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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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隠せない臭い

「それじゃあ、エビとかの下拵えを終わらせるから、先に干物を焼いて食べててくれるかい?」


 干物の生産者ニダの言葉に、レント達と船長のワと食料責任者のラッカが肯いた。


「ミリ達は竈を使うんだろう?」

「うん」

「自由に使っておくれ」

「ありがとう、ニダさん」

「ああ、じゃあ干物を取ってくるから」

「手伝うよ」


 レントの会話担当護衛がそう言うと、ニダは「頼むよ」と笑った。



 ニダ達が干物を持って帰って来ると、その臭いにラッカが眉間に皺を作る。


「なんの(にお)いだ?」

「え~と、ね」


 香辛料の事を話すと、面倒臭い事になるかも知れないとミリは思い、言い淀んだ。

 しかしニダがもう、香辛料の付いた干物を持って来てしまっている。それを前にしたら、なんの(にお)いか説明しなければならない。

 香辛料の出所を訊かれる事になりそうだけれど、訊かれたら惚けよう、とミリは開き直った。


「香辛料の(にお)いね」

「香辛料?」


 ミリの返事にラッカの眉間の皺が深まり、ワも眉を(ひそ)める。


「うん。香辛料の入った漬け液に漬けて作った干物だって」

「香辛料なんて、この国じゃ高いんじゃないのか?」

「そうね」

「贅沢な物、食べてるんだな」

「そうだよな」

「そうね」


 ミリは香辛料の産地に言及しないで済んだので、無意識に肩に入っていた力を抜いた。

 しかし話題は直ぐには切り替わらない。ラッカがニダに尋ねた。


「ニダさん?香辛料はまだあるのか?」

「香辛料はまだあるのかだって」


 ミリが少しドキドキしながら、通訳をする。


「ああ。残っているよ」

「エビはどうやって味付けするんだ?」

「エビはどうやって味付けするんだって」

「塩を掛けるだけだね。小さいのはエビもカニも殻ごと焼いて、塩を振る積もりだよ」

「香辛料、少し貰えないか?あと小さいエビも。香辛料を使って料理したい」

「小さいエビを香辛料を使って料理したいから、貰えないかって」

「ああ良いよ」

「ありがとう。調理場を貸してくれ」

「ありがとう、調理場を貸してくれって言うけど、ラッカさん?料理できるの?」

「仕事柄な」

「食料の管理だけかと思ってたけど、船に料理人も乗ってるって言ってなかった?」

「まあそうだが、出入りが激しいから、辞めてから次が見付かるまでは、俺が調理を担当する事もあるんだ」

「え?そうなの?」

「料理人なんて、船に乗りたがらないからな。高い報酬を払わないと、なかなか見付からないし」

「そうなんだ」

「そりゃあそうさ。船に載せている決まり切った材料を使うだけで、大して工夫も出来ないし、鮮度はどんどん落ちていって、最後の方は塩漬け肉や塩漬け魚しか残らない。船に乗ってる間に料理の腕が落ちるって嘆くやつは多いよ」

「そうなの?」

「ああ。だから、店を開く独立資金を貯める為に乗るやつばかりで、金が貯まれば船を降りてしまうんだ」

「そうなんだ。料理するの、私にも見せて」

「ああ、構わないぞ」

「ありがとう。ニダさん?ラッカさんを調理場に案内するね」

「ああ。私も行くよ。どんな風に料理するのか、興味があるからね」

「あ、俺も」


 レントが手を上げた。

 ミリはワを振り向く。


「ワ船長はどうする?私、ラッカさんに付いて行っちゃって良い?」

「通訳か?大丈夫だ。俺も片言なら、話せなくもない」

「ここに残るんなら、先に酒を出しとこうか」


 ニダがワにそう声を掛けた。


「いや。飲むのはみんな揃ってで良いさ」

「お酒を飲むのはみんなが揃ってからで良いって」

「そうかい」

「干物、自分で焼いてる?」

「いや、焦がしそうだ。俺の事は構わないから、早く料理して食わせてくれ」

「ワ船長は構わなくて良いから、早く料理して食べさせてくれって」

「そうかい。それなら急ぐとしようか」


 そう言ってニダは「こっちだよ」とラッカに声を掛けて、家の中に入って行く。その後をミリ達が付いて行った。



「これが香辛料だよ」

「どれだ?」

「どれだだって」

「いや、これだよ」

「これ、全部か?」

「これ全部かだって。十種類あるって話だよ?」

「十種類?」

「塩はこっちだよ」


 容器を一つ一つ開けながら、ラッカは香辛料を確かめていく。


「これって、代替品てやつか?」

「うん。そうだって」

「それにしたって、結構な金額だよな?」

「そうよね」

「う~ん、どうするかな」

「どうしたの?」

「いや、こんなにあると、何を使うか、迷うじゃないか」

「どれも使えるの?」

「どれも一通り、使った事はある」

「凄いね」

「そうでもないぞ。使った事があるだけで、使い熟せてはいないからな」

「え?途端に不安になるんだけど?」

「なんだよ?どっちにしろ、ミリは食べないんだろ?」

「それは、そうだけれど」

「まあ、取り敢えず、エビを剥きながら考えるか」

「ニダさん?」

「うん?なんだい?」

「どの香辛料を使うかは、エビを剥きながら考えるって」

「そうかい。剥くのか」

「キロは食べるかな?」

「キロは食べるかだって。キロが食べるなら、キロの兄さん達も食べるよね?」

「そうだけど・・・」

「ニダさんは食べるよな?」

「ニダさんは、ラッカさんが作ったエビ料理、食べる?」

「ああ、戴こう」

「じゃあ、キロ達が食べても良い様に、少し多目に作らせて貰うか。余れば俺が食べるし」

「少し多目に作って、キロ達が食べられたら食べれば良いって。食べなくても、ラッカさんが食べるからだって」

「あ、いや、食べる」

「え?キロ?」


 ミリはレントに近付いて、耳に囁く。


「兄さん達に相談しなくても良いの?」


 レントが食べるなら、護衛が毒見をしなくてはならないだろう。ミリはそれを心配した。レントも「うん」と囁き返す。


「ニダさんが食べるなら大丈夫」


 最近はニダが食べた物なら、護衛が毒見をしない内にレントが食べたりしていた。もちろん護衛の二人は、良い顔はしていない。

 そしてそうは答えたけれど、干物に慣れた護衛達なら、毒見の必要がなくても食べるかも知れないと、レントは思ってもいた。



 エビの頭を取って、尾の殻を剥く。それに数種類の香辛料を(まぶ)して、油を熱した鍋に入れた。


「美味しそうな(にお)いだね」

「そうだろう?」

「そうだろうだって」

「だが、香りの立ち方が、思ってたのと少し違うな」

「そうなの?」

「ああ。近縁種って言われてるやつを使った事あるんだが、本物に近い香りの気がする」

「そう言われればそうね。油の所為?」

「干し方を工夫して、香りを本物に近付けられた物があるから、それの所為じゃないかい」

「え?干し方?ニダさんが干したのか?」


 ミリはラッカの質問に、答えるのに躊躇した。


「ミリ?通訳してくれよ」

「あ、うん。その、ニダさん?」

「うん」

「ニダさんが干したのかって」

「そうだよ」

「生で手に入れたのか?」

「私が育てたからね」

「ニダさん」

「育てた?」

「ニダさん?バラしちゃって良いの?」

「なんでだい?構わないだろう?ミリ達も知っているのだし」

「ミリ?ニダさんが育てたって言ったのか?」


 ラッカの質問に、ミリは小さく溜め息を吐いてから、「ええ」と答える。


「でも、他言無用よ?」


 そうは言ったものの、ニダが香辛料を作っている話は、直ぐに広まってしまいそうだと思えて、ミリはもう一度溜め息を吐いた。

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