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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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塩を買いに行く道で

 船長のワと食料責任者のラッカ、そして干物生産者のニダが話を進めて、ニダはエビやカニを獲りに、ワとラッカは塩を買い付けに隣の漁村に、それぞれ向かう事になった。ワはミリに通訳をさせる積もりで、レントもワとラッカとミリに同行する。

 ただしその決定に当たり、ミリの意見は訊かれていなかった。


 隣の漁村、お嬢様と呼ばせるビーニの村に向かう途中、続いていたレントとラッカの会話が一段落すると、その通訳をしていたミリが視線を少し下げて、考え事を始める。

 それに気付いたレントが、遠慮がちにミリに声を掛けた。


「あの、ミリ様?」


 ミリは顔を上げて、レントに笑顔を作って向けた。


「なに?キロ?」

「あ、え~と」


 レントは上位者のミリ・コードナに対しての会話の流れを考えていたけれど、キロと呼ばれて思考を平民言葉に切り替えたので、用意していた質問文が頭から飛んでしまう。それなので質問は端的になった。


「考え事?」


 ミリは真面目な表情を浮かべ、「うん」と肯く。


「先ず、コーカデス伯爵様に断りもなく、塩を売って貰えるのかな?」

「ああ、それは大丈夫だと思うけれど、ラッカさん達は罪に問われないよね?」


 ミリはまた「うん」と肯いて、今度は小声でレントに返した。


「正当な金額を払うなら大丈夫。密売と知ってて、値切ったり脅し取ったりしなければ、買い手の罪にはならないから」

「密売?」


 ミリの小声をワが聞き取った。


「ミリ?密売なんてダメだぞ?ソウサ商会にも影響する」

「違うよ、船長。レント殿?口止めしますので、二人には話してもよろしいでしょうか?」

「あ、でも、殿下のご命令は、大丈夫でしょうか?」

「あの場の事は話しませんから大丈夫です」

「そう、ですか。、分かりました。お任せします」

「なにが大丈夫なんだ?キロが密売してるのか?」


 ワが二人の前に立ち塞がる。その隣では、ラッカが腕を組んで二人を見下ろした。


「ワ船長、ラッカさん。他言無用を誓える?」

「いいや、ダメだな。犯罪に加担する気はない」

「いいえ。コーカデス様は犯罪捜査をしていて、私はそれを手伝ってるの」

「え?そうなのか?」

「ええ。それなので、二人に言い触らされると、調査が妨害されるので、他言無用にして欲しいのよ」

「そう言う事か。分かった。それなら協力してやる」


 肯くワの様子に、ラッカが呆れて肩を落とす。


「いや、船長?面白がったらダメだからな?」

「面白がってなんかないだろう?」

「ミリには作戦があるんだろうから、俺達が変に絡むと、ミリとコーカデス様の邪魔になるんじゃないか?」

「こうやって話をするんだから、俺達を巻き込むのもミリの作戦なんだろう?なあ?ミリ?」

「巻き込むって言っても、普通に塩を買う交渉をして貰えば良いだけだから。巻き込む積もりはなかったから、コーカデス様と小声で話していたのだし」

「密売って、塩なのか?」


 ラッカの質問にミリは「分からない」と返した。ミリにはラッカにもワにも、余計な情報を与える積もりはない。


「密売はないかも知れないし、色々あるかも知れないから」

「なるほどな。それで身分を隠して、そんな服装なのか」

「うん。なので、二人は普通に交渉して。別に塩以外にわざわざ商談を膨らませる必要はないからね?もちろん船に取って必要なら、他の物も買って貰って構わないから」

「ああ、分かった」

「ああ、そうするよ」


 再び歩き始めてからミリはレントに、ワとラッカとの会話の内容を説明した。


 一通り説明してから、ミリはもう一つの懸念をレントに伝える。


「それからね?キロ?お嬢様の私への態度も気になるんだけど、私がいる事で塩が売って貰えなかったりしないかな?」

「それは、大丈夫だとは思うけれど。塩の管理は村長だけど、自分の娘が何かを言ったからと言って、取引に影響はないと思うよ?」

「そう?」

「塩の生産量はまだ増やせるから、取引先が増えれば村の利益にもなるし」

「それもあるけど、子供が私を悪魔の子って言うなら、その親も言うから」

「え?そうなの?」

「普通は親が言うから、子供も親の真似して、そう言うのだし」

「何の事だ?」


 ワが歩きながら振り返って、ミリとレントに尋ねた。ラッカも二人を振り向いて、歩きながら見ている。


「悪魔の子って聞こえたぞ?」

「いつものよ、ワ船長。この先の村でも、ミリって名前から、悪魔の子って言われたの」

「またかよ」

「根深いよな」


 ラッカの言葉にワは「ああ」と肯いた。


「ラーラを」

「ラーラ様な?」


 ラッカの指摘にワは目を細めて「ああ」と返す。


「ラーラ様を悪魔なんて、神殿のやつら、いい加減にしろってんだ」

「神殿の神官は言ってないわよ?」

「だが、信徒が言ってるのを放って置いてるんだろう?」

「同罪だな」


 ミリに返したワの言葉に、ラッカもそう言って肯いた。


「でも、この先の村の子が信徒かどうかは分からないからね?」

「どっちにしろ、胸クソ悪いのには違いない」

「そうだな」

「でもね?本人達は、ミリって名前を付けられた私を心配してる場合もあるから」

「分かってるよ。憐れんで、余計な事を言って来たりするんだろう?どっちにしても、胸クソ悪い話だ」

「だが、俺達が騒いでも、話が拗れるだろうな」

「そんなのは分かってる」


 ラッカの言葉にワは顎を上げてそう言うと、鼻を「ふん」と鳴らす。


「そう言や、コーカデス様は神殿信徒じゃないんだよな?」

「え?どうだろう?」

「違うんじゃないか?魚を食べるし」

「そうだよな。違うよな」

「あの、え~と、レント殿?」

「はい、ミリ様」

「レント殿は神殿の信徒ですか?」

「え?どうでしょう?」

「え?ミリ?どうでしょうってどう言う事だ?」

「待ってよ、いま訊くから。レント殿?どうでしょうとは?」

「神殿には行った事はありませんし、生まれた時に祝福も受けなかった筈ですが、信徒なのでしょうか?」

「祝福・・・レント殿は生まれは王都ではなかったのですか?」

「はい」

「そうか。私より先ですから、王都の暴動で、母君は領地に帰っていらしていたのですね」

「いや、まあ、そうですね」

「違いましたか?」

「いえ。どうも暴動の前から、母は領都で暮らしていた様なのです」

「あ、ああ、そう、そうでしたか」


 レントの言葉とその態度に、レントの曾祖父が王冠と当時の宰相とを傷付けた話を思い出し、ミリの口調が少し乱れた。


「ミリ?」

「え?なに?船長?」

「コーカデス様には悪魔の子とか、言われてないんだろな?」

「うん、もちろん」

「なら、どっちでも良いか」


 肯くワの様子に、ラッカがまた呆れて肩を落とす。


「自分で訊いといて。コーカデス様はそんなヤツじゃないって」

「ラッカの判断基準なんて、当てになるかよ。食べ物の好みが自分と合うかとかだろ?」

「でも、当たるだろ?」

「いいや。俺は俺の勘を信じる」

「それで?船長?コーカデス様は大丈夫でしょ?」

「・・・まあな」


 渋い顔をしながらも、ミリの言葉に肯くワの様子に、ミリとラッカは笑った。


「あの、ミリ様?どうしたのですか?」

「ワ船長も、レント殿を気に入った様です」

「そう言う訳じゃない」

「でも、コーカデス様を信じるんだろ?」

「俺が信じるのは、俺の勘だ」

「そうかよ」


 ワとラッカの遣り取りを見て笑ったミリは、視線に気付いてレントを見た。


「ワ船長の勘が、レント殿を気に入ったそうです」


 そのミリの言葉にラッカはふっと笑いを漏らし、ワは「ちゃんと訳せ」と文句を言う。

 その二人を見てからミリはレントに視線を戻し、微笑みを浮かべて小さく肯いてみせた。

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