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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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干物の食べ比べ

 ミリは干物も食べた。先ずは自分達で作った物だ。レントが食べるのを見て、ミリが口に入れる。


「おいしい」


 ミリはそう呟いた。しかしその隣で、レントは口角を下げている。


「なにか違う」


 レントの言葉にミリが振り向いた。


「そうなの?」


 レントは干物を見たまま「ええ」と肯く。


「こう、何と言うか、これじゃないと言う感じが、する」

「どれどれ」


 干物の生産者ニダが手を伸ばし、ミリとレントが作った干物を口に入れた。


「確かに」


 干物を何度も噛み締めながら、小さく何度も肯いてから、ニダはそう言う。そして自分が作った干物を二人の前に差し出した。それをレントが口にして頷く。


「そうだよね」


 レントの表情を見てから、ミリもニダの作った干物を食べてみた。


「ホントだ」


 目を大きくするミリを見て、レントは小さく頭を傾けた。


「ね?」


 レントを見ずに干物を見たまま「うん」と答えたミリの、眉根が寄る。


「何が違うんだろ?干し方も漬け方も同じ筈だし、焼き方も変わらないから、捌き方?」


 自信なさげな小声のミリの言葉に、レントの眉根も寄った。


「捌き方?」

「うん。この味の差って、あたしとニダさんの包丁の使い方が、違うだけだよね?」

「切り方だけで?」

「うん」


 干物を見ながら肯いたり小首を傾げたりしているレントとミリのその様子に、ニダがまた笑みを漏らす。


「まあ、二人とは年季が違うのは確かだよ」


 ニダのその言葉にミリが顔を上げた。


「もしかして干物も煮干しみたいに、魚の触り方とかも味に影響するの?」

「するかもね」


 ニダの返事にミリは「そう」と返して、視線を自分達が作った干物に戻した。


「おっかなびっくり扱ってたら、こうなっちゃうのかな?」


 ミリの悄気た様子に、おっかなびっくりの意味が良く分からなかったレントも、その意味を質問する事を躊躇う。その二人の様子を見てニダは、今度は僅かに苦笑の混ざった微笑みを浮かべた。 


「まあ、初めてでこれなら、上出来だと思うよ」

「・・・うん」


 ニダの、特に慰めている訳ではない口調に、ミリはつぶやく様に応える。

 ニダは少し高くした声を張って、話題を変えた。


「それで、どうなんだい?肝心の、干物を保たせる方法は、思い付いたのかい?」

「え?あ、そうね・・・」


 ミリは一旦ニダに向けた目をまた干物に戻す。

 レントはニダの作った干物をもう一口食べ、それを飲み込んでからニダに尋ねた。


「ニダさん?日保ちする様に作った干物は余ってないの?」


 ニダは小さく首を左右に振る。


「王都まで保つのはないね。もっと日数の短い、自分用のやつならまだあるけれどね」


 レントはニダの言葉に小さく肯くと、少し俯いているミリの顔を下から覗き込んだ。


「ミリ?ニダさんに貰って、それも食べてみる?」


 ミリは顔を上げてレントを向く。


「だいぶ違うの?」


 レントは姿勢を戻して肯いた。


「うん。ね?ニダさん?」


 ニダを振り向いたレントに、ニダが肯く。


「そうだね。塩多めで水分少なめだからね」


 レントはニダに肯くと、もう一度ミリを振り向いた。


「王都に持って行ったのは、もっと塩分が多かったけれどね」


 一拍置いて、ミリは「うん」とレントに肯き、ニダを振り向く。


「食べさせて、ニダさん」

「ああ、良いよ」


 真面目な表情のミリと、ミリの雰囲気が変わってほっとしたレントを見たニダは、今度な苦味を含まない微笑みを浮かべた。


 ニダは日保ちさせる干物と香辛料に漬けた干物を持って来て焼く。


「香辛料の方も、食べられるなら食べてご覧」


 そう言うとニダは、二種類の干物をミリ達の前に並べた。

 ミリは「うん」と応えて先ず、普通の干物を手を伸ばす。毒見もなしに食べようとするミリに護衛達が慌てた事に気付いたレントは、ミリより先に普通の干物を口にした。それに続いてミリも普通の干物を口にする。そして首を傾げた。続けて香辛料に漬けた方も口にして、やはりミリは首を傾げる。

 その様子を見ていたレントが、ミリが感想を口にするのを待てずに尋ねた。


「どうしましたか?大丈夫ですか?」

「うん。大丈夫。おいしいよ」


 レントはホッとして「そうですか」と返す。しかしミリは「でも」と続けて、また首を傾げた。

 その様子を眺めていたニダも、干物に手を伸ばす。そして口に入れて咀嚼して、いつもと変わらない事を確認すると、小さく「うん」と呟いて、ミリを見た。


「どうしたんだい?」

「これ、どっちもニダさんが作ったのよね?」


 ミリが最初に出されたミリと一緒のタイミングで作った干物と、後から出された日保ちする様に出された干物を手で示して小首を傾げる。


「ああ、そうだよ」

「そう・・・」


 ミリが何を感じているのか、想像が着いたニダは「ふふ」と笑った。


「ミリが作った干物の方が、おいしいだろう?」

「え?あ、うん」

「そんなもんさ」

「これって、塩加減や干し加減の所為なの?」

「そうだね。干すと旨味が増すけれど、限度がある。良い加減で作れたら、それだけでおいしいよ」

「でも、魚を捌いたのがニダさんかあたしかで、味が変わるほど繊細なんでしょ?」

「そうかもね」

「そうしたら、塩加減や干す時間も、結構微妙に影響するんじゃないの?」

「もちろんだよ」

「ニダさんはそれを調整してるのね?」

「それはそうさ。だって、どうせ食べるなら、おいしい方が良いだろう?」


 ミリは「うん」と肯いて、顔を少し伏せたまま考え事を始めた。その姿をレントはまた心配そうに見守る。そしてニダもまた、僅かに苦味を含めた笑みを浮かべた。

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