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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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干物を求めて

 小舟の上に、手を振る人影が見える。


「手を振っているの、ワ船長だよね?」

「ホント?キロ?」

「うん」

「見えるの?」

「え?うん」


 レントに言われてミリも良く見てみるけれど、まだ誰だかは分からない。取り敢えずミリは、「おーい!」と叫びながら手を振ってみた。レントもミリの真似をして、「おーい!」と手を振る。


「おーい!ミリー!」


 自分の名を呼ぶ声が微かに聞こえて、ミリは「ホントだ」と声を漏らす。


「キロの言う通り、ホントにワ船長だ。おーい!」

「一緒に乗ってるの、ラッカさんだよね?」

「え?そうなの?」

「そうだよ。おーい!ワ船長!ラッカさん!」


 レントの声に、もう一人も手を振って返した。

 レントの言う通り、小舟には船長のワと船の食料責任者ラッカが乗っていた。



 浜辺まで小舟を寄せて、先ず降りたワがミリに近寄る。


「ミリ!良くいたな!お陰で俺の一人勝ちだ!」

「え?一人勝ち?何の事?」

「賭けをしてたんだよ」


 ワの後ろから、ラッカが話し掛けた。


「ミリやコーカデス様に会えるかどうかってな。コーカデス様、久し振り」

「久し振りだな、コーカデス様。随分とラッカと仲良くなったそうじゃないか?」


 ミリはレントを振り向いた。


「キロ?二人とも、久し振りだって」

「うん。久し振り。二人に会えて嬉しいけど、どうしたの?」


 ミリはワとラッカを振り向いて、レントの言葉を伝える。


「二人に会えて嬉しいって言ってるけど、今はお忍びだから、コーカデス様の事はキロって呼んで」

「キロ?」

「そうか。キロか」


 ワは眉間に皺を寄せ目を細め、ラッカは眉尻を下げた。


「うん。それでどうしたの?トラブルでもなさそうよね?」


 ミリの言葉にワの眉間の皺が深くなる。


「トラブル?何でだ?」

「トラブルじゃないさ。コーカデスの干物の話をしたら、船長が寄ってみようって」

「そうなの?」


 ミリが小首を傾げてワに訊くと、ワは「ああ」と肯いた。


「昔ならコーカデスに立ち寄るなんて考えなかったけどな。ラッカがキロ様を気に入ったみたいだし、美味いもんがあるなら寄っても良いかってな。それでミリもいたお陰で、大儲けだ」

「俺も、キロ様に会える事には賭けたんだけど、まさか本当にミリまでいるとは思わなかった」


 上機嫌に笑うワの横で、ラッカが項垂れて首を振る。


「あはは、ごめんね。それとキロには様は付けないで。キロもあたしも平民だから」

「お、そうか」

「それでその服装なんだな。分かったよ」


 二人が肯いたので、ミリも肯き返し、レントとニダに顔を向けた。


「キロが話した干物を見たくて、寄ってみたみたい。トラブルではないって」

「そうなのか」

「ミリは通訳が出来るんだね?」

「え?」


 ついいつもの様にワ達と話してしまったけれど、ニダに指摘されてミリは内心で少し焦る。

 しかしワ達がいる限りは、誤魔化しても話せる事は露見してしまっただろう。

 そう考えたミリは笑みを作って「うん」とニダに肯いた。


「勉強したからね」

「そうなのかい。大したものだ」


 笑い返すニダに対して、今更だけれど嘘の身分を騙っている事に、少し後ろめたさを感じたミリは、ニダから顔を逸らしてワ達に向いた。


「買い付けに来たの?」

「味を確かめさせて貰ってからだけどな」

「でも在庫とか、余りなさそうよ?」

「分かってるよ。だから注文して置いて、次の航海で買うのさ」

「え~?前金?」

「最初は全額預けても良い。でも量が増えたら前金は半分だな」

「ニダさん」


 ミリはニダを振り向いて、「あ」と声を漏らすと直ぐにまた、ワ達に顔を向ける。


「こちらの人がニダさんね」


 ニダをワとラッカに手で示してから、ミリはまたニダを向き、今度はワとラッカを手で示した。


「ニダさん、あの船のワ船長と食料責任者のラッカさん」

「よろしくな、ニダさん」

「よろしく、ニダさん」


 ワとラッカが手を伸ばす。ニダは先ずワの手を握る。


「こちらこそ、よろしく、ワ船長、ラッカさん」


 続いてニダと握手をしたラッカに、ミリが話し掛ける。


「それでね?ニダさん一人で干物を作ってるから、量は揃わないかも知れないわよ?」

「構わない。そうしたら俺達で食べる分だけ、売って貰うから」

「え?もしかして、転売する積もりだったの?」

「ここで仕入れられるなら、わざわざ運んで来なくて済むからな」

「わざわざ立ち寄って?」

「買いに立ち寄るかどうかは品質次第だが、キロが美味いって言ってたから、まあ、大丈夫だろう」


 ミリはニダを振り向いた。


「キロが美味しいって言ってたから、ニダさんの干物を味見したいんだって。それで味が合えば、ニダさんが作れる範囲で売って欲しいって」 

「そうかい。でも干物の為にわざわざ停泊するのかい?」

「ここは塩も手に入るだろう?干物が駄目でも、塩を仕入れたい」


 ニダの言葉を聞き取ったラッカが、ミリの通訳を待たずにそう答える。


「干物だけじゃなくて、塩も買いたいって。塩も売ってるの?」

「それは隣村だね」


 塩の直接取引を領主であるコーカデス伯爵が許しているのか気になったけれど、この場でレントに確認する訳にもいかない。それなのでミリはただ、「そうなのね」と肯いた。


「それは隣村だって」

「遠いのか?」

「そこそこね。距離はそうでもないけれど、道が砂地だから時間が掛かるから。今から行けば、日が高い内に戻って来られるけれど」

「なら、案内してくれ、ミリ」

「いや、船長。ミリの都合もあるだろう?」

「だが、塩を買うなら、最初は通訳がいた方が良いじゃないか?」

「それはそうだが、もしかして、ミリがいる事に賭けたのは、ミリを頼る為か?」

「もちろん。俺の運の強さで、ミリを呼び寄せたんだ」

「なに言ってんだよ」

「なに言ってんのよ」

「どうしたの?」


 ミリとラッカが呆れた様子を見せたのを感じて、心配したレントが口を挟む。


「塩を買うのに、あたしに通訳で付いて来て欲しいんだって」

「それなら俺も行くよ」


 レントが間髪入れずにそう言った。それにニダが肯く。


「じゃあ、みんなで行っておいで」

「え?ニダさんはどうするの?」

「エビを獲って来るよ。船長さん達もいるかい?」

「エビが獲れるのか?」


 ニダの言葉を聞き取ったワが訊いた。ラッカは後ろの海を振り向き、エビがいそうもない事に首を傾げる。


「しばらく先に岩場があるのさ。潮溜まりで、小エビや小ガニが獲れるんだよ」

「それなら頼む」

「それなら頼むって」

「じゃあ、多目に獲って来るよ。いたらね」

「いたら多目に獲って来るってさ」

「そりゃあ楽しみだ」

「でも、船はどうするの?暗くなってから動かすの?」

「今日はあのまま停泊させる。だから、エビはここで食べさせてくれ」

「船員達は良いの?」

「ニダさん一人で獲るなら、船員の分は足らないだろう?船長特権だな」

「俺は食料責任者特権だ」

「良いのかな?」


 ミリが困った顔をするので、レントがまた心配した。


「あの、大丈夫?」

「うん。ニダさん?」

「なんだい?」

「エビが獲れたら、ここで食べさせて欲しいんだって」

「ああ。構わないよ」

「ニダさん、ありがとう」

「ありがとう、ニダさん」

「ありがとうだって」


 笑顔のワとラッカに、ニダも笑顔を返した。

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