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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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言いたい事が伝わらない

 レントはミリの泊まる宿を訪ねる。

 本当ならもっと早く戻って来る筈だったのだが、レントの父スルト宛てに国王から使者が来ているのに肝心なスルトがいなかったり、レントがミリの下に戻る事を良しとしないレントの祖父リートと祖母セリに引き留められたりしていた為、予定よりかなり遅くなっていた。

 その上レントは着替えもせず、旅の汚れも落としていないままだ。

 コーカデス家の領都邸に戻って色々あって、どっと疲れが増した様に感じたレントは、身嗜みも整えられなかったままミリに会う事になってしまい、気が滅入りそうになる。何もかも投げ出したいし、この後スルト捜しの旅になど出たくない。



「ミリ様」

「はい」


 レントの呼び掛けに応えるミリが、貴族らしい微笑みを浮かべている事にも、レントの気持ちが沈む。


「実は、領境までお見送りする役目、果たせなくなりました」

「そう、ですか」


 ミリは特に表情を変えなかった。その事にレントは更に気落ちする。

 レントは項垂れる様に頭を下げた。


「誠に申し訳ございません」

「いえ」


 ミリの素っ気ない返しが、レントの心を抉る。抉っているのは、もしかしたらミリ様はわたくしとはもう一緒にいたくはなかったのかも、などと考えてしまったレント自身だった。


「何かあったのでしょうか?」


 下げた頭の上から掛けられたミリの声には、心配の色が含まれている様にレントには思えた。

 レントが顔を上げると、ミリは微笑みのままだが、眉尻と口角が僅かに下がっている様にレントには見える。


「私でよろしければ手伝いますけれど、いかがですか?」


 そう言ってミリは小首を傾げ、微笑みを元に戻した。レントは視線を下げて、小さく左右に首を振る。


「いいえ、それには及びません」


 国王からの使者は密使と言う訳ではない。その存在を口止めをされたりもしていない。

 国王の使者の事を伝えれば、ミリなら事情が分かって貰えるだろう。レントはそう考えた。


「実は父宛てに、国王陛下からの遣いの方がいらしておりました」

「まあ、そうなのですね。どの様なご用件なのか、伺ってもよろしいでしょうか?」


 レントが眉根を寄せて反射的に「いえ」と答えると、ミリも眉根を寄せた。

 ミリは脱税の件なら、レントがミリに協力を仰ぐと考えている。その件以外でこの時期に、領主に国王が使者を送るなど、一体何が起こっているのかと、ミリは不安になった。

 しかしミリは直ぐに表情を微笑みに戻す。


「差し出がましい事を申しまして、失礼致しました。申し訳ございません」


 そう言ってミリが頭を少し下げたので、レントは慌てた。ミリの言葉はミリの護衛達も驚くくらい、とても冷たく響いていた。


「あ、いえ、違うのです」

「私の事でしたらお気になさらずに結構です」

「いいえ、気にしない訳はありませんが、そうではないのです」

「本日はこの宿に泊めて頂きますが、明日には領都を発ちますので」

「いえいえ、ゆっくりなさって頂いて構わないのです」

「そう、ですか?」

「はい。今日までのお疲れもあるでしょうから、ご予定の許す限り是非、(ゆる)りとお過ごし下さい」


 ミリはもう一度「そうですか」と言うと、じっとレントを見詰める。

 ミリは脱税の件なら手伝う気でいる。しかしレントは手伝いがいらないと言う。他に事件でも起きているのなら、ミリも早急に王都に戻るべきかも知れない。しかしレントはコーカデス領でのんびりしろと言う。

 足留めしたいのかしら?とミリは感じた。


「それでしたら、レント殿に頂いた栞の原料を求めに行ってみようかしら」

「それでしたらこちらに届けさせます」


 レントの言葉に、ミリは小さく首を捻る。足留めがしたい訳でもないのかな?とミリは考えた。


「いいえ。場所さえ教えて頂ければ、自分で採りに行ってみますわ」

「あ、いえ、領都で育てているのはわたくしの邸の庭でして」

「あら、そうなのでしたか」

「はい。自生していますのは山岳地帯ですので、現地に向かうのは危険かと」

「そうなのですね」

「はい」

「では、もう一つの材料を採りに行くのはいかがでしょう?」

「もう一つとは、砂ですか?」

「はい。そちらは大丈夫でしょうか?」


 ミリはレントがミリをこの宿にいさせたいのか、それともコーカデス領内に留めたいのか、測っていた。しかしレントには、そのミリの意図が分からず、困惑を深めている。


「あの、ミリ様?」

「はい、レント殿」

「少し、二人きりで話をさせて頂いても構いませんか?」


 そう言われてミリは、レントに時間がなかった事を思い出す。


「申し訳ありません、レント殿。お忙しいのでしたよね?」

「あ、いえ」

「私には構わずに、用事に向かって下さい」

「あ、はい。ですがその前に、少しだけ話をさせて頂けませんか?」

「お時間は、よろしいのですか?」

「はい。ですので、二人だけで」

「分かりました。大丈夫です」


 そうミリは返すと、レントを誘って護衛達から離れた。


「どうしたの?キロ?」

「あ、いえ。あの、ミリ様?」

「あ、はい。レント殿」

「あ、いや、はい。あの・・・なんだっけな?」


 ミリにキロと呼ばれた事で、レントの思考が飛んでしまっていた。


「あ、そうでした。国王陛下からの使者ですが、まだ要件を確認出来ておりません」

「あ、そうだったのですね。それは勘違いをしてしまい、失礼致しました」

「いいえ、わたくしも即座に伝えず、申し訳ございませんでした」

「いいえ、その様な事はございません。私が早とちりをしたのがいけないのです」

「いいえ、先程のわたくしの申しようでしたら、ミリ様が勘違いなさるのも無理はございません」

「・・・あの、レント殿?」

「はい、ミリ様」

「やはり、言葉を崩してもよろしいでしょうか?」

「え?あ、はい」

「ありがとう。なんか、丁寧に話してると、時間ばかり掛かっちゃうよね?」

「あ、うん」

「キロ、急いでるんでしょ?」

「うん」

「あたしにどうして欲しいの?」

「あ、え~と、好きにして貰って良いんだけれど」

「王都に帰っちゃっても大丈夫?」

「うん」

「手伝える事はない?」

「うん」

「でも、国王陛下がどんな用なのか、まだ分かんないんでしょ?」


 ミリが砕けた口調で国王の話題を出したけれど、不敬にならないのかとレントは心配になる。それなので、レントの「うん」との答えは、不安げな声になった。

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