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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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コーカデス領に着いて

 ラーラからソウサ商会には頼るなと命じられたコーカデス領の干物の確認だが、費用の殆どはバルが出す事になった。それは費用の殆どが、警護費となっていたからだ。

 ミリとしては、護衛は二人で充分だと考えていた。レントが王都に護衛を二人しか連れて来なかったからだ。そして夜は宿には泊まらずに、野営すれば良いかと考えていた。以前、ハクマーバ伯爵領に行った時の様にだ。

 しかしバルがそれを許さない。宿泊予定の各地で一軒の宿を予め借り切って、護衛に警備をさせて怪しい人間を近付けさせない様にした。それはハクマーバ伯爵領での様に、ミリが襲撃されない様にする為だ。もちろん宿泊費も全てバル持ちだ。

 ミリは途中で行商をしながらコーカデス領を目指す積もりだったが、それもバルに止められた。こちらは馬車を使わずに騎馬で往復する事で、ミリの移動に掛かる日数を減らす為だった。



 ミリがコーカデス領に入ると、領境でレントが待っていた。


「ようこそおいで下さいました、ミリ様」

「お久しぶりです、レント殿。わざわざお出迎え頂き、ありがとうございます」

「いいえ。ミリ様の御両親には王都まで迎えに行くと約束をして置きながら、反故にしてしまい、大変申し訳ございませんでした」

「いいえ。それはこちらの都合もありましたので」


 バルの警護案を受け入れるしかないと分かった時点で、ミリはレントに迎えは不要との連絡をしていた。レントが王都まで来るとなると警護の予定も狂うので、レントが迎えに来ない方が良いとバルも言っていたが、さすがにその事まではミリはレントには伝えていない。


「それに本来でしたら、我が家にご滞在頂くべきところですが、それも叶わず、誠に申し訳ございません」

「いいえ。それも我が家の都合ですので、こちらこそ我が儘を申しまして、申し訳ありません」


 バルはコーカデス領都の宿も一軒借り切っていた。護衛も充分に送り込んであり、ミリが泊まる宿の周囲はしばらく前から物々しい雰囲気に包まれている。


「取り敢えず、わたくしも宿まで同行させて下さい」

「はい。よろしくお願いします」


 ミリの会釈にレントは「畏まりました」と腰を折った。



 宿に入るとミリは侍女に談話室を手配させた。


「コーカデス殿と話をしますので、皆さんは外で待機をして下さい」

「いえ、ミリ様!その様な事はお止め下さい」

「護衛が付かないなど、わたくし達がバル様に咎めを受けます」

「大丈夫です。王太子殿下からの要請でコーカデス殿と話すのです。父も咎める事は出来ません」

「その話は伺ってはおりますが、しかし、万が一の事がありましたら」

「レント殿」

「はい、ミリ様」

「少しだけ、お待ち頂けますか?」

「はい」


 肯くレントに肯き返して、ミリは自分の護衛達を連れて、レントの傍を離れた。

 レントに声が届かない位置まで移動して、ミリは護衛隊長を見上げる。


「私とコーカデス殿。どちらが強いと思いますか?」


 レントはミリより小さく細い。


「それは、単純な力でしたら、ミリ様だとは思いますが」

「技ではコーカデス殿に負けると?」

「いえ。ですがそう言う事ではありません」

「そうです、ミリ様」


 侍女も口を挟む。


「貴族の御令嬢が男性と二人きりになるなど、許されません」

「ですが、私はいずれ平民になります」

「いいえ、ミリ様。ミリ様は貴族令嬢としての厳しい教育を受けていらっしゃったではございませんか?」

「それは関係ありません。父は私を嫁に出さないと言っています。それは知っていますね?」

「それは、はい」

「そしてコードナ侯爵閣下が爵位をラゴ伯父様に譲れば、私の身分は平民と変わらなくなります」

「それも存じておりますけれど、そう言う事ではございません」

「いいえ。そもそも嫁に行かないのでしたら、醜聞を気にする必要はないのですから、男性と二人きりになっても」

「その様な訳はございません!」

「それでは何の為だと言うのですか?」

「その様な醜聞、コードナ侯爵家の体面に傷が付きます」

「それは、本気で仰っているのですか?」


 ミリは侍女を見詰めた。侍女は一瞬怯んだが、気持ちを立て直してミリに言い返す。


「本気でございます」

「あなたは私の出自を知りませんか?」


 そのミリの問いに侍女は言葉を返せなかった。周囲を囲む護衛達も息を飲む。


「私は両親に感謝をしていますが、出自に瑕疵を持つのは事実です」

「しかし・・・」


 侍女は言葉を続けられない。ミリはふっと息を抜いて微笑んだ。


「私は自分を卑下したりはしません。それは両親や親族や周囲の(かた)達に大切に育てて頂いた自覚があるからです」

「ミリ様」

「ですが、将来不要になる事の為に、今やらなければいけない事を行わない事は出来ません」

「不要というのは、貴族として振る舞いでしょうか?」

「振る舞いではありません。私は父の娘である限り、貴族籍を抜けてからも、貴族家の娘として振る舞う積もりです。そうではなく、不要になるのは、枷、箍、埒、そう言ったものでしょうか」

「埒を外す事は貴族としての振る舞いを逸脱するのではないでしょうか?」

「非常時ならその限りではありません」

「非常時、ですか?」

「もし暴徒に襲われて、男性の護衛しか傍にいなければ、その男性と二人でどこかに隠れる事もあるでしょう」

「それはそうですが、その様な特殊な例を持ち出されても困ります」

「ですが、王太子殿下に要請を受けたと言う事は、非常事態ではありますよね?」

「え?」

「それに背く事は、それこそコードナ侯爵家の傷となりますし、両親にも迷惑を掛けます」


 ソロン王太子を持ち出されては、侍女も護衛達も反論が出来なかった。


「この様な話は王都を出発する前に、両親のいる前で済ませて置くべきでしたね。ごめんなさい」

「そんな!」

「ミリ様!」


 ミリが頭を下げるので、侍女も護衛達も慌てた。


「ですが今から連絡をして貰って、両親も納得する事を確認して貰っている時間はありません。それなので、このまま、コーカデス殿と二人きりで話をさせて頂きます」


 侍女は眉間に皺を寄せて口角を下げ、ミリの言葉には返事を返せなかった。その様子を見て護衛隊長が代わりに応える。


「分かりました」


 そう言う護衛隊長を見る侍女の顔は、崩れそうになる表情を懸命に(こら)えているものだった。


「しかしミリ様。コーカデス様には、武器を持っていないかどうか、身体検査を受けて頂きます」

「それは私からお願いしてみましょう」


 そう言ってミリが微笑むので、護衛達はふっと肩の力を抜き、侍女も諦めて項垂れる様に肯いた。


 ただしレントに身体検査を受けさせるのと引き換えに、自分も身体検査を受けるとミリが言った事でまた揉める。

 コーカデス家からは女性の従者を連れて来ていないからと言って、レントがミリの身体検査は不要とした事で、二人はやっと二人きりで話をする事が出来た。


 そして、身体検査をしてもしなくても、素手同士でさえミリにはまだ勝てないだろうと思えてしまい、レントはほんの少しやさぐれた。

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