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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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香辛料の出所

 茹でた小魚を干し台に並べる。干し台の四隅には柱が立っていて、干物の製作者ニダはその上に網を被せた。


「これは虫除け?」


 ミリの質問にニダは「そうだね」と返す。


「砂浜には虫が滅多にいないから、鳥除けだね」

「鳥が寄って来るの?」

「ああ。台に柱を立てて網を持ち上げるのも、鳥対策だよ」

「そうか。鳥に啄まれない様にしてるのね?」

「そうだよ。この網に載れる様な鳥なら、この高さで嘴が届かない。嘴が届く様な鳥なら、網に足を取られて逃げられないから、晩ご飯のおかずになる」

「柱の先端が球状なのも、柱に鳥を立たせない為?」

「どちらかと言うと、この方が網が傷まないからだね」

「そうなのね」


 感心した様子のミリの横で、レントは首を傾げた。


「でもニダさん?干物を作る時は、網を掛けてないよね?」

「あれは売り物ではないからだよ。干物も売り物には網をしていたよ」

「そうなの?」

「ああ。まあ、鳥が干物を好まないのもあるけれどね」

「そうなの?」

「塩っぱくて、嫌なのかもね。滅多に突かれたりしないよ」

「あとは見た目かも?」


 ミリの言葉にレントは「見た目?」と首をまた傾げる。


「うん。煮干しは魚の形をしてるけど、干物は(たい)らくて魚じゃないみたいじゃない?」

「そうかな?でも、(にお)いで食べ物と分かるのではないかな?」

「でも煮干しは(くさ)いけど、干物はそんなに臭わないでしょ?」


 そのミリの言葉にニダが笑う。


「煮干しも出来上がったら、それほど(にお)いはしないよ」

「そうなの?」

「ああ。茹でている時は(にお)いが強いけれど、煮干しは干物より乾燥させるから、出来上がれば干物より(にお)いがなくなるよ」

「そうなのね」

「そう言う意味だと、乾燥して(にお)いが薄れても鳥は煮干しを狙うから、確かに(にお)いではなく見た目で、食べ物かどうかを認識しているのかも知れないね」

「そうなのか」

「そうなのね」


 レントとミリが納得した様子に、ニダは笑顔を向けた。



 煮干し用の小魚を干し終わってから、ニダの案内でミリとレント達は畑に出向く。


「この辺りに生えてるのは香辛料だね」

「これが?」


 ミリは香辛料は知っていたけれど、それがどの様な植物から採れるのかは知らなかった。それは国家機密とされていて、他国には漏らされない筈の情報だった。


「あと、あそこの木陰のとか、あっちの砂地の方のとか」

「砂地に生えるの?」

「元々が雨の少ない土地に生えているから、水捌けが良いところの方が良く育ってくれるんだ。風通しが良い場所も好みらしい」

「現地を見て、それを再現してるのね?」

「まあね」


 ニダの説明にレントが尋ねる。


「でもニダさん?そんな風に育つ場所が違うのに、同じ国に自生してるの?」

「自生はしてないよ」

「そうなの?」

「ああ。よその土地から奪ったそうだよ」

「え?」

「本当なの?」


 ニダの言葉にレントもミリも驚いた。


「ああ。遠い場所の香辛料を集めたそうだよ。その時に種や苗と一緒に、その土地の住民も全員攫って来て、香辛料の作り方から独占したそうだ」

「それは、知らなかったわ」

「そうだろうね。これも国家機密らしいから」

「それならなんでニダさんはそれを知ってるんだ?」

「作ってる人達に聞いたんだよ。その人達は先祖が攫われて、連れて来られた事を忘れてはいない」

「そうなのか」

「ああ。その人達は奴隷の様な扱いを受けてるし、今でも恨みを持ち続けているんだ」

「奴隷?」

「何故?香辛料は高い値段で取引されてるじゃない?それを作ってるなら、裕福ではないの?」

「作り方を知っているから、その土地を離れる事は許されない。そして土地に縛り付ける為に、衣食住が最低限に制限されているんだよ」

「そんな」

「逃げられないの?」

「ああ、そうだよ」


 ニダの淡々とした話に、ミリもレントも言葉を失う。


「香辛料作りは今は分業化されていて、領地を跨いで行われている。各地の領主は自分の所の行程は把握しているけれど、自分が何を作っているのか知らなかったりするらしい。香辛料作りの全貌を理解しているのは、国の一部の人間だけの様だね」

「それは、香辛料の製造方法を秘密にする為ね?」

「そうだろうね」

「それなら何故ニダさんは、製造方法を知っているんだ?」

「一つ一つを遡ったんだよ」

「遡るって?」

「輸出の為に港に集められた香辛料が、どこから運ばれて来るのか辿って、最終加工する所から、乾燥や焙煎をしている所、そして植物を育てている農園にまで辿り着いたんだよ」

「それ、咎められなかったの?」

「国家機密だよね?」

「そうだね。各地の工場や農園で働いたけれど、どこでも単なる労働力としてしか扱われなかったからね」

「国家機密なのに?」

「あはは。領主なんて領民を数字としてしか見てないだろう?」

「え?」

「そんな事ないと思うけど?」

「でもあそこはどこもそうだったよ?子供が育って働き手が増えても、怪我や歳で働き手が減っても、プラスマイナスが合ってれば、人が入れ替わったとは考えない。実際に、領民一人一人を全員覚えられる訳もないしね」


 そう言ってニダは、少し微笑みを浮かべながら、レントとミリを見詰めた。

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