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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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煮干しのスープ

 リルは煮干しを飲み込んだ。干物用の魚を捌くより疲れた。

 ふっと顔を上げると、皆がミリを見ていた。レントは泣き出しそうにも見える。

 ミリは微笑みを作って顔に浮かべた。


 自分は平民を装う時には大袈裟な表情をする様に心掛けているけれど、レントの表情もかなり豊かになっている。お忍びを()めてキロからレント殿に戻った時に、貴族の顔に戻れるのか心配、とミリは思った。


 浮かべた笑みをニダに向ける。


「ニダさんの煮干しも食べて良い?」

「あ、俺も食べたい」


 レントもそうニダに言う。


「ああ、もちろん構わないが、その、大丈夫かい?」


 心配そうに見詰めるニダに、ミリは「うん」と肯いて、もう一度微笑みを見せた。


 レントが口にするのを確認してから、ミリもニダの煮干しを食べる。

 ニダの煮干しは、確かに味が違った。それがミリには、ただ苦くないだけではない様に思えた。


「なんでこんなに味が違うんだろう?」


 レントのその呟きに、ミリも肯く。


「どれ」


 そう呟いて、ニダがミリ達の煮干しに手を伸ばした。その内臓部分を取ってから口に入れる。


「初めてでこれなら、上出来だよ。五年は掛からないかもね」

「そう?」


 レントの声が少し弾む。

 ミリは視線を下げて、自分達のとニダが作った煮干しを見比べた。


「でも、どうして違いが出来るのか、分からない」

「はは。それが分かれば、同じに作れる。それが分かるのに五年掛かるって言ったんだよ」

「・・・そうよね」

「それに十年あれば二人とも、きっとこれより美味しい煮干しが作れるよ」


 ニダはそう言うと自分の作った煮干しを指先で摘まんで振ってみせ、そしてぱくりと口に入れて咀嚼した。


「さて。本来はこの煮干しから出汁を取るんだ。スープを作って飲んでみるかい?」

「是非!」

「うん」


 明るく笑うレントと、真剣な表情で肯くミリを見て、ニダは微笑みを浮かべた。



 ミリとレントは、ニダがスープを作る様子を見学した。


「最初に水に浸けるのね」

「そうだね」

「折角乾かしたのに、水に浸けてるんだ」

「こうやって戻した方が、いきなり火に掛けるより美味しいんだよ」

「そうなのか」

「これも海水?」

「え?いいや、真水だよ」

「そうなのね」

「海水・・・海水ねえ。海水で戻した事ないけれど、どうなんだろう?」

「戻りにくいのかな?野菜とか、塩を振ると外に水分が出て来るんでしょう?」

「そうなのです?」

「ああ、そうか。そうだね、なるほど。取り敢えず、これはしばらく放置だ」

「うん。キロ?あたし達の煮干しもやってみない?」

「そうだね。やってみよう。ニダさん?鍋を借りるよ?」

「ああ、良いよ。良いけれど、内臓を取った方が美味しく出来るよ」

「あ、そうか。ミリ?どうする?」

「取ろうよ。出来るだけ、ニダさんのと条件を揃えたい」


 ニダが「ぷっ」と吹く。レントはミリに「うん」と答えながらも、ニダを見ていた。


「ニダさん?どうしたのです?」

「いや、ミリが内臓を取る理由に、条件を揃えるって言うから」

「うん?」

「それがどうしたの?」

「いやね?美味しくするのが理由じゃないんだと思ってね?」


 そのニダの言葉にレントは「確かにミリらしい」と笑ったが、ミリは眉根を寄せる。


「だって、ニダさんのは美味しく出来るんでしょ?」


 そのミリの言葉を聞いた人達は、自分達で作るのは美味しく出来なくてもミリは構わないんだと思って、苦笑を漏らした。



 時間を置いて煮干しが戻ったら、そのまま鍋を火に掛けてスープを作る。特に具は入れずに、煮干しも取り出して、煮干し味のスープが出来上がった。


「これはどうするの?」


 ミリが鍋から取り出した煮干しを指差す。


「畑に撒くよ。肥料にするから」

「もう味はしないの?」

「まあ、料理に混ぜて食べる事もあるけれど」

「食べてみても良い?」


 そのミリの質問に「どうぞ」と答えたニダは、少し意地悪そうな表情を見せた。

 ミリは出涸らし状態の煮干しを一旦持つが、パッと素早く手を放す。それを見ていたニダは「あはは」と笑った。レントが慌ててミリの手を取る。


「火傷しましたか?」


 そのレントの言葉に護衛達が焦るが、ミリはもう一方の手を慌てて振って「違う違う!」と否定した。


「それほど熱くはないはずだよ。そうじゃなくて、煮干しが柔らかくなっていたから、ミリは驚いたんだよね?」


 笑いながらそう解説するニダをミリは目を細めて見る。

 ニダはクスクス笑い続けながら、ミリが放した煮干しを掴んだ。それをミリの目の前に差し出す。ミリは煮干しとニダの手を避ける様に、頭を少し後ろに逸らした。


「ほら。(にお)いもミリの苦手な臭いが、少し戻っているだろう?」


 そう言われてミリは、煮干しに鼻を近付ける。


「ホントだ」

「でもスープはこの臭いではない」


 そう言ってニダは鍋をミリに差し出す。


「ホントだ」


 ニダはレントにも、煮干しとスープの臭いを嗅がせた。


「本当だ。不思議だな」


 レントはニダに何故なのか尋ねた。ニダは「なんでだろうね」と首を少し傾けて答える。

 そう返されて困った様な表情で煮干しとスープを見比べるレントと、少し首を傾げて視線を斜め下に下げて考え事をしているミリを見て、ニダは「ふふっ」と息を漏らした。

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