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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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調査方針

 コーハナル侯爵領もコードナ侯爵領も納税に関して問題がないと、ミリが間を置かずに返した答えに、パノの父ラーダ・コーハナル侯爵は眉間に皺を寄せる。


「本当か?」


 バルの父ガダ・コードナ侯爵も、不安そうな表情を浮かべた。


「大丈夫なのか?」


 ミリは「はい」と二人に向けて肯く。


「問題が発生した領地では、遺棄農地が再使用されていたのですよね?」

「その通りだが、それに付いては我が領では有り得ないので、心配をしていない」


 首を小さく左右に振りながらラーダが返した。ガダはラーダの言葉に小さく肯く。


「コードナ領もだな。農地が足りなくて、開墾している状況なので有り得ない」

「勝手に水路を引いたりも出来ないから、勝手に農地も増やせないだろう」

「秘密の農地が無いなら、人の存在も隠す必要はないしな」

「ああ。領民になるメリットを理解出来ないなら別だが」

「理解しているからこそ、領民になる為の申請がされ続けているのだろうからな」


 ラーダとガダの言葉にミリは肯いた。


「そうですね。それに収穫量を誤魔化そうとしても、収穫率の低い農地には指導やテコ入れがされますので、密売に繋がる事はありませんし」

「そうだな。それなので問題は、商取引が正確に把握出来ているかどうかなのだが」


 ラーダがミリを見詰め、また眉間に皺を作る。


「はい。申告漏れが発生していた事はありましたが、その時々に指摘をさせて頂いています。そしてその都度、修正納税の催促もして頂いておりましたので、コーハナル侯爵領もコードナ侯爵領も問題はありません」

「そうか、良かった」


 ガダが体の力を抜いて、背凭れに寄り掛かる。ラーダは逆に少し前に体を出した。


「しかし、領内の全ての取引が帳簿に載っていた訳ではないだろう?」

「それはそうですが、領全体への入金も領全体からの出金も、実際と帳簿で矛盾がありませんので、もし間違いがあるとしても、少なくしか納税していない人の分は、多く納税してしまった人の分で相殺出来ています。その為、領地から国への納税としては、問題がありません」

「そう言う事か」


 小さく肯きながら納得の表情をラーダが浮かべる。それを見てミリは「はい」と応えて微笑んだ。ガダがラーダに笑顔を向ける。


「お互い、良かったな、ラーダ」

「しかしガダ。誤りがなかったのは良いが、それをどう報告するか」


 またラーダの眉間に皺が寄った。


養伯父(おじ)様?それは私が養伯父様に報告している内容に、少し肉付けすれば大丈夫ではありませんか?」

「そうだろうか?」


 更に眉根を寄せたラーダに、ミリは「はい」と肯いて返す。


「報告書を提出したら、それを実際に確認するのは王宮の文官の方達ですよね?」

「それはそうだが、これは王命での調査であるから、我が家に(ゆかり)のある者達にも、手心を加えさせる事は出来ないぞ?」


 更に目を細めて眉間を狭めるラーダに、ミリは「いいえ」と首を小さく左右に振った。


「商家の帳簿も読める方達ですので、その方達に判断して頂ける様にすれば良いのでしたら、大した手間も掛かりません、と言う意味です」

「そうだろうか?」

「はい。そうだろうと私は考えます」

「そう言うものか」

「はい」


 ミリとラーダの遣り取りを聞きながら、表情にだんだんと不安を浮かべていたガダが口を挟む。


「ミリ?それは、コードナ領も同じだろうか?」

「はい、お祖父様。コードナ侯爵領もコーハナル侯爵領と同じ形式で報告させて頂いていますので、同じ様に少し手を加える事で、文官の方達に納得して頂ける資料に出来ると思います」

「そうか。それは助かる」


 ミリの説明で安心をしたガダは、また笑顔を浮かべてミリに向けた。

 ラーダが真面目な表情でミリを見る。


「ミリ?」

「はい、養伯父様」

「その報告書作成に、早速取り掛かって貰う事は出来るだろうか」

「畏まりました。本日中には作成しますので、早ければ明日にでも、王宮に提出して頂けると思います」


 そのミリの言葉に、ガダが目と口を少し開いて、表情に感心を表す。


「そんなに簡単なのか」

「はい」


 ラーダが首を小さく左右に振った。


「ガダ。簡単な訳はないだろう?ミリ?」

「はい、養伯父様」

「準備が良すぎないか?」


 まあそう思うわよね、とミリは思った。

 ラーダもガダも、ミリがソロン王太子と内密の遣り取りをしているのは知っている。当然その事と、今回の王命を結び付けて考えるだろう。

 しかしミリはその事を言えないし、ラーダとガダも明示しての指摘はして来なかった。


「養伯父様とお祖父様が、普段から領地をきちんと管理なさっているので、この様な急な調査も、即座に対応出来るのですよね?お二人が普段から領主として必要としている情報が、つまり国王陛下が今回の調査で必要としている報告なのですから」


 ミリは二人にそう微笑む。

 ラーダもガダも、早過ぎる報告を王宮に疑われた時には今のミリの言葉を使おう、と考えると、ミリに微笑みを返した。



 ミリはコーハナル侯爵領からの報告書をさっさと提出し、王宮から追加や変更が求められたら直ぐに対応して、コーハナル侯爵領の報告書が受領されたら同じ形式でコードナ侯爵領の報告も提出する予定だ。


 ミリはそうしてこの件を素早く片付けて、愛しいディリオとの時間を取り戻す積もりだった。

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