ミリがその様な意図を込めて発言しているとはラーダも思ってはいない。ミリなら逆に、ディリオとリドラを同等に思っている気持ちを報せる為に、わざと二人への行動を並べているのかも知れない。

 そう考えるとラーダは、自分が発言するとバランスが崩れると判断した。それなので表情も出さないようにして、話題が変わるのを待つ。自分から話題を変えるのさえ、余計な事の様にラーダには思えていた。

 長い事領地に籠もっていたラーダに取っては、こう言う遣り取りがなんだか面倒に思えていたのもあった。



 ガダが孫の話から、王宮への報告へと話題を戻す。


「まあ、書類を見られて困る訳ではないし、領地から国への納税に関する概要は公開されているしな」


 腕を組みながらそう言うガダに、ミリは「はい」と肯く。


「こちらはミリにお願いする立場だし、普段はミリにお願いされたりする事もないし、まあ、分かったよ。資料をミリの(もと)に届けさせよう」

「ありがとうございます、お祖父様」


 頭を下げるミリに、ガダは「いやいや」と片手のひらを向けて手を振る。


「こちらこそだ、ミリ。よろしく頼む」

「はい、お祖父様」


 頭を下げるガダに、ミリは肯いて返した。


 ガダとミリの話が一段落したので、ラーダが口を挟む。


「ミリ」

「はい、養伯父(おじ)様」

「ミリには何か、礼をしなければならないな」

「ありがとうございます、養伯父様。ですが私もコーハナル家の身内ですので、王命のお手伝いをさせて頂けるのは誉れですし、お気持ちだけで結構です」

「口調は柔らかいが、身内の割には言葉遣いが硬いな」


 ラーダはミリの言葉から、ガダの母デドラを思い出していた。ラーダの顔に微笑みが浮かぶ。(たしな)める様な言葉なのにラーダが微笑みを浮かべる事に、ミリは少し戸惑った。そのミリの様子に余計な事を言ったと思ったラーダが、話題をミリへの礼に戻す。


「まあ何か欲しい物や、やって貰いたい事ができたら言いなさい。私も何か、考えておこう」

「あの、ありがとうございます、養伯父様」

「ミリ、私もだ」


 ラーダに頭を下げたミリに、ガダもそう言葉を掛けた。


「コードナ家の人間とは言え、ミリにただ働きをさせるとバルが良い顔はしないだろう。今後ジゴに何かをやらせようとした時に、ミリを無償で働かせた事を理由に、ジゴに逃げられるかも知れないし、もちろんジゴだけに報酬を渡す訳にもいかないからな」

「あの、ありがとうございます、お祖父様」

「だから、欲しい物などを考え付いたら、私にも報告しなさい。いいね?」

「はい、お祖父様」


 血の繋がった孫娘リドラが生まれたとは言え、ガダに取ってミリは初孫なのには代わりがなかった。離れて暮らす孫達も可愛いが、傍にいて良く顔を合わせているミリは、やはりガダには可愛いものだった。


 ラーダに取っても他に甥や姪もいるが、領地で暮らす様になるまでは良く会っていたミリは、やはり可愛い姪であった。それは、孫ディリオが生まれてからはディリオの方が可愛くは感じているが、だからと言ってミリに感じる可愛さが減った訳ではない。

 特にミリがディリオを抱いているところなど、可愛さ相乗だ。ラーダの性格的に外にはほとんど表していなかったが、内ではかなりメロメロだった。

 それなのでラーダは、ミリとディリオに二人お揃いの服を作ろうかと密かに思い付いていて、この後直ぐに妻のナンテと相談しようと思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ