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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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口外無用と要請

「お祖父様、お祖母様」

「ああ」

「何かしら」


 二人を交互に見てのレントの呼び掛けに、祖父リートは小さく肯き、祖母セリは小首を傾げる。


「わたくしの話を一通り、先ずは聞いて頂けますか?」

「ええ、良いわよ?」

「ああ、もちろんだ。聞こう」

「わたくしは王都で、王太子殿下にお目に掛かりました」

「まあ?!」

「本当か?!」


 セリはレントの両手を掴んで持ち上げ、リートはテーブルに体を乗り出した。


「素敵じゃない?」

「どこでお目に掛かったのだ?」

「いえ、お祖父様、お祖母様、お待ち下さい。先ずはわたくしに話をさせて下さい」

「え?でも?」

「あ、ああ、そうだな。続けてくれ」


 レントの表情から真面目な話、つまりは脱税に絡む話ではないかと感じたリートは、レントに話の先を促す。


「え?でもリート?」

「セリ。取り敢えず、レントの話を聞こう」

「ありがとうございます」

「ああ。さあ、続けて」

「はい。王太子殿下にお目に掛かり、わたくしは王太子殿下から依頼を受けました」

「え?素晴らしいじゃない!」

「いや、セリ、待て」

「え?素晴らしいでしょう?」

「いや、そうだが、取り敢えず、レントの話を聞こうではないか?」

「あ、そうよね。それで?レント?何を依頼されたの?」

「それについては、口外無用とされています」

「え?どう言う事なの?」

「何を依頼されたのかも、それが何故口外無用なのかも、お二人にはお伝えする事が出来ません」

「え?何故なの?」

「何故なのかも、です。お祖母様」

「今は聞けないと言う事か」

「それも答えられません」

「え?何故なの?」

「まあ、いつまでかが分かると、何の事なのか推測出来る事もあるからな」

「つまり、いつか何かが行われると言う事なの?」

「時期を決めて行うものかどうかも推測させない様に、何も答えられないのだろう」

「そう。そう言う事なのね」

「それで?レント?話は続くのか?」

「はい。それに関して、王都と手紙の遣り取りを行います。その手紙の中身は確認しない様にして下さい」

「そう言う事か」

「確認しない様にって言われても、困るわよね?」

「こちらが王太子殿下から我が家に対しての要請書になります」


 レントはソロン王太子から渡された封筒と、ペーパーナイフをテーブルに置く。それを受け取ってリートが封を切った。


「うん?」

「どうしたの?」


 中を読んだリートの眉間に深い溝が出来る。セリに問われてリートはソロン王太子の要請書をセリに手渡した。


「何でなの?何でミリの名前が載っているの?」

「ミリ・コードナ様も王太子殿下からの依頼を受けているからです」

「そんな!レントの名誉に便乗する気なのね!」

「え?」

「レントの手柄を横取りする気なのよ!」

「いいえ、お祖母様、ミリ様に依頼したのは王太子殿下ですので」

「それならレントの功績を邪魔する積もりでしょう!」

「いえ、何故ですか?違いますよ、お祖母様?」

「そうでなければ、これを機会にコーカデスに攻撃を仕掛けて来る積もりなのだわ!」

「いいえ、お祖母様。これはソロン王太子殿下のお望みで、ソロン王太子殿下の依頼先としてわたくしとミリ様が選ばれたのです。ミリ様もわたくしと同じ様に、ソロン王太子殿下に協力するだけなのですから」

「そんな事言っても、向こうはどの様なつもりか分からないではないですか?!」

「そうではありますが、王太子殿下が何をなさるか、わたくしがどの様な役目を果たすのか、それは一切口外出来ません。それなので、わたくしにはこの件では、功績を一切誇れませんし、名誉も一切授かれません」

「そんな・・・名誉な事ではないの?」

「それも口には出来ません」

「コードナは?コードナも名誉も功績も口に出来ないの?」

「はい。ミリ様はわたくしと同じ立場ですので」


 そう口にして、今回の件ではミリに何のメリットもない事に、レントは今更ながら気が付いた。


「ミリではなく、コードナ家はどうなの?」

「ミリ様も口外無用を命じられていますので、コードナ家も協力したりは出来ません」


 ミリがコードナ家の人々に対してどうするのかは、レントは聞いていない。しかしレントは自分の推測を確定事項の様に断言した。「かも知れない」と言うとセリが疑いを挟むかと思ったからだ。


「そう。それなら、仕方ないけれど」

「ですので、ソロン王太子殿下と王宮とミリ・コードナ様からの手紙は、開封せずにわたくしにお渡し下さい」

「ミリからのもなの?」

「はい」

「今も文通しているのに?」

「え?はい。そうですが、それが何か?」

「今まで通りの文通の手紙も、開封出来ないの?」

「はい。そうして頂きます」


 レントは「そうして下さい」とお願いしそうになったけれど、ここも断言をする事にした。

 リートが「ふう」と息を()く。


「王太子殿下の要請とあらば、仕方ないな」

「それはそうですけれど」

「見てしまった事で、レントが不利な立場に立たされても困る」

「ええ、確かに、ミリが罠を仕掛けて来るかも知れませんものね」


 レントはそんな事はないとミリを庇いたいけれど、ミリ個人を知らないセリを説得出来る気はしなかった。それよりも次の件を二人に伝える事をレントは優先した。


「そして近い内に、ミリ・コードナ様がコーカデス領にいらっしゃいます」

「なに?」

「それは、王太子殿下のご依頼で?」

「それは申せません」

「私は会いませんよ」


 セリはそう言い切って立ち上がる。


「何をしに来るのか分かりませんけれど、あの悪魔の娘など、絶対に邸には近寄らせないでちょうだい」

「え?ですがお祖母様?」

「良いですね?レント。王太子殿下のご命令には反しないでしょう?」

「それはそうですが、しかしわたくしは王都でコードナ家の方々に温かく接して頂きました」

「何を言っているのですか?そんなのは何らかの魂胆があるに決まっています」

「ですがお祖母様?」

「あなたは曾お祖父様が、どんな目に遭わされたのか、忘れたのですか?」

「・・・いいえ」


 レントの曾祖父ガットが、宰相に怪我をさせ王冠を傷付けた件は、ミリの母ラーラの仕業だとレントはセリとリートに教わっていた。しかしその現場に居合わせたレントの叔母リリからは、事故だったと聞いている。

 レントは、感情的にラーラを責める話より、淡々と状況を説明される話の方が信用出来ると思っていた。そしてミリと出会ってからは、事故だと言う事を信じていた。

 それなのでこれもセリには反論したいが、これこそ反論しても納得をさせる目処が立たないとレントは思っている。


「ソウサ商会ともグルになって、我が領を罠に嵌めて、その為にお祖父様がどれ程苦しまれたか、レント?その事も知っていますよね?」

「・・・はい」

「人材だって、コードナ領に多く盗られたのです。我が領の利益を掠め取っただけではないのですよ?」

「セリ、その辺にして置け」

「ですけれどリート」

「レントだってそれは分かっている」

「分かってはいませんよ。コードナ家の人間が、レントに優しくする筈がないでしょう?」

「まあ、あいつらも反省をしたのかも知れんし」

「その様な訳はありません。反省をしたなら、先ずは謝罪に来る筈です」

「ミリは我々に謝罪に来るのかも知れんだろう?」

「謝ったって許すものですか」

「まあ、そうだがな」


 そつ言うとリートも立ち上がった。レントも合わせる様に立ち上がる。


「とにかくレント!私は絶対にミリには会いませんからね?!」

「分かりました。お祖母様」

「私も遠慮させて貰おう」

「はい、お祖父様」


 居室を後にするセリとリートの後ろ姿を見送ると、レントは顔を伏せて深い溜め息を()いた。

 その溜め息には、リートとセリの態度に対しての諦めも含んでいたけれど、ミリが訪ねて来ても二人が会わないと言うならトラブルも起こらないと思える安堵も少なくはなかった。

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