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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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宙に浮く謝罪と心配

「ワ船長、ラッカさん、申し訳なかった」


 レントが足を止めて、船長のワと食料責任者のラッカにそう告げた。先日ミリに謝ったのと同じ、漁村が見えなくなった場所でだ。


「俺達に謝るのは違うだろう」

「ああ。謝るならミリにだな」


 レントの言葉をワとラッカは聞き取ったが、ワとラッカの言葉はレントには通じない。それを思い出してワとラッカはミリを見た。ミリがレントに通訳をすると思ったからだ。

 しかしミリは首を左右に振って、ワとラッカに向けて口を開く。


「私は良いのよ。既に以前、コーカデス様に謝って頂いているから」

「そう言う問題じゃないだろう」

「ああ。ここはコーカデス家の領地なんだろう?それなのにあんな奴等を放って置いて」

「私がああ言う人を相手にしている時間が勿体ないのと同じで、コーカデス様にもああ言う人達に謝らせる為に時間を無駄にして欲しくないの。だから良いのよ」

「なんでだ?ミリ?テテナシゴの意味を知ってるんだろう?」

「謝らせるのが無駄だって言うのか?お前だけじゃなくて、お前の母親も馬鹿にされてるんだぞ?!」

「コーカデス様が頭を押さえ付ければ、あの人達も謝罪の言葉を口にするとは思うけど、まさか二人とも、それでそう言う人達が改心するとは思ってないわよね?」

「それだって、けじめってもんがあるだろう?」

「改心するまで、頭を上げさせなければ良いんだ」

「そんなのに付き合う時間はないし、一人一人がけじめを付けるのにも付き合ってなんていられないから」

「そんなんだから、いつまでもラーラが悪魔と言われてるんじゃないのか?」

「そうだ!男なら誰でも良いみたいに言われて!なんでお前もラーラも平気なんだ?!」

「父と母を知っている人は、そんな事は言わないわ」

「そりゃあそうだろう」

「あれ以来ラーラには会ってないが、そんなのはバル様を見てれば分かる」

「直接知らなくても、コードナ家やコーカデス家やソウサ家の人間の知り合いも、やはりそんな事は言わないし、思わないでもいてくれている。全然繋がりがない人の中にも、神殿の信徒の中にも、母を悪魔呼ばわりしない人も、悪い噂を信じない人もいる」

「だが、ウソも千回言えばホントになるぞ」

「それに悪い話の方が早く広く広がる」

「そう言う意味では充分に、ここみたいな国の端までもうとっくに広がってるし、それを信じてる人に取っては真実なのだから、その一人一人の誤解を解くなんて、やってられないのも分かるでしょう?」

「いや、まあ」

「それはそうだが」

「あの場で何か一言で、お母様の名誉を挽回出来るなら良いけど、そんな事が出来るなら、とっくにコードナ家やコーカデス家やソウサ家がやってるし、お父様だってやってない筈がないわ」

「それは、そうだな」

「まあ、そうだよな」

「でも、そんな一言があって、お父様が口にするなら効果があっても、私じゃ駄目でしょう?お母様の不名誉の証拠である私が何を言っても、言い訳とか自己弁護とかにしか聞こえないじゃない」


 そう言って見詰めて来るミリに、ワとラッカは頭を下げた。


「いや、すまない、ミリ」

「申し訳ない。お前が怒ってない訳、なかったな」

「悪かった」

「許してくれ」


 ミリは一歩近寄って、「ううん」と言って二人の手を取った。


「私とお母様の為に怒ってくれて、ありがとう」

「いや、まあ、怒ったのはラッカだが」

「船長だって」

「ラッカに取ってはラーラは、ラーラ様は娘みたいなもんだしな」

「はあ?妹だし」

「そうか?ずいぶんと歳の離れた妹だな」

「それなら船長に取っては孫みたいなもんじゃないか」

「なんだと!俺とお前じゃそんなに歳が違わないだろうが!」

「でも幼馴染みに孫が出来たって言ってたろう?」

「何言ってんだ。ラーラが孫ならミリが曾孫になっちまう」

「そうだな。う~ん、さすがに曾孫はないか」

「まあ、ミリは孫だな。だからラーラは娘だ」

「なんだそれ?遡るのか?」


 そう言ってラッカが声を上げて笑う。それに対してワも笑う。その二人を見て、ミリが笑った。


 自分の謝罪の言葉からワとラッカがミリと口論になったと思い、はらはらと様子を窺っていたレントは、ワとラッカがミリに頭を下げたのも見たし、今は三人が笑い合っている理由が想像出来ず、とても戸惑っていた。


「あの、ミリ様?」

「あ、ごめんなさい、レント殿。二人は気にしないで欲しいと、言ってなかったけど、それで良いよね?」


 言葉の途中でレントからワとラッカに顔を向け、そう言ったミリに二人は笑いを収めて肯いた。


「ああ。それで良い」

「ミリに任せるよ」


 ワとラッカに笑顔で肯き返して、ミリはレントを向く。


「気にしないで欲しいそうです」

「はい。ありがとうございます」


 そうミリに言ってレントはワとラッカを向き、もう一度「ありがとうございます」と口にして少しだけ頭を下げた。

 そしてレントはまたミリを見る。


「それで、その、揉めていた様に見えましたが、ミリ様は大丈夫ですか?」

「ええ。もちろん、大丈夫です」


 そう微笑みを浮かべるミリに、レントは何も言えなかった。

 自分の気持ちとしては、何か言いたい事がある筈なのに、それが何なのかレントには分からない。それだからか、ミリへの言葉も浮かばなかった。

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