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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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心配前提

 夕食の後、居室でお茶を三人で飲む。

 いつもとは違って、レントの祖母セリは、レントを自分と同じソファに座らせた。

 レントは少し戸惑ったが、レントの祖父リートは苦笑いを僅かに零しただけで、二人の前に腰を下ろす。



「帰郷が遅れるなんて、とても心配したのですから」

「申し訳ありませんでした」


 レントはそうセリに返しながら、リートの様子を窺った。

 リートには脱税の件の口止めを手紙で伝えた。ただし既にリートからセリに話してしまっているかも知れない。その辺りの状況を確認できないまま、こうやってセリの隣にレントは座らせられている。


 リートにはソロン王太子から依頼があった事を伝える積もりでレントはいた。ソロン王太子とミリと遣り取りする手紙を検閲なしとして貰う為には、依頼があったこと自体だけはリートに伝えて置く必要がある。

 叔母リリにはソロン王太子からの依頼の件は伝えない。ソロン王太子から手紙が来ても、その事がリリの耳に入る事はないだろう。それなのでレントは、リリに余計な心配をさせない為にも、全ての片が付いても脱税の件に関する話題は、リリには一切伝える積もりはなかった。

 しかしセリにはどうするべきか。セリがレントを心配する事はリリと比べるまでもないだろう。しかしレントの手紙はセリも検閲をしている。検閲を()めて貰う為には理由が必要だ。ソロン王太子からの依頼がある事を話さない場合には、どうすればセリを納得させる事が出来るのか、レントには想定が出来ていなかった。


 リートの命令で使用人が下がるのを待って、セリが続きを口にした。


「あなたは帰らないし、スルトも帰って来ないしで、どうしようかと思いましたよ」


 そう言うとセリはレントの手を握った。レントも祖母の手を握り返す。


「父上はいかがなさったのですか?」

「知りませんよ」

「え?連絡もないのですか?」

「ありません」


 レントはレントの父スルトが行方不明なのかと慌てた。その様子を見てリートが手を前に出し、扇ぐ様に手のひらを上下に小さく振って見せる。


「落ち着け、レント。大丈夫だ。スルトとは連絡が取れている」

「あ、はい。そうなのですね?」


 立ち上がりそうになって、無意識に入っていた脚の力をレントは抜いた。

 セリは口角を下げてリートに言い返す。


「自分では連絡して来ないから、こちらから探したのではないですか」

「それでも居場所は分かっただろう?」

「父上に何かトラブルでもあったのですか?」

「いや、トラブルと言う訳ではないのだが、レントが王都に行っていただろう?」

「はい」

「それなのでスルトが前回帰って来た時は、レントの手伝いがなかったから邸での書類仕事にかなりの時間が掛かって、視察に出るのが予定より遅れたのだ」


 リートは渋い表情でそう告げた。

 レントの眉根が寄る。


「そうなのですか」

「普段からレントに任せきりで、サボっているからですよ」


 セリも眉間に皺を寄せた。リートの眉間の皺も深くなる。


「以前はスルト一人で出来ていた筈なのだがな」

「すっかりレントに頼り切って、怠ける様になってしまって」


 自分が補佐を始めたからスルトが怠けると言われて、レントは心苦しかった。しかしここでセリやリートに謝ったりすれば、話が逸れて長くなる。それが分かっているのでレントは、目立たない様に奥歯を噛み締めて、自分の気持ちを落ち着けさせようとする。


「視察に出るのが遅れて、領地を一回りするともう、次の視察の予定に入っていた。詰まり、続けて視察を行った為に、邸に帰れなかっただけだ」

「仕事が溜まっているのだから、遊び半分の視察なんて、行かなければ良いのですよ」


 リートの意見に「なるほど」と相槌を打とうとしたが、直ぐにセリの言葉が続いてそちらに相槌を打ちそうになって、レントは言葉を飲み込んだ。


「レント」

「はい、お祖母様」


 レントは下がっていた視線を上げて、隣に座るセリを見る。


「あなたは王都から帰ったばかりなのですから、しばらくは視察に行ったりしてはいけませんよ」


 セリの言葉にレントは目を少し見開く。その二人の様子を見たリートは目を瞑ると、首を小さく左右に振った。


「え?何故なのですか?」

「何故って、今日だって疲れているのでしょう?」


 セリは手を伸ばし、レントの髪を撫でる。


「帰ってきてから一休みさせて頂きましたし、その様な事はありません」


 レントのその言葉に、セリは小さく何度も首を振りながら「いいえ」と否定した。


「レントは元気がないではありませんか」

「え?そうでしょうか?」

「そうですよ。自分で分からないの?」


 セリはそう言って小首を傾げる。レントも釣られた様に小首を傾げた。


「特に疲れては」

「自分で分からないなんて、ますます視察には行かせられませんね」


 レントの頭から手を離すと、セリは姿勢を正してそう宣告する。


「え?お祖母様?何故その様な結論になるのですか?」

「まあ?何故か分からないの?賢いあなたが?」

「セリ、少し待ちなさい」


 セリの言葉に困惑するレントを助ける様に、リートが口を挟む。


「何ですか?リート?」

「まあ、待ってくれ、セリ。レント?」

「はい、お祖父様」

「セリには王都の話をする積もりなのか?」


 リートに言葉を返したのはセリだった。


「当然ではありませんか。コードナがレントに何をしたのか、話を聞かなければならないでしょう?」

「それもあるかも知れないが、セリ?先にレントの話を聞かないか?」

「先でも後でも、もうレントには視察なんて行かせませんよ?」


 短時間の内に、しばらく行かせないが、もう行かせないになっていた。

 しかしレントは、口止めした脱税の事をセリに話すかどうかをレントに決めさせようとリートがしている事に気を取られて、それには気付いていなかった。


 今後も何かと説明や言い訳やあるいは辻褄合わせが必要になるくらいなら、セリにもソロン王太子からの依頼の事を話そうとレントは決心をする。セリから更に心配をされる覚悟をレントは決めたのだった。

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