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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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領都に着いて

 コーカデス領の領都に着いて、レントはミリを宿まで送った。それからレントは一旦、領都邸に向かう事になる。

 ミリはわざわざコーカデス領まで来てくれているのだ。ただの遊びならともかく、コーカデス領の為にと出向いてくれているのに、ミリを饗さない訳にはいかない。そしてレントの心の中には、義務ではなくて饗したいと言う思いももちろんあった。


「申し訳ありませんが、一度、邸に戻って参ります。直ぐに戻りますので」


 そう言って頭を下げるレントに、ミリは「いいえ」と首を小さく左右に振った。


「レント殿がお忙しいのは存じております。申し上げておりました通り、領境までお送り頂かなくとも構いません」

「いえ、その様な訳には」

「いいえ。お気遣いなく。送って頂かなくて結構です」


 空き地のミリをしばらく続けていた反動で、ミリ・コードナとしての言葉遣いが、レントにもミリ自身にも、少し冷たく響く。

 レントは頭を下げたまま一瞬目を瞑った。そして直ぐに目を開けて、頭を上げてミリを見る。


「いえ。ミリ様の御両親とは、王都まで送り迎えをする約束でした。それが領境までとして頂いただけでも、申し訳なくは思っているのです」

「それは存じております」


 そう言ってからミリは、今のは分かっていますで良かった、と考えた。

 会話中に少しずつ表情を硬くしていったレントが、ゴクリと喉を鳴らしてから口を開く。


「もしかして、わたくしが・・・あ、いえ、なんでもございません。失礼致しました」


 意図した訳ではないけれど、思わせ振りとなったレントの発言に、ミリが掛かった。


「レント殿?」

「はい、ミリ様」

「少しだけ今、二人だけで話す時間はございませんか?」

「え、ええ。もちろんあります。大丈夫です」

「ありがとうございます。ではこちらで」


 ミリが誘導して、レントと二人で護衛達から離れる。

 ミリの護衛もレントの護衛も、干物の生産者ニダの所まで同行した護衛達が二人をそのまま見送ったので、馬と馬車と留守番をしていた護衛達は身動(みじろ)ぎはしたけれど、そのままその場に留まった。


 護衛達から離れて、ミリがレントに囁く。


「レント殿?」

「はい、ミリ様」

「言葉を崩しても、よろしいでしょうか?」

「え?言葉を?あの、はい。構いませんが?」

「ごめんね。キロ、って言うか、レント殿だけど、こう、レント殿に対して言葉を改めると、なんかすごく改まった感じになっちゃって、自分でも冷たい言い方だなって思って」


 ミリは、相手に拠って言葉遣いを変える事は、問題なく出来ていた筈だった。同じ相手でも公私を区別して、言葉遣いを変える事ももちろん出来ていた。

 しかしレントとお忍び視察を(おこな)っていたこの数日は、(こう)と言えば視察は公だし、()と言えば会話内容は私だったので、ミリはお忍びを()めたレントとの距離感が良く分からなくなってしまっていた。


「え?あ、いえ、その様な事はございませんけれど」


 レントが否定した事に、ミリはホッと息を吐く。知らずに入っていたミリの肩の力も抜けた。


「あ、レント殿も崩して貰える?いま、この場だけでも良いから」

「あ、はい」

「あたしがさっき言ったのも、突き放したみたいに聞こえたと思うけど、違うからね?」

「え?あ、うん」


 ミリは顔に微笑みを浮かべてレントに向ける。


「レント殿は忙しいと思うから、ほんと、送ってくれなくて良いよ?」

「あ、でも」


 ミリは片手の指を立てて手のひらをレントに見せて、小さく左右に振った。


「大丈夫、大丈夫。気にしないから。気を遣わなくて良いからね?」


 レントもミリを真似て、手のひらを小さく左右に振る。


「あ、いやいや、違くて、もう少し、折角だから、ミリと、あ!ミリ様と」

「ミリで良いよ」


 言い直すレントの言葉をミリが遮った。


「あ、でも」

「あたしもキロって呼ぶから」


 そうミリに言われ、レントの眉根が僅かに寄る。


「あ・・・うん」

「・・・レントが良い?」


 ミリの提案に、レントは目が少し見開いた。


「う、う~ん?・・・ミリが言い易い方で」

「じゃあキロ」


 ミリに即座にそう言われ、レントは口角を上げる。


「あ、うん」


 しかしレントの眉尻は下がっていた。


「だから、送らなくて良いからね?」

「あ、いや、違うから。折角だからミリ、ともう少し話をしたくて」

「そう?」


 そう言って小首を傾げるミリにも、脳裏にレントと話したい話題が複数浮かぶ。


「うん。領境まででも、色々話をしながら、同行したいと思ったんだ」

「そうなのね」

「うん」

「でもあたし、ミリ・コードナとしてレント・コーカデス殿と話すと、なんかさっきみたいに、冷たい話し方になっちゃうんだけど」


 ミリは小首を反対側に傾げながらそう言った。


「あ、うん。構わないよ」


 肯くレントを見たまま、ミリは首を少しだけ回して顔の正面をレントからずらす。


「そう?」

「うん。全然構わない」

「忙しいのも大丈夫なの?」


 レントを見たまま、ミリは顔を僅かに伏せた。無意識の上目遣いだけれど、ミリの方が少し背が高いので、効果は出ない。


「うん。ソロン王太子殿下から連絡が来るまでは、大して出来る事もないし」

「そうね。まだしばらく掛かるでしょうしね」


 軽く小さく肯くミリに、レントはハッキリと肯いて返す。


「うん。俺もそう思う」

「分かった。じゃあ、領境までお見送りしてもらう」


 そう言って微笑み小さく肯くミリに、レントも微笑んで小さく肯いた。


「うん」

「よろしくね?」

「こちらこそ」


 二人はつい、ニダの所での見せていた平民モードの笑顔を向け合った。

 それを見た留守番護衛達はまた身動ぎをした。ミリとレントが二人して、ソロン王太子の依頼を受けているのは分かっている。しかし元々は因縁のあるコードナ家とコーカデス家の二人だ。マナーとしての微笑みではない笑顔を二人が向け合うなんて、信じられない事が起きていると思えて、内心でとても慌てていた。

 同行護衛達は後程、留守番護衛達に説明を求められる事になる。しかし留守番護衛達を納得させるのには困難だった。なぜなら同行護衛達にも、ミリとレントの関係は、どう言葉にしたら良いのか分からなかったからだ。

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