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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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43 罪と理由

「この後はいちいちラーラを傷付けるかどうかを断らない」

「え?どう言う意味?」

「言葉通りだよ。傷付け続ける事になる。だから我慢出来なくなったら、また枕を投げて」


 そう言うとバルは先程ラーラに投げ付けられた枕を手に取り、ラーラの手に届くベッド上の位置にフワッと投げ返す。

 ラーラはベッドに横になったまま手を伸ばし、枕を引き寄せると胸に抱き締めた。


「ラーラ。ラーラの罪って何だ?」


 バルの言葉に、ラーラが枕を抱き締める力は強まる。

 ラーラが体を強ばらせた事はバルも気付いたが、ラーラが竦んでいるのでは無い事を感じて、バルはゆっくりとした話し方で続けた。


「ラーラは悪くない。悪いのは、罪があるのは犯人達だ」


 一語一語、ラーラの様子を見ながら、バルは言葉を口にした。


 ラーラが言う罪に付いてバルは、犯人達がラーラの心を縛り付ける為に何か言ったのだろうと考えた。それを(ほど)く為の会話では、ラーラに詳細を思い出させてしまうかも知れない。

 しかし犯人達に縛られてラーラの人生が歪まされ続ける事など、バルには許せる筈がなかった。このままではたとえ犯人達を殺しても、ラーラは救われない。どうすればラーラが救われるかは分からなかったけれど、少なくとも今のままでは駄目だとバルは思っていた。


「ラーラには罪がない」


 そうバルに言われたラーラは「ううん」と返した。

 バルに諦めて貰うには、バルに軽蔑されれば良い。そんな事はとっくに分かっていたけれど、そうなる決心をラーラはやっと出来た。

 それはバルに愛していると言われて、こんな状況でも感じた喜びに勇気が、そしてラーラが思ってもいなかったバルの気持ちに対して危機感が、ラーラの中に生まれたからだった。


「キロとミリは私の所為で死んだの」

「いや違うだろう?」

「ううん。私が殺したの」


 ラーラは二人を巻き込んだと言っていた。二人が自分から剣に向かったのだって、確かにラーラを早く助ける為だろう。

 そう言う意味ではラーラの所為で死んだと言う事も出来なくはない。しかし、ラーラが殺したと言うのは、どう考えても違う。


「殺したのは犯人達だ」

「実行犯はそう。でも違うの。あの、バル?」

「なに?」

「話すのには勇気が()って、バルに反論されると、その、(つら)いから、取り敢えず最後まで聞いて、お願い」


 悲しそうな目をしてそう言ったラーラに、バルは「分かった」と肯く。

 ラーラは目を閉じて、話を始めた。


「あいつらは私の悪い噂を信じていたの。体で・・・体を使ってバルを・・・バルに体を許してて、他にも何人もの男達と関係してるって」


 ラーラは大きく息を吸って、静かな声で続ける。


「私の純潔はキロに捧げたの。私達は順番に人質にされてあいつらに命令されてミリも手伝わされて、これでキロとミリも誘拐の共犯だって言われたわ。

 あいつらは二人にソウサ家の情報を探らせたり、身代金を奪う手伝いをさせようとしていた。けれど私が初めてだった事に気付いたら、あいつらが予定を変えたの。私が純潔のままと言う事にした方が多く身代金を取れるからって。

 それでミリとキロは共犯に使えなくなって、だってソウサ家に戻したら純潔じゃなくなった事を漏らすかも知れないって。そうなるともうあいつらにとっては二人は邪魔で、あいつらの顔も知ってるし、殺される事になったわ」


 声を震わせながら、ラーラはそこまで一息に話した。


「私が純潔だったから二人は死んで、そうじゃなかったら二人は死ななかったなんて、そんなのおかしいって分かってる。そんな事で自分を責めるなんて馬鹿らしいって思う。馬鹿だと思うわ。でももし、私が噂通りにバルに体を許してたら、二人は死ななかったのよ?」


 ラーラは抱いていた枕に顔を押し付けた。

 小さな泣き声が枕を通して漏れる。


 それだからと言って、ラーラが二人を殺したとは言えないとバルは思う。まだ話が続くかと思い、バルはラーラを目詰め、ただ泣き声を聞いていた。

 今ラーラを慰める事の出来ない自分の無力さに、押し潰されそうになる。しかしラーラを手放す事は出来ない。ラーラに背を向けて立ち去る事は出来ない。出来ないならバルは耐えるしかなかった。


 やがて泣き声は収まり、ラーラが枕から顔を上げた。


「私の純潔に二人の(いのち)(ぶん)の価値なんてない。キロと関係する様に命令された時、あいつらの狙いが分かって考えも読めてれば、私が純潔だと教えて二人を死なせなかった。少なくとも純潔かどうか調べる時間は稼げた。

 二人はお互いより私を守ろうとしたわ。キロが人質の時はミリはあいつらの言う事なんて聞かなくて、ミリが人質ならキロは命令に従わなかった。だから私が嫌がる二人に命令して、あいつらの言う事を聞かせたの。こんな事なら私に剣が突き付けられた時、私が死ねば良かった」

「ラーラ」


 ここまで我慢したバルは、思わず口を挟んだ。

 ラーラが肘を突いて体を起こす。


「分かってる」


 ラーラは一呼吸置いて、ゆっくりと続けた。


「そんな事、二人の気持ちを裏切る事だって分かってる。でも二人はどうしようもなかったのよ?二人はどうにも出来なかったけど、私は選ぶ事が出来たのに、どうにも出来なかった二人が死んだのよ?」


 ラーラは静かな声で、静かに涙を零しながら、顔を歪めた。


「二人が死なない選択も選べたのに、私が選んだ結果が二人の死なの。知らなかったからなんて言えないわ」


 ラーラは体を横たえ、また枕に顔を埋めた。


 しばらくして、枕を通してラーラの話の続きが始まる。


「私はバルとは結婚出来ないわ。もし幸せを感じたら、その瞬間に私は二人を思い出す。そんな奧さん、ダメでしょう?バルと一緒に幸せを分かち合えないなんて、たとえ一緒に暮らしても家族になれないわ」


 ラーラが枕を離して顔をバルに向けた。


「身分差とか純潔じゃないとか色々と他にも理由はあるけれど、私がバルとは結婚出来ない一番の理由は、幸せを分かち合えない事なの」


 ラーラはそう言って微笑みを浮かべてバルを見詰めた。

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