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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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特別な干物

 夕食は干物の生産者ニダと一緒に摂る事になった。


「ミリ達も干物を食べるかい?」


 ニダの質問にミリは首を左右に振る。


「ううん。あたし達は食料持って来てるから」

「そうかい」

「うん。かまど、借りて良い?」

「構わないよ」

「ありがとう」


 ミリはニダに笑顔を向けると、自分の護衛達に肯いた。


「俺が案内するよ。ついでに芋も蒸かすから」


 レントの会話担当の護衛が、家の中に案内しようとする。それをニダが止めた。


「ちょっと待ちな」


 護衛達が一斉に手を止めて、ニダを見る。会話護衛は何でもない表情を作って、ニダを振り向いた。


「うん?なんだい?」

「三人はあれを食べるね?」

「食べます!」

「もちろん!」

「お願いする」


 レントとレントの護衛二人が、口々に食べる事を肯定する。


「じゃあ用意してくるよ」


 そう言って笑うと、ニダは小屋の方に歩いて行った。

 その後ろ姿を見ながら、ミリがレントに尋ねる。


「キロ?あれって?」

「特別製の干物があって、とても美味しいの、だ」


 笑みを浮かべながらのレントの口調が、少し乱れた。


「そうなの?」

「うん。俺達はその虜になっていて、ここに来るとご馳走して貰っているんだ」


 レントの見せる蕩ける様な表情に、ミリは警戒をする。習慣性のある物の存在が、ミリの頭に浮かんだ。しかしどれも文献で読んだだけで、ミリは実際には目にした事がない。

 もしその様な危険な物が使われているとしたら、レント達が食べるのを()めさせなければならない。だが自分にその判別が出来るのかどうか、ミリは不安を感じた。

 ミリは先ほど畑で見掛けた、見慣れない植物の事も思い出す。

 疑わしいなら止めるべきだ、とミリは決意した。


「レント殿」


 小声ではあるけれど、ミリがキロにではなくレントに呼び掛けた事で、レントは無意識に緊張を高める。

 レントもミリにだけ聞こえる大きさの声で、「はい、ミリ様」と返した。


「習慣性のある物と言うのはご存知ですか?」

「習慣性?それはどの様な?」

「お酒もそうですし、一部の植物を燻した煙なども該当するのですが、それを味わうと定期的に摂取をせずにはいられなくなる物の事です」

「お酒に常習性の危険がある事は知っておりますが、他にもあるのですか?」

「はい。お酒より即効性が高く、一度口にしてしまえばもう、手放せなくなる様な中毒性を持つ物もあるそうです」

「そうなのですか・・・それが何か?」

「ニダ殿の作る特別な干物に何が使われているか、レント殿はご存知なのでしょうか?」

「・・・そう言う事ですか」


 レントがそう言って口角を下げる。ミリが小さく肯くと、レントもほんの僅かだけ肯いて返した。


「何がと言うと、魚は普通の干物と同じですから、魚以外の材料に付いてですね?」

「そうなると思います」

「漬け汁を使って作るのですけれど、漬け汁に何が入っているのかは分かりません」

「その干物を食べて、心身に変化があったりはしますか?」

「体が少し熱くなりますけれど、普通に食事をしても熱くなる場合がありますから、それとの違いはない様に思います」

「その干物が食べたくて食べたくて、我慢出来ないとか、その干物の事しか考えられなくなったりする事はありませんか?」

「考えている事はあると思いますが、他の事が考えられなくなったりは、した事はありません」

「夢に見たりは?」

「覚えがありません」

「そうですか・・・」

「比較してよろしいのでしたら、その特別な干物より、バル・コードナ様御監修のお菓子の方が、美味しいと思います」

「そうですか?」

「はい。お菓子なので、そういつも食べたくなる訳ではありませんし、空腹ならわたくしは干物を選ぶでしょうけれど」


 レントは菓子の味の区別が未だに良く付けられないけれど、それでもバル監修の菓子は美味しいと思っていた。ソロン王太子から贈られた菓子より、美味しい気がしている。


 レントの答えを聞いて、ミリは「そうですか」と小さく肯いた。


「その干物を食べる前に、見せて頂いてもよろしいですか?」

「ええ、もちろんです」


 そう答えるレントにミリは微笑みを作って「ありがとうございます」と返す。取り敢えず、レントが食べる干物と干物を食べるレントの様子に付いて、ミリは観察する事にした。



 ニダはコンロも用意して、皆の前で干物を焼こうと準備する。

 レントは焼く前の干物を一枚取って、ミリに近付けた。


「これが特別な干物」

「・・・うん」


 ミリはその干物から漂う臭いに、嗅ぎ覚えがある気がした。何の臭いか思い出せないが、幾つか知っている臭いが混ざっている気がする。


 コンロに置かれた網の上にレントが干物を乗せると、干物の焼ける臭いが徐々に強くなっていった。


 そして、眉根を寄せて焼ける干物を見ていたミリが、「あ!」と言って立ち上がった。ミリの護衛達がミリに反応してスッと動く。


「どうしました?」


 レントは座ったままミリを見上げて尋ねた。ミリの護衛達が動く様子に目をやってから、ニダもミリを見て首を傾げる。


「どうしたんだい?」

「ニダさん?この干し魚、香辛料を使ってる?」

「ああ、そうだよ。それが?」

「その香辛料、輸入してるの?」

「なぜだい?」

「幾つかの、知ってる臭いがするけど、どれも偽物じゃない?」

「偽物?」


 レントが首を傾げてニダを見た。護衛達は偽物との言葉に、表情を険しくする。


「偽物って訳じゃないけれどね」

「ミリ?偽物ってどう言う事?」

「これに使われている香辛料の幾つかは、ある国の特産品として輸入されてるんだけど、それの半値の偽物が輸入されて来る事があるのよ」

「偽物って、別物を香辛料だって売ってるの?」

「そう。見た目はそっくりなのだけれど、味や香りが薄いの」

「薄いのではなくて、柔らかいんだよ」

「言い方を変えればそうだけど、でも偽物でしょう?」

「売られてるやつは知らないけれど、生産国も偽ってるのかい?」

「そう言う商品も出てるわ。真っ当に、違う国の物だって明示して売ってる店の方が多いけど」

「輸入元は真っ当かい?」

「そうね。産地を誤魔化している場合は、何軒かの仲介を通してからになるわ」

「つまり、産地を偽らなければ、偽物ではないよね?」

「そうだけれど、これは違うって言えるの?」

「違うよ」

「じゃあ、それぞれどこ産なのかも言えるのね?」

「もちろん」

「材料、見せて貰っても良い?」

「良いけれど、まず産地を教えようか?」

「え?うん」

「ふふ。全部、ウチ産」

「・・・ウチ産?」

「そう。砂山の向こうに畑があっただろう?」

「え?・・・まさか?」

「そう。全部、ウチ産」


 ニダは真面目な表情でもう一度同じ言葉を繰り返すと、ミリに笑顔を向けた。

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