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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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買います、食べます

 ミリが剣呑な雰囲気を醸し出した為、ミリと船員との会話が分からないミリの護衛達は、緊張を顕わにした。それに釣られてレントの護衛も警戒度を高める。

 それに気付いたミリは、護衛達を振り返った。


「大丈夫です。落ち着いて。コーカデス殿の護衛の方達も、大丈夫ですから」


 微笑みを浮かべた顔を周囲の人達にミリは見せる。そのミリと目が合った時に、レントが話し掛けた。


「ミリ様?どの様な話をなさっていらっしゃったのか、教えて頂けませんか?」


 レントにそう乞われて、ミリは船の食料責任者のラッカがまた何か言う前にと、急いで言い訳を口にする。


「食べた事もないし味も分からないしで、干物を売ろうとしているのかとラッカさんに言われて、言い返せなかっただけですから」


 ミリのレントへの説明に、ミリの言葉が聞き取れたラッカが口を挟む。


「その話じゃないだろう?」


 ミリは顔だけラッカに向けた。


「良いのよ」

「なんでだよ?」


 ラッカの言葉をスルーして、ミリはレントに向き直る。


「食べるなら売るとラッカさんに言われて、少し揉めたのです」

「こちら、売って頂けるのですか?」


 レントの顔に、驚きと喜びが浮かんだ。レントが喜ぶ事に少し戸惑って、ミリはぎこちなく肯く。


「え?ええ。良いのよね?ラッカさん?」

「食べるならな。食べないんじゃダメだ」

「良いじゃない。見本にするだけなんだから、食べなくても」

「あの、どうしました?」


 ミリとラッカの語調が荒くなった気がして、レントが口を挟んだ。


「こちらの干物は、売って頂けると言う事で、良いのでしょうか?」

「食べるならな」

「それが、食べないのなら売らないと言っていまして」

「あの・・・」

「はい?」


 レントはミリに一歩近付いて顔も近付け、「食べますので、ご内密に」と囁いた。


「え?!」

「なに?!」


 レントの「食べます」の言葉に、ミリも声が聞こえたラッカも驚く。


「わたくしの護衛達は、わたくしが干物を食べる事を知っておりますので大丈夫なのですが、コードナ家の方達には、ご内密に願えないでしょうか?」


 そうはにかんだ様に言うレントに、ミリはまたぎこちなく肯いて返した。


「え、ええ。それは、構いませんが、レント殿?食べると仰いましたか?」

「はい」


 レントはまたはにかんだ様な表情で、小さく肯く。


「レント殿は魚を食べるのですか?」

「はい」


 もう一つ肯いて、レントの顔が少しずつ伏せられていっていた。

 それを見聞きしていたラッカが、眉間に皺を寄せながらミリに訪ねる。


「おい、ミリ?こいつはなんて言ったんだ?」

「なんてって」


 ミリはレントの言葉が直ぐには信じられず、ラッカの問いに言い淀んだ。


「俺には魚を食べるって聞こえたけど、違うよな?」

「ううん。魚を食べるって」

「大丈夫なのか?庶民でもこの国では食べないんだろう?」

「そうね。一般的ではないけど」

「こいつ、貴族なんだよな?」

「ええ」

「いや、無理だろう?」

「ううん。食べた事があるみたいよ?」

「まさか?ウソだろう?」


 ミリは自分の護衛達を振り返った。


「この場の事は他言無用でお願いします。よろしいですね?」


 護衛達が肯くのに肯き返して、ミリはレントを向く。


「レント殿は、魚を食べた事が、あるのですね?」


 一言一言、確認する様に言葉にするミリの様子が、レントはなんだかおかしく思えて来た。

 慌てている様に見えるミリの姿を目にして、レントの心の中の負けん気の部分が満たされていく。


「はい。煮干しと干物を食べた事があります」


 そのレントの言葉に対しての、ミリとラッカの表情に、レントは笑いそうになるのを堪えた。


「おい、ミリ?こいつは煮干しと干物を食べた事があるって言ったのか?」

「ええ」

「干物はわたくしの好物です」


 二人の様子にレントは調子に乗って、そう言ってみる。


「おい、ミリ?こいつは干物が好物だと言ったのか?」

「ええ」

「今回、干物を領地の特産品として復活させようと思ったのも、その美味しさを知ったからなのです」

「おい、ミリ?」

「干物が美味しいから、特産品として復活させようとしてるんだって」

「いや、マジか?この国で?」

「ええ」

「それなので、これらの干物を売って下さい」

「ラッカさん?どうする?」


 ラッカはレントを見る目を細めた。眉間にも皺が寄る。


「俺の目の前で食べるなら、くれてやる」

「ラッカさんの見ている前で食べるなら、くれてやる?くれてやるって、タダでコーカデス様にあげるって事?」

「ああ」

「これ全部?」

「一つでも食べられたら、全部くれてやる。本当に食べられるんだったらな」

「どれか一つ食べられたなら、ここにある残りも全てレント殿に差し上げるそうです」

「頂ける?無料でですか?」

「はい」

「ありがとうございます!」


 そう言ってレントはラッカの両手を握った。


「いや、まだ、食べてからだって」


 焦った表情でそう返すラッカの両手をレントは上下に振る。レントのその喜んでいる様子をミリは驚きながら見ていた。


「あの、レント殿?」

「何でしょうか?ミリ様?」

「本当に、召し上がるのですか?」

「はい。頂きます」


 そのレントの明るい表情を見て、ミリはレントが本気なのだと、やっと思えた。

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