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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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帰途

 干物の生産者ニダの家を離れ、ミリとレント達はコーカデス領都への帰路に就く。その為に先ずは、護衛達や馬や馬車を待たせている地点を目指した。


 その途中、お嬢様と呼ばせるビーニのいる村も通り抜ける。

 これまではキロが通る度に目敏くキロを見付け、話し掛けて来たビーニの姿は最後まで見えなかった。

 村人らしき人影も、ミリ達を見掛けると隠れる様にいなくなった。

 ミリ達が村の中心辺りを過ぎる頃には、村の中からは物音が聞こえず、少し離れている海岸から波の音が聞こえるだけになっていた。


 村人達に避けられている事が、ミリはレントに申し訳なかった。それは、船長のワと食料責任者のラッカがこの村に来たのは、自分との関係があるからだとミリには思えていたからだ。

 ラッカがビーニを吊し上げたのをミリが止めたのも、ビーニを庇ったからとは言えなかった。それは、いつか正体が知られた時のレントと、領民との関係を考えたからだった。


 一方で、レントはホッとしていた。護衛達もだ。

 前回の騒ぎで村人達が、ワとラッカに怯えた事を皆が感じ取っていた。そしてワとラッカががいなくなった事で、村人がミリ達を襲って来るかも知れないと考えていたのだ。

 その様な危険の可能性があっても、ビーニの村を通らないと領都には戻れない。

 それなので護衛達もレントも、村に入る大分(だいぶ)手前から、村周辺の様子に神経を尖らせていた。


 そして村人達は、ミリ達一行を恐れていた。

 ビーニはレントに気易い態度を取るし、ビーニの取り巻き達もレントの護衛二人を軽んじていた。けれど他の村人達は以前から、護衛二人を警戒していた。

 この村は両隣の漁村からの流通の要になっていて、漁をするより商いをして利益を得る人間が多い。漁にしろ製塩にしろ、汗を掻いて金を稼ぐ事が見下される傾向にあった。それなので、ビーニの取り巻きも緩んだ締まりのない体付きをしているし、腕力ももちろんない。

 それに比べてレントの護衛は、武力担当はもちろんだが、会話担当も鍛え上げた体躯をしている。ビーニの取り巻き以外の村人にはレントの護衛達が、ケンカにでもなればレントを片腕に抱き上げても、もう片方の腕だけで村人を()して行く事が出来る様に思えた。自分が近寄らないのはもちろん、レントにちょっかいを出しているビーニにも、()めてくれと思っていた。

 レントとその護衛が求職中と言うのは方便で、どこかのお坊ちゃんとその護衛達だろうと、ビーニ達以外からは思われていた。

 それに加えてミリの護衛達だ。男三人がゴツいのも恐いが、女三人の隙のない目付きも恐ろしい。

 そして少し歳はいっているが、これまたゴツいワとラッカの登場だ。カッとなる一人と、それを抑えて(すご)むもう一人。

 村人達の間では、レント達が偵察隊でミリ達が先遣隊の、海賊一味だとの噂が流れていた。



「なんか、誰も出て来なくなっちゃったよね」


 ミリの言葉にレントは「そうだね」と肯いた。


「あたしの所為で、ごめんね」

「え?なんで?」

「だって、キロと村の人達との交流が、難しくなっちゃったでしょ?」

「そうだけど、この村はもう良いよ」


 そう言うとレントは顔を上げて、村の出口を真っ直ぐに見る。


「え?ニダさんの所に通うなら、良いって事はないでしょ?」

「どうせ通り抜けるだけだから」

「でも」

「ううん。搦まれなくなって、通り易くなって、却って良かったよ」


 レントは心からそう思っていた。そして心からの笑顔をミリに向ける。


「俺達だけだとどうしても軽んじられていたから、もし交流が再開しても、その時には関係が改善できているのではないかな?」

「そう?」

「それに、俺も、ラッカさんがミリとラーラ様の事で怒ってくれたのは嬉しかった」

「え?なんで?」

「何でって、俺だってビーニに怒っていたし」

「そうなの?」


 ミリは怒るラッカをレントも止めていた事を思い出していた。


「もちろんだよ。最初の時だって怒っていただろう?」

「あ、うん」


 ミリは最初に村を通り抜けた時の事を思い出す。しかしレントがビーニの事を謝っていたのは、コーカデス伯爵領の領民がコードナ侯爵家のミリに対して、暴言を吐いたからだと思っていた。まさかレントが怒っていたなんて、ミリは思っていなかった。


「でも、なんで?」

「え?何で?」

「なんでキロは怒ったの?」

「何でって、親しい人が馬鹿にされたら、怒るに決まっているだろう?」


 眉根を寄せてそう言うレントに、ミリは目を見開く。


「親しい人って、あたし?」

「あ、いや、申し訳ございません」

「え?なにが?」

「あ、いや、その、勝手に親しいなどと申しまして」

「ううん。嬉しい」


 ミリの笑顔からレントは顔を逸らした上に、目を瞑った。


「それに、その、ラーラ様とも話をさせて頂いて、ラーラ様が優しい素敵な方だって思っておりますので」

「そう・・・お母様の事もなのね?」

「もちろんです!」


 レントは拳を握り締めて力強くそう言って、ミリを振り向く。


「ありがとう」

「あ、いえ、はい」


 ミリのはにかんだ表情にレントは驚いたし、ミリに礼を口にされてレントは慌てた。



 それから馬と馬車と護衛達を待たせている場所までの間、ミリは上機嫌でレントに話し掛けるが、レントの受け答えはしどろもどろになりがちになる。


 このお忍び視察の間に、平民モードのミリの様々な表情を見た事で、かなり慣れた積もりだったレントは、ミリのはにかんだ笑顔にダメージを受けていた。


 そしてミリは、バルとラーラの宿敵であるコーカデス家で育ったレントが、一度会っただけのラーラに好印象を持っていた事に喜んでいた。ラーラに向けた誹謗に対しての憤りを見せたレントは、ラーラに好意を持っていると言っても良いとミリは思う。

 それなので、最近は対人恐怖が改善されつつあるラーラが、もし社交を行える迄になれば、ラーラと直接話す事で認識を変えてくれる人も出るかも知れない。そう思うとミリは、ラーラの対人恐怖対策にもっとも効果があると思える、ラーラとバルとの夫婦関係改善作戦をもっと積極的に進めようと考えた。

 その作戦立案と実行は、楽しいものになりそうな予感がミリにはしている。それなのでミリの頬は、知らず知らずについ緩んでいた。

間欠投稿になるかも知れません(親指の痛みが復活した上に今度は手首も痛くて、スマホを置いて入力しています。利き手は無事なのですが、こちらは仕事用でして・・・間が開いたらすみません (^_^;))

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