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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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レントを待つ不安

 レントがコーカデス家の邸に着くと、レントの祖父リートと祖母セリが出迎えたが、いつもと様子が違った。


「レント!」


 いつもと違ってリートが先に声を掛けてくる。慌てた様な荒い声だった。数日留守にしたレントの帰りの際にはいつもレントに抱き付こうとするセリは、リートの後ろで胸の前で両手を握って眉尻を下げてレントを見詰めている。


「ただいま帰りましたが、何かありましたか?」

「どこかでスルトに会わなかったか?!」

「え?父上に?会ってはおりませんが、何かあったのですか?」

「行方が分からんのだ!」

「いつからですか?」

「いつから?いつからかも分からん」

「いつもの視察先には行ってないのですね?」

「ああ。予定の場所にいなかったので、他の場所も確認させたが、しまった。最後にスルトが訪れた日にちを確認させれば良かった」

「それは直ぐに確認させましょう。入れ違いに父上が到着しているかも知れませんし」

「そうだな。そうしよう」


 リートはレントの言葉に肯くと、使用人にその旨を命じた。

 その様子を不安そうに見ていたセリに近寄って、レントは両手でセリの手を取る。


「大丈夫ですよ、お祖母様」

「ええ・・・レントが帰って来てくれて、本当に良かったわ」


 そう言うとセリは両手でレントの手を握り返した。

 レントはセリと手を握り合ったまま、リートを振り仰ぐ。


「ですが、父上が戻っていらっしゃるのは、予定ではまだ先の筈ですよね?何かあったのですか?」

「国王陛下からの使者が届いたのだ」

「え?国王陛下から?」

「ああ」


 リートは眉間に皺を寄せて肯いた。


「使者は国王陛下からの書簡を携えていて、領主としてのスルトの返事を持ち帰る役目を担っているそうだ」


 そう言うリートの声は少し低くなる。セリはレントの手を握る力を強めた。

 レントはセリに「大丈夫ですよ」と微笑んでから、リートに顔を向ける。


「王宮からの書簡や使者なら、お祖父様やわたくしが代理で返事を(したた)める事は出来ますが」

「ああ。国王陛下からでは、そうはいかない」


 国王から直接の書簡で、使者が返事を待っているなど、貴族家としては一大事だ。しかしレントには、書簡の内容の想像が付いている。ただし、密造も脱税も、一大事なのには替わりがない。


 セリが細い声でレントに尋ねる。


「もしかしたら、レントが王太子殿下から依頼を受けた話と関係するの?」

「王太子殿下からの依頼に付いてはお話出来ませんが、お祖父様もいらっしゃいますし、わたくしもおりますので、お祖母様は心配なさらなくとも大丈夫ですよ?」

「そうは言っても国王陛下からの書簡なんて、お褒め頂く様な事はコーカデス領にはありませんし、スルトにもないではありませんか」


 レントはその通りだと思いながらも、セリの言葉に肯かない様に注意した。しかしその為にレントが僅かに見せた様子の変化はセリに気付かれ、そして悪い方に解釈される。


「領政は決して上手くいってはいないのでしょう?」

「父上は出来る限りをなさっていますから」

「それは分かっていますけれど、結果として国に納める税金も減り続けているのではないの?」

「セリ」


 レントに向けて不安を漏らすセリの肩をリートは抱いた。


 今までセリは、コーカデス家の収入が減った事に関しての不満を漏らす事はなかった。侯爵家から伯爵家に降爵した時も、直接の不平は口にしていない。

 しかしセリに不平や不満や不安がなかった訳ではなく、そしてそれが分かっていたリートは、家族を責めたりせずに我慢をしているセリに感謝もしていた。

 今回の国王からの使者を迎えた事で、セリが不安を強く感じている事はリートには分かっていた。その上、スルトの行方が分からない事が判明し、セリは不安を募らせていた。レントが帰って来ればセリも多少は落ち着くだろうとリートは考えていたが、レントの顔を見て緊張が緩んだセリは、不安を口にするし表情にも表す様になっていた。

 それなので、リートは今もセリの心配を取り除きたかったが、言葉が出て来なかった。


 そしてセリは、これまでに不平や不満の原因をラーラやコードナ侯爵家の所為にして来た様に、今回も結論を出していた。


「レント」

「はい、お祖母様」

「ミリが来たのは、ある事ない事、王宮に告げ口する為なのね?」


 レントは思わず口から息を漏らす。その音は「へ」と聞こえた。

 リートがレントの肩を掴む。


「そうなのか?!レント?!」

「え?違います!違います!お祖父様!誤解です!お祖母様!」

「だって、ミリが来たら使者が来たのよ?」

「それでミリはコーカデス領を嗅ぎ回っていたのか!」

「違いますから!ミリ様がコーカデス領に入ってから、わたくしが常に一緒に行動を共にしていたのではありませんか。ミリ様は嗅ぎ回ったりなどなさっていらっしゃいませんし、告げ口などもなさっていらっしゃいません」

「常にと言うが、今は一緒ではないではないか」

「そうよ。それにミリは一人ではないのでしょう?使用人全員の行動も見張っていたの?」

「それは、ですが、確かに常に一緒は言い過ぎでしたし、他の人達の動向までは分かりませんが」

「そうでしょう?」

「どうしたものかな」


 セリは仕方ないとレントは思う。セリならそう言う結論を導き出す事も、レントには理解できた。

 しかし密造と脱税の件を知っているリートがセリに同調する事は、レントには納得がいかない。

 だがセリの前でその件を口にする訳にもいかなかった。


「お祖父様、お祖母様」

「なんだ?」

「思い当たる節があった?」

「国王陛下からの書簡の中身が分からないのに、あれこれと推測を広げて口にする事は、不敬に当たりませんか?」

「そんな事はないわよ」

「まあ、そうだな。推測を元に、何かを勝手に(おこな)った訳ではないのだから」

「そうよね」

「そうですか。ですがもし推測通りにミリ様が国王陛下の命を受けていたとしたならば、そのミリ様を誹謗するのは問題になりませんか?」

「いや、そうかも知れないが」

「でも、勝手に嗅ぎ回っているのよ?」

「そうだな。国王陛下の命令で動いているのであれば、嗅ぎ回る必要などないはずだ」

「そうよ。堂々と調査をすれば良いのですもの」


 レントはセリとリートの不満をミリから逸らそうとしたけれど、その矛先の新たな向け先がないので上手くいかない。レントが生まれる前からの敵視がミリに向かっているのだから、そう簡単にはいく筈はなかった。

 それなのでレントは、リートとセリの意識だけでも、ミリから逸らせる事を試みる。


「ですが先ずは、国王陛下の書簡の中身を確認する事ですね」

「それは、そうだな」

「その為には父上を捜しましょう」

「宛てがあるの?レント?」

「わたくしが通った辺りにはいらっしゃいません。いつもの視察先にもいらっしゃらなかったのですよね?」

「ああ、そうだ」

「当然、そこまでの経路上にもいらっしゃらないので、それ以外を捜しましょう」

「まあ、そうだな」


 レントは二人の意識がミリから逸れた事にホッとした。

 しかし、セリの表情には不安が戻り、リートの顔には苦悩が滲む。二人の様子がレントが帰って来た直後の状態に戻ってしまった事に、レントは少し心に痛みを感じていた。



 ちなみにリートはレントと連絡を取る為に、レントにも連絡員を送っていた。そしてその事はセリには伝えていなかった。それはもしレントまで行方が分からないとなったら、セリが更に不安に思うとリートは考えたからだ。

 しかしレント達は廃村を回っていたので、リートからの連絡員とは行き会っていなかった。そしてその連絡員は今もまだ、コーカデス領内を彷徨っている。

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