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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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計画的犯行

「焼き始めてしまったから、食べてからにしようかね?」


 干物の生産者ニダの言葉に、ミリは立ったまま「食べてから?」と返した。


「ああ。後で畑で作っている物を案内するよ」

「全部って言ってたけど、香辛料、何種類も作ってるの?」

「そうだよ」


 ミリはまだ焼いていない干物を一枚、手に取る。それを鼻に近付けた。


「もしかして、五種類くらい使ってる?」

「鼻が良いね。七種類だよ」

「七種類とも栽培してるの?」

「ああ。全部で十種類。それには使っていないものもある」

「残りの五種類は分からないけれど、私の知ってるこの五種類は全部、この国では作られていない筈なのだけど」

「そうだね。自然にはこの国に生えてないね」

「ええ。五種類とも厳重に管理されていて、昔から今でもずっと、増やせない様に加工した状態でしか、国外への持ち出しが出来ない様に禁止されてるわ」

「ミリは詳しいね」

「あの?え~と、ミリ?」


 レントがミリを見上げながら尋ねる。


「それは、つまりは、密輸品って事?」

「そうね」

「・・・なんて事だ」


 端的なミリの返事に、レントは頭を抱える。

 密造だけではなく、領内で密輸まで行われていた。密輸なら国家間の問題になる。

 焼ける干物の臭いに、レントは眩暈を感じた。

 そのレントの様子をニダはおかしそうに見詰める。


「大丈夫だよ、キロ」

「いや、だが、ニダさん?密輸は犯罪ではないか?」

「そうかな?ミリはどう思う?」

「この国の法律だけなら、これらの香辛料を持ち込むのは犯罪ではないわ」


 レントのレント口調での「そうなのですか?」の問いに、ミリは「ええ」と肯いた。


「持ち込んではいけない物ではないから。でも、原産国からすると、持ち出してはいけない物になってる。この国の密輸入ではないけど、原産国の密輸出にはなる」

「ホント、ミリは詳しいね。でも、大丈夫だよ」

「何が大丈夫なの?」

「ミリが偽物と言っていたのは、近隣国で見付かった近縁種だろう?」

「そう言い張ってるけれど、原産国側は誰かが持ち出して繁殖させたって主張していて、まだ決着は付いていないわ」

「でも、原種だと言う事も、近縁種ではない事も証明は出来ていないよ」

「ええ。その逆も、いずれの証明も難しいでしょうね」

「ウチにあるのは全て近縁種。近隣国からの持ち出しは禁止されていないからね」


 レントの再びの「そうなのですか?」の問いに、ミリも再び「ええ」と返す。


 レントはホッと肩の力を抜いた。

 そのレントの様子に微笑みを浮かべたニダは、そのままの表情でミリを見る。

 ミリは表情を消してニダを見詰めた。


「ニダさんはいつから香辛料を栽培してるの?」

「さあ、どれくらいになるか」

「近隣国で見付かったのより後?」

「それはそうだよ」

「いつ見付かったか、それは知ってるって事ね」

「まあ、それはそうだね」

「連続して次々に近縁種が発見された事になってるけど、いずれに付いても近縁種が発見されてから、この国に持ち込んだのね?」

「当然じゃないか」

「自分で持ち込んだの?」

「・・・色々な国に行ったからね」

「あたし、ニダさんの渡航歴、裏取りしようとすれば出来るけど、大丈夫?」

「・・・大丈夫とは?」

「本当の事、言っといた方が良いんじゃない?」


 レントがミリを見上げて、「本当の事?」と呟く。


「・・・ミリは船員とコネがあるんだったね」

「ええ」

「知識もありそうだし」

「それなりに」

「頭も良さそうだ」

「ありがとう」

「鼻も良い」

「あと二種類が分かんないけどね」

「いや、充分だよ。何種類もの組み合わせを並行して作ってた時には、自分でも良く分からなくなって、作り直したりしていたよ」

「十種類もの香辛料があったら、二種類を組み合わせるだけでも四十五通りだものね」

「そうなのかい?計算も速いね」

「何種類くらい試したの?」

「百は試したけど、二種類で四十五なら、大した数、試してなかったんだね」

「でも、その百種類で干し魚を作って、味を確かめたんでしょう?」

「そうだけど、でも、思った味は作れなかった」

「でも、ニダさん。これは美味しいよ」


 レントの言葉にニダはまた微笑んだ。


「だけど、本物とはほど遠い」

「本物?香辛料の?」


 小首を傾げたミリの言葉に、ニダは首を振る。


「よその国で食べた干物が、とても美味しかったんだよ。独特な臭いがしていたから、香辛料を使っているのかと思って、それで色々試して、再現しようとしていたんだよね」

「全部、その国の香辛料なの?」

「いいや。その国の香辛料は、それには使っていない。現地で手に入れて、試してみたからね」

「違ったのね?」

「ああ、全然違う。これも全然違うけどね」

「でも、ニダさん?これも美味しいって」

「嬉しいよ。ありがとう。でもキロにもいつか本物を食べ欲しいね。そうしたら、同じ様に作りたくなるよ」

「その干物を?俺が?」

「ああ。これを気に入ってくれるくらいなら、きっと作りたくなる」


 そう言うとニダはレントに笑顔を向けた。

 それからニダは表情を消して、今度はミリを見る。


「それで?ミリは犯罪者として、捕まえようって言うのかい?」

「犯罪の自覚はあるの?」

「まあね」

「え?」


 レントがニダの答えに驚いて、思わず立ち上がった。そのレントと目を合わせてニダは、小さく肯く。


「どうやって持ち込んだの?」

「畑を手伝ったんだよ。そうじゃなければ世話の仕方が分からないだろう?」

「え?じゃあ育てようとしてたって事?計画的犯行って事よね?」

「違う違う。たまたまポケットの綿埃の中とか、ズボンの裾の折り返しとかに、種が零れ落ちていただけなんだよ」

「それが、あそこの畑に零れ落ちて、たまたま芽生えたって事?」

「その通りだよ。やはり賢いね」

「呆れたわ。でも、もし見付かったらどうする気なの?この国だって、責められるわよ?」

「まあ、そうならない様に、近隣国に種を播いて来たんだから、大丈夫じゃないかな?」

「え?種を播いたって?香辛料の?」

「そうだね」


 ミリが目を見開いた。レントの目も少しずつ大きく開かれていく。


「え?それはつまり?それがさっきの話に出て来た、近隣国産の偽物って?」

「ニダさんが播いて育てたのね?」

「いやいや、違うよ。育てたのは現地の人だからね」

「やっぱり、計画的犯行じゃない」


 そう言ってミリは眉根を寄せ、それを聞いてレントは眉尻を下げた。

 その二人の様子に、ニダは嬉しそうに笑う。

 そして護衛達は、どうしたら良いのか分からずに、しばらく前からソワソワしっ(ぱな)しだった。

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