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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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対応案と抜け穴

 法を曲げるとのレントの意見に、ソロン王太子は「なるほど」と肯いた。


「それはコーカデス伯爵領だけかい?他の領地はどうする?」

「他領も今日時点で比率を固定する事としたらいかがでしょうか?」


 ソロン王太子は首を左右に小さく降る。


「コーカデス伯爵領を助ける為に、他領にも手心を加えると言うのは、国としては飲めない要求かな?」

「手心とはなりますが、秘密裏の調査やその後の公開調査が完了した後に、秘密裏の調査の結果として該当がないと報告して来た領地にも、後から改めて国主導の調査を行う事にするのはいかがでしょうか?」


 レントの言葉にソロン王太子は小首を傾げた。


「そうしてどうするのかな?」

「はい。国主導の追加調査で脱税が見付かった場合には、法規通りの追徴金を徴収しますし、領主にも秘密調査でも見逃した責任も問うとする事で、より正確な調査が自発的に行われるのではないでしょうか?」


 ソロン王太子は再び「なるほど」と肯く。


「後の調査を厳しく行う為の理由として、最初の調査では罰を弱めると言う意味かな?」

「はい。仰る通りです」

「それでも、法を曲げる為の根拠としては弱い」

「・・・はい」


 レントは視線を下げて、理由とする事が出来る考えが、他に何かないかを考える。

 ミリはそのレントの姿を見詰めていた。


 ミリは、後から厳しく実施する為に、今を手加減させると言うレントのアイデアに、とても驚いていた。

 考えてみれば商品を売る時も、今だけお買い得、と言う様な売り文句を使う事はある。それはミリも知ってはいたけれど、ソウサ商会の流儀には反するので、自分には思い付く事は無かっただろうとミリは思った。

 文通を通してレントの事を理解している様に思ってはいたが、まだほんの一面しか知らないのだろうな、とミリは納得する。そしてレントの知らなかった面を見る事が出来た様に思えて、ミリはなんとなく嬉しかった。


 そのミリの雰囲気が和らいだ様子にソロン王太子が気付く。


「ミリ殿」

「はい、王太子殿下」

「もしかしたら、何かアイデアを思い付いたのかな?」


 違う事を考えていたとは言えずに、ミリは思い付きを口にしてみる事にした。


「納税不足分を投資としてはいかがでしょうか?」


 ミリの言葉にソロン王太子の眉根が寄る。


「投資?投資した事にして、どうするのかな?」

「はい。国や領地からの投資ではなく、領主本人や周囲の人間からの個人的な投資と言う事にします。投資ですから納税は利益が出てから。まだ利益が出ていないので、納税していない事にする事は出来るかと存じます」


 ソロン王太子の目が細まる。


「個人が農地の開拓や、塩や酒などの商品の開発をしていた事にすると言うのだね?」

「はい」

「その投資からまだ利益が出ていないから、納税してはいないと」

「はい」

「人頭税を支払っていない者達はどうするのかな?」

「そちらに付いては手続きの不備扱いとして、改めて収税すればよろしいかと考えます」

「不備と言う事は、追徴金なしと言う事かい?」

「はい」

「なるほど。個人からの投資と言う事にするのは何故だい?」

「国や領地からですと、帳簿に記載されている必要があります。脱税が始まった時まで遡って帳簿を修正するのは手間ですが、ごく個人的な投資と言う扱いにすれば、利益が発生した時に申告すれば済みますので、投資開始時期は明示せずに済みます」


 ソロン王太子はふうっと深く息を吐いた。


「それも法を曲げる事になるね」

「いいえ」


 ミリの返しにソロン王太子の目が開く。


「利益発生時に正しく納税しますので、合法です」

「いやいや、身代わり納税に当たるではないか?」

「いいえ。投資をした者が配当を受け取って、それを利益として計上するのですから、一般的な会計処理と同じとなり、合法です」

「・・・本当に?」

「はい」


 自信を持ってそう答えるミリの姿に、ソロン王太子は片手で口を押さえて考え込んだ。


 しばらくして、「確かに」とソロン王太子が呟く。


「しかしそれは、法の抜け穴を使う事になる」

「はい」

「え?はい?分かっていたのかい?」

「そうですね。税率の低い者が代わりに納税する事も出来るのは、まさに身代わり納税ですし、抜け穴だとは思っておりました」

「知っていて黙っていたのかい?」

「知ってはおりましたが、黙っていたと言う認識ではございません」

「ソウサ商会の人も知っているのかな?」

「知ってはいるかと考えますが、確認は取っておりません」

「もしかして、誰かに教わったとかではなくて、ミリ殿が自分で気付いたのかい?」

「はい。ソウサ商会を広域事業者特別税の対象としている領地に、ミリ商会として商談に伺いましたので、その際の予算算出時に気付きました」

「なるほど」

「そしてこの穴を塞ぐ事を併せて広報します事で、コーカデス伯爵領と同様な問題がないかに付いて、迅速に自領の調査をして頂けるのではないでしょうか?」

「そう言う事か。いついつに穴を塞ぐから、それまでに調査をする様に、との事だね?」

「はい」


 ミリは思い付きを口にしていたけれど、説明しながら、この方法で上手くいくかも知れないと思い始めていた。


 ソロン王太子は「分かった」と言いながら、ミリとレントを見る。


「今日の話を文官達に伝えて、対応を検討させる」


 ミリとレントは「はい」と声を揃えたが、レントはその後に小首を傾げた。


「あの、王太子殿下?」

「なんだい?レント殿?」

「領主の皆様には、どの様な手段を使って周知をするのですか?」

「それは普段通りに、手紙を送るとかだとは思うが、何か気になるのかな?」

「はい。コーカデス伯爵領は流通が滞る事がございまして、手紙が届くのが遅れたりしております。調査を始めた領地と、まだ手紙を受け取っていない領地が出ますと、その隙を縫って証拠隠滅を謀られたりはしないでしょうか?」

「なるほど。レント殿には対策案はあるかな?」

「国王陛下の御前に領主を集めて、一度に公表するのではいかがでしょうか?」

「そうだな。昔は領主や全権代理が王都にいたからそれが出来たが、それも検討させる事としよう」


 ソロン王太子の応えに、レントは会釈を返す。

 二人の様子を見ていたミリが、ソロン王太子に向けて口を開いた。


「わたくしからもよろしいでしょうか?」

「もちろん。何かな?ミリ殿?」

「この場の話は他言無用との事でしたが、わたくし達はこれから周囲に対してはどの様に振る舞えばよろしいのでしょうか?」

「他言無用を前提にして貰う」

「はい」

「私から依頼がある事は告げても構わない。ただし内容は話せないとして置いてくれ」

「はい」

「その事に付いては直ぐに一筆書くから、それを持って帰って必要なら見せて使ってくれ」

「畏まりました」

「近い内に国王陛下や王宮から、これに関しての広報があるかも知れない。それらも知らない、聞いていないと答える様に」

「はい」

「レント殿も良いかな?」

「はい、王太子殿下。畏まりました」


 二人の応えにソロン王太子は肯いて返す。


「これに関連した連絡は、私から手紙を二人に送る。君達は未成年だから、家族から手紙の内容のチェックをされているのかな?」


 ソロン王太子のその質問に、ミリとレントは「はい」とまた声を揃えた。


「そうしたらそれらは検閲無用とも連絡して置こう。この件で二人が遣り取りする事もあるだろう。その手紙も検閲無用としておくが、悪用しない様に」

「はい」


 レントは笑顔でそう答える。

 しかし、ソロン王太子の表情がまた胡散臭くなった様に思え、それに気を取られたミリは、「はい」との返事が一拍遅れてしまった。

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