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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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守る、守られる

 ミリが平民の服装で領民に紛れ、お忍び視察を行うと告げたら、侍女も護衛達も反対をした。


「平民の格好など、ミリ様にさせられません」

「私も賛成できません。警護はどうなさるのですか?」

「行商人を装います。護衛の中から私の両親役を選び、身辺警護に付いて頂きます」

「それは、二人だけで警護すると言う事ですか?」

「はい」

「反対です。ミリ様の安全を守る責任のある者として、それは受け入れられません」


 護衛隊長が強い口調でミリに告げた。


「しかし、レント殿も護衛は二人だけで、お忍び視察をしています」


 護衛達は思わずレントを見る。皆、顔付きが厳しい。


「わたくしもミリ様のお忍び視察には反対です」


 護衛達の視線に負けた訳ではないけれど、レントはそう宣言をした。

 そんな事を言って置いたとしても、いざミリに何かあったら、コーカデス家は責任から逃れられない。それは分かっている。

 けれど同じ気持ちだと伝える事で、ミリの護衛達と力を合わせて、ミリの視察を食い止められないかとレントは考えていた。最後の足掻きだ。


 そしてレントはミリからも厳しい視線を向けられた。そのミリとレントは目を合わせる。


「ミリ様の護衛の(かた)達を信用しない訳ではありませんが、コーカデス領ではミリ様に安全に過ごして頂く必要がございます」

「レント殿?先程の話とは違うではありませんか?」

「いいえ、ミリ様。わたくしは一度もお忍び視察に賛成とは、お答えしておりません」


 態度を変えた自覚はあったけれど、レントはしらを切った。

 レントを置いてミリだけで視察に行く可能性を考えていたが、護衛達が反対するならそうは行かないだろう。まさかミリがたった一人でお忍び視察に行くとは、レントは思ってもいない。レントは空き地のミリを知らないからだ。


 ミリはレントから護衛達に視線を戻した。


「これはソロン王太子殿下のご命令の(もと)の行動になります」


 ミリのその言葉に、レントは渋い顔をする。


「ミリ様、少しよろしいでしょうか?」


 そう言うとレントはミリを誘って、護衛達から離れた。


「何でしょうか?レント殿?」


 説得出来たと思っていたレントが裏切る様な事を言ったので、いつもより目を細めてミリが尋ねる。


「何ではございません。ソロン王太子殿下には、悪用するなと言われていたではありませんか?」


 レントは護衛達に聞こえない様に、小声でミリに囁いた。


「それは手紙を検閲されない事に付いてですよね?」

「そうだったかも知れませんが、これも王太子殿下の他言無用を悪用していらっしゃいますよね?」

「いいえ、悪用ではありません。王太子殿下の御言葉の有効利用です」


 レントは少し顔を仰向け、目を閉じた。

 しかし、ここで諦めてはならない。

 息を吐きながら目を開けて、レントはミリを見た。


「ミリ様に万が一何かがあれば、わたくしはミリ様の御両親に顔向けが出来ません」

「何故ですか?」

「え?何故?いえ、少なくともミリ様の御両親は、わたくしの事を最低限は信用なさって下さったから、ミリ様をコーカデス領に送って下さったのではありませんか?」

「それはそうですが、責任は両親が取ると母が言っていたのをレント殿も聞いていましたよね?」

「え?でも、それは、ミリ様が何かを失敗なさった時の事ではありませんでしたか?」

「ええ、そうです。レント殿やコーカデス家に迷惑が掛からない様にする為に、私が失敗を犯した時には私の両親が責任を取ります。つまり、私が望んだお忍び視察で何かがあっても、責任を取るのは私の両親です」

「いいえ、ミリ様。誰が責任を取るとかではなく、ミリ様に危険から離れておいて頂きたいのです」

「ええ。危険には近付きません」

「いいえ。危険が近付いて来るかも知れません」

「ええ。危険にも近付かせません」


 水掛け論になるのは分かっていたレントだけれど、それでも言わずにはいられなかった。そして本当に水掛け論になってしまったので、取り敢えず用意した言葉を口にしてみる。


「分かりました。それではミリ様は、わたくしが命に代えてもお守りします」


 レントは出来るだけ真剣な表情でそうミリに告げた。ミリの目が見開く。


「いいえ。私の事は私と両親が責任を取りますので、大丈夫ですよ?」

「いいえ。ミリ様はコーカデス領の為にいらして下さって、コーカデス領の為に視察をして下さろうとなさっているのです。それをお守りするのは、次期領主たるわたくしの使命です」

「いいえ。私の事は護衛と私自身が守りますから」

「ですがミリ様も護衛の方達も、コーカデス領は初めてですよね?」

「それは、そうですけれど、ですが、レント殿に命を掛けて頂かなくても、大丈夫ですので」

「何もなければそれで構いませんが、何かあったら、必ずわたくしがミリ様をお守りします」


 レントは、こう言って置けばミリが無理はしないだろうと計算をした。そしてミリが無理をしなければ、それほど危ない事は起こらないだろうと考えていた。

 しかし口にしたからには、ミリに何かあれば、それこそ命懸けで守らなければならないと、レントは覚悟を決めた。

 実際にはわたくしにはほとんど戦闘力がありませんから、自分の護衛をミリ様の守りに回すくらいしか出来ませんけれど、と少し情けなさを感じながらだったけれど。

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