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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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王都に留まるレント

 レントはソロン王太子に待機を命じられ、コーカデス領に帰らずに王都に(とど)まっていた。

 ソロン王太子や王宮から、どの様な問い合わせや答えが返されるのかと心配しながら、レントはずっと宿の一室に籠もっている。

 取り敢えず祖父リートと父スルトには、脱税の件は他言無用との連絡は送っていた。元王女チリンにも礼状は出した。しかし他の事は何もしていない。王都観光をする気にもなれないし、訪ねる事が出来る相手も王都にはいない。レントが王都で唯一人交流があるミリは、コーカデス領を訪れる準備の為に忙しい筈だ。

 ソロン王太子に対策の進み具合を尋ねたいが、その様な事は許されないと思える。

 それなので、レントは宿から出る事もなく、ただ部屋でソロン王太子からの連絡を待っていた。



 そのレントにミリが宿を訪ねる。


「レント殿」

「はい、ミリ様」

「一緒に港町に行きませんか?」

「港町に、観光でしょうか?」

「いま、親しい船が港に停泊しています。その船員達に、干し魚の事を訊いてみませんか?」

「それは是非!お願いします!」

「はい」

「あ!ですがしかし、王太子殿下より連絡を頂くかも知れませんので、わたくしは宿を離れる訳にはいかないかと」

「宿の人に伝言を頼めばいかがですか?急ぎの連絡なら、港町のソウサ商会の店舗に連絡をして頂ければ、私達に繋がる様にして置けば問題はありません」

「いえ、ですが、王太子殿下の使者の方を港町に向かわせるのは、いかがなものなのでしょう?」

「レント殿」

「はい、ミリ様」

「王太子殿下が命じたのは王都での待機ですよね?」

「はい」

「王太子殿下もまさかレント殿が、宿を一歩も出ずに連絡を待っているとは思ってはいませんよ」

「いえ、そうでしょうか?」

「ええ。レント殿が王都にいれば、翌日には連絡が付くでしょう?その程度のスピード感覚で、王太子殿下は王都待機を命じた筈です。そうでなければレント殿には、王宮に留まる様にと命じた筈ですから」

「なるほど」

「と言う事で、レント殿?港町に行ってみませんか?」

「はい、ミリ様。申し訳ありませんが、ご案内頂けますよう、お願い致します」

「はい」


 そう言って微笑むミリに、レントも笑顔を返した。



 港町に着いて、賑やかな雰囲気にレントは圧倒されていた。その様子を見たミリは、心配をしながらレントに声を掛ける。


「レント殿?大丈夫ですか?」

「あ、はい。人出がとても多いですし、とても活気があるのですね。驚きました」

「王都の復興が進んで、この港町にも活気が戻って来ているそうです。昔を知っている方達は、賑やかさが戻って来ていると言って、喜んでいますね」

「そうなのですね」

「船の周りはもう少し落ち着いていますから、先に進みましょう」

「はい」


 そう肯くレントに笑顔を返して、ミリは道を先導した。



 道を進みながらも、船員達が度々ミリに声を掛ける。ミリは言葉を返しながら、足を止めずに行き過ぎる。

 何と言っているのかレントには分からなかったが、港町に着いてからミリが他国の言葉を複数使い分けている事を感じ取って、レントの負けん気にジリジリと火が付き掛かっていた。



 一隻の船の傍にいた二人の人物が、ミリに向かって手を挙げた。ミリも手を振って返して応えてから、レントを振り向いた。


「あの人達がそうです」


 そう言ってミリはレントに二人を手で示すと、二人に顔を向け直してからまた手を振った。


「ミリ!久し振りだな!」

「こんにちは、船長、ラッカさん」

「ああ、久し振り、ミリ。随分と大人っぽくなったんじゃないか?」

「ますますラーラに似てきたな?」

「船長?ラーラ様だろ?」

「あ、そうだな。ラーラ様だった」

「急にごめんね?」

「いいや、ミリならいつでも歓迎だ。あ!ミリ様か」

「ミリで良いから」

「そうか。ミリ?もっと顔を出せよ」

「ごめんね?」

「ラーラ様は俺達が寄港する度に、会いに来てくれてたぞ?」

「ラーラ様が商家の娘の頃だろ?貴族様はそうはいかないだろ?」

「まあ、そりゃそうなんだろうけど」

「ごめんごめん」

「それで?そっちの少年がそうなのか?」

「うん。紹介させて」


 ミリはレントを振り向いた。


「レント殿。ご紹介します。こちらの船のワ船長と、食料責任者のラッカ殿です」

「本日はよろしくお願いします、ワ船長、ラッカ殿」


 レントは胸に手を当てて、二人に向けて会釈をする。


「船長、ラッカさん、こちらがコーカデス様。本日はよろしくお願いしますだって」

「それなんだが、ミリ?コーカデスってラーラ様を罠に嵌めたあのコーカデスじゃないのか?」

「お母様の誘拐に関わったのではないかとされているコーカデス家の人ではあるけど、その時コーカデス様はまだ生まれてなかったわ」

「いや、そりゃそうだろう?ミリより小っちゃいんだし、それは分かるさ」

「でもな?ミリ?コーカデスと一緒にいて、ラーラ様やバル様は何も言わないのか?」

「今回の干し魚の件は、母がコーカデス様を手助けする様にって、私に命じたの」

「え?ラーラ様が?」

「ラーラ様が?ホントに?」

「うん。何だったら母に連絡取って、確認させようか?」

「いや、まあ、ミリがそう言うなら信じるが」

「じゃあ、バル様も同意してるんだな?」

「うん」

「それなら、まあ、良いか」

「ああ、仕方ないな」

「納得してくれた?」

「ああ」

「取り敢えずな」

「それならちゃんと、コーカデス様に挨拶をしてよ?」

「ああ。船長のワです」

「食料の責任者を務めるラッカです」


 二人も胸に手を当てて、レントに向けて会釈した。

 ミリと二人の遣り取りの間に、二人から鋭い視線を向けられたりしたレントは、ミリ達三人の会話の内容が分からない為、今日の話がどうなるのか心配していた。

 取り敢えず、船長のワと食料責任者のラッカが挨拶を返したので、レントはホッと息を吐いた。


「それじゃあ俺は席を外すが、後はラッカに任せてあるから」

「うん。忙しいとこ、ありがとう、船長」

「良いって。その代わり、もっと顔出せよ?」

「うん。暇を作って寄る様にするから」

「大人みたいなセリフだな?」


 ワはそう言って笑い、ラッカとミリも笑顔を浮かべて、三人で笑い合う。

 レントはその言葉の分からない遣り取りに、微笑みを浮かべた顔を向けていた。

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