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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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調査命令

 ミリはディリオに心を奪われていた。夢中と言い換えても良い。


 パノの弟スディオと元王女チリンとの間に生まれた男児は、ディリオと名付けられた。

 ディリオはコーハナル侯爵家の跡継ぎに当たる為、通例であるならパノの父で家長であるラーダ・コーハナル侯爵が名を決める。パノも当時の家長である祖父に名を付けられていた。しかしスディオの名は両親が、当時はまだ当主ではないラーダとその妻ナンテの夫妻が付けている。それなのでナンテとラーダは、スディオとチリンの子供に対しても名付けを二人に任せ、自分達は口を出さない事にしたのだった。

 スディオとチリンは様々な名前の候補を考え出したが、チリンの意見で少しでも王族らしく響いてしまう名は却下して、自分達の息子にディリオと名付けた。



 ミリは、必要最低限の用事を済ませると、毎日チリンの(もと)を訪れた。ディリオの面倒を見させて貰う為だ。

 生まれたばかりの子供は何かと手が掛かる。ただし四六時中、手を取られる訳ではない。

 それだけれどミリは、おしめを替えたり、入浴させたり、着替えさせたり、授乳の手伝いをしたり、げっぷをさせたりし終えて手が()いてからもディリオの傍を離れずに、抱っこしたり、話し掛けたり、寝顔を見たりしていた。


 ミリは助産院でも乳児の相手をする事がある。その最初の頃からミリは乳児が好きだった。

 けれどディリオは特別に可愛くミリには思えていた。

 それなのでミリは、ディリオと過ごす時間を少しでも長くする為に、やらなければならないその他の事柄に付いて、最大限の集中力と工夫を以て、掛ける時間の短縮を行っていた。

 その結果、ディリオの父であるスディオよりミリの方が、ディリオと一緒にいる時間が長かったりしている。ディリオの母であるチリンに対しても、ディリオを抱いている時間ではミリは負けてはいなかった。



 その様に、その日もミリはディリオ中心の生活を送っていた。

 コーハナル侯爵邸のチリンの寝室でディリオの寝顔を眺めていたミリは、王宮から帰宅したラーダから呼び出される。


 すかさずミリがラーダの執務室に向かうと、そこにはバルの父ガダ・コードナ侯爵もいた。


「お帰りなさいませ、養伯父(おじ)様。こんにちは、お祖父様。お喚びと伺い、参りました」


 ガダがミリに笑い掛ける。


「ミリ?ここに入り浸りらしいじゃないか?この間ミリと会ったのも、この邸だったし」

「はい。チリン様の出産の為に私に宛がって頂いた部屋も、引き続き使わせて頂いています」

「バルやラーラも寂しがっているのではないか?」

「朝食はお父様とお母様と一緒に食べておりますので、その様な事はないと思いますけれどお祖父様?今日、お声を掛けて頂いたのは、お叱りの為でしょうか?」


 違うと思っているミリは、さっさと話を進めて欲しかった。


「いいや、違うよ。小言を言う為ではないさ」

「ミリ」

「はい、養伯父様」

「話したい事があるから、取り敢えず座りなさい」


 そう言ってラーダは、自分達と同じテーブルに着く様にと、ミリに手で示す。


「畏まりました」


 ミリはラーダに肯いて返した。



 ミリが座ると使用人がお茶を淹れ、ミリの前に置くと部屋を出て行く。室内は三人だけになった。

 促されたミリがお茶に一口付けると、自分も口を付けていたラーダはカップを下ろし、口を開く。


「本日、国王陛下から各領主に、命令が下された」

「どの様なご命令なのでしょうか?」

「大規模な脱税が行われている領地がある事が分かり、各自、自領が問題ないか報告せよとの事だ」


 そう言うとラーダは書類をミリに差し出した。ミリはそれを受け取り目を通していく。


「その資料には、どこの領地であるのかは隠されているが、行われている脱税に付いての報告が記されている。一度減った領民が戻って来た事を把握出来ていなかった事が脱税を許す原因とされ、領民からの納税額と商人からの活動報告との間に矛盾がある事を見逃していたため、発見が遅れたとの事だ」


 書類に書かれている報告は、纏め方や書式は整理されているが、レントから見せられたコーカデス伯爵領の資料を元にしている事がミリには分かった。


「この資料には、調査した結果をどの様に報告するのかに付いては書かれていませんが、それに付いては提示があったのでしょうか?」

「いいや、なかった。その場で質問を挙げたが、取り敢えずは領地毎に工夫する様にとの事だ。そして各地の報告を見て、見本とすべき物があれば随時共有していくとの事だった」

「最終的には、見本通りに報告し直すと言う事ですね?」

「そうなるだろうな」


 肯くラーダにミリも小さく肯き返した。


「そこでだ、ミリ」

「はい、養伯父様」

「コーハナル侯爵領の税計算は、ミリに手伝って貰っているではないか」

「手伝うと言うほどの事ではありませんけれど、問題や矛盾がないか、気付いた点は報告をさせて頂いています」

「それがとても助かっているのだが、今回の問題と同様の事が、コーハナル侯爵領で起きているかどうか、見当を付ける事は出来るだろうか?」

「コードナ侯爵領もだ」


 横から口を挟んだガダに、ミリは視線を向ける。そしてガダに小さく肯いた。


「コーハナル侯爵領にもコードナ侯爵領にも、同様の問題はないと私は考えています」


 二人に交互に顔を向けながら、ミリはそう答えた。

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