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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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漁村での言葉

 馬車との合流予定地に着くと、馬車を警護する為に付いて行った護衛の一人はいたけれど、馬車はなかった。

 その護衛の話によると、コーカデス領都から合流予定地までの街道が荒れていて、馬車の到着がかなり遅れるとの事だった。


 その話を聞いたレントが、ミリに対して頭を下げる。


「申し訳ございません」

「え?いえ?どうしたのですか、レント殿?」

「我が領の街道整備の不手際で、予定を狂わせる様な事になりまして」

「ああ、なるほど。しかし、それは仕方のない事ですから、顔を上げて下さい」


 ミリの言葉にレントは、下げたままの頭を左右に振った。


「いいえ。整備が行き届いていないだけではなく、それをわたくしが把握出来ていない事でご迷惑をお掛けする事が、何とも申し訳なく思います」


 ミリはしゃがんで、レントの顔を下から覗き込む。それに気付いたレントは驚いて、ミリの顔から離れる様に体を少し起こした。


「レント殿?」

「あ、はい」

「馬車での行程を考えた時に、街道は整備されている筈だとお考えでしたか?それとも、荒れているだろうとお考えでしたか?」

「荒れていると知っておりました。しかし、わたくしの認識が甘かったのです」

「レント殿の認識が甘いと言うより、レント殿が受けた報告が、正しくなかったのではありませんか?」


 ミリが立ち上がると、レントはミリの顔を追う様に視線を上げて姿勢を正す。しかし、そのミリの言葉にまた視線を下げた。


「それは、しかし、そうだとしても、正しい報告を行わせていない事に付きましては、領主家の一員として、わたくしに責任がございますので」


 ミリはレントに顔を近付けて、口元を手で覆って護衛達から隠しながら、レントの耳に囁く。


「仰る事は分かりますが、コーカデス領に問題があるからこそ、私はコーカデス領に来たのです。これくらいは想定の内ですよ?」


 ミリは顔を離して、レントに微笑みを向けた。


「ですので、レント殿が頭を下げる必要はありません」

「ミリ様」

「はい」

「その様に考えて頂いて、ありがとうございます」


 レントの肩に手を置いて、レントがまた頭を下げようとするのを止めると、ミリは「いいえ」と首を左右に小さく振る。


「それで、どうしましょうか?馬車を待ちますか?」

「え?どうすると仰っても、馬車を待たねば、行商人を装えませんが?」

「そうでもありませんけれど」

「え?ですが、商品も持たずに行商は行えないではありませんか?」

「キロ達から干し魚の話を聞いて、売り物に出来るか確認しに来た事にしましょうか。領都で商売を済ませた後で、商品は売り切った事にすれば良いでしょう」

「え?しかし、馬車も持たずに歩きで行商をした事にするのですか?」

「馬車は故障して、領都で修理中です」

「あ、なるほど。それなので、修理が終わるのを待つ間、こちらを訪ねたと言う事にするのですね?」

「はい。ついでに海も見に来ました」

「なるほど」


 ミリの作った庶民らしい笑顔に釣られて、レントもミリに笑顔を向けた。



 馬車が到着しても合流予定地で待たせる事にして、ミリは馬車には急いで来なくて良いとの伝言を馬車警護の護衛に届けさせる。

 馬車が間に合っていても、馬車が苦手なレントがいるので、元々の予定でも漁村の近くまで歩いて行って、僅かな距離だけ馬車に乗って漁村に入る計画だった。

 それなので、ミリとレントと護衛達の十人が歩いて漁村に入ったのは、予定より少し早かったくらいだ。



「あ!キロ!と、誰だお前ら?」


 漁村に入ると早速、自称お嬢様のビーニが声を掛けて来た。


「見ない顔だな?」

「あなたがお嬢様?」

「誰だ?お前は?」

「あたしはミリ」

「ミリだって?」

「うん。よろしくね」

「悪魔の子とおんなじ名前じゃないか?」


 レントとレントの護衛達は慌てるが、ミリの護衛達は動じていなかった。ミリが偽名を使わないと言った時点で、悪魔とか悪魔の子とかの話が出る事を想定していたからだ。

 もちろんミリも想定しているし、空き地のミリでは慣れてもいた。


「キロとお揃いなのよ?」

「え?なんだって?」

「知らない?誘拐されたヒロインを守って、代わりになくなった使用人の事」

「知ってるけど、それより悪魔の子とおんなじ名前じゃないか?」

「そうね。でも、私の名前はヒロインを助けたメイドさんの本名から頂いたの」

「いや、そうかも知れないけど、悪魔の子と一緒だろ?」

「そうだけど、そのお陰でキロとお揃いなのよ?良いでしょう?」

「良いもんか。お前もどうせ、テテナシゴなんだろ?」


 その言葉にミリは固まった。

 それまでミリのペースだと思って口を出さなかったレントが、慌てて二人の間に入る。


「あの、テテナシゴって、その、ミリにはちゃんとお父さんがいるから」


 慌てたので、レントのフォローは余り良くない。


「キロ、大丈夫」

「あ、でも、ミリ」

「うん、大丈夫だから。ちょっと驚いただけ」

「なんだ?ホントだから、驚いたのか?」


 ビーニとその周りの人間達が、ニヤニヤした笑いをミリにむけた。


「テテナシゴって、お嬢様は意味を知っているの?」

「当たり前だろ?」

「意味?ミリ?意味って?父親がいない子の事でしょう?」

「元々はそう。他国の言葉で、父親がいない子。でも父親がいないと経済的に、その、貧乏になるから、教育を受けられなくて頭が悪いとか手癖が悪いとか、父親が誰か分からないと言う事で母親がふしだらだとか、そう言う悪い意味を含めて、今は使われてるの」

「・・・え?」


 ミリの説明に、レントやレントの護衛達はもちろんだけれど、今度はミリの護衛達も動揺する。

 一方でビーニ達は、更にニヤニヤ笑いを深める。


「良く知ってるじゃないか。やっぱりお前もそうなんだろ?」

「お嬢様も知ってて使ったんだね」

「当たり前だろ?」

「でも、お嬢様と呼ばれる人が使う言葉じゃない」

「何言ってんだ?だって実際にテテナシゴがいるんだから、テテナシゴに向かって他になんて言えば良いんだ?」

「わざわざ言わない様にして、使わなければ良い」

「テテナシゴはテテナシゴだろ?テテナシゴにはテテナシゴって言うしかないじゃないか?」

「そう」


 ミリは引き下がった。

 少しの時間ビーニを見詰めた後に、ミリはレントを振り向く。


「じゃあ行こうか」

「え?ミリ?あの、放って置いて良いの?」

「なんだ?逃げるのか?」


 ビーニの言葉にビーニの周りの人間達が、笑い声を上げた。


「うん」


 ミリはレントに笑顔を向ける。


「あたしがいくら言っても、この人達はテテナシゴって言葉を使うだろうから」

「そうかも知れないけれど」

「おい!キロ!そんなやつほっといて、こっちへ来いよ!兄ちゃん達も」


 レントはビーニを睨んだ。


「なんだよ?おっかない顔して?」

「俺は!」

「キロ、()めなよ。行こう」


 レントがビーニに文句を言おうとするのをミリが止める。


「でも!ミリ!」

「あたしは気にしないから、大丈夫。行こう」

「なんだ?お前ももう、男をたらし込んでんのか?」


 ビーニの周りの人間達は、更に大きい声で笑った。


「さすが!テテナシゴだな!」


 背中を向けたミリへの後ろからのビーニが言葉に、ビーニの周りは更に湧いた。

 ミリはレントの背中を押して、漁村の中を進んで行く。

 その後ろをビーニ達は漁村を抜けるまで付いて来て、ミリを馬鹿にする言葉を投げ付け続けた。

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