調査の公開に付いて
ほんわかした空気を漂わせるソロン王太子とレントの様子を見ながら、ミリは話題が戻るのを待っていた。
今日のこの場ではどうも話題が逸れがちで、その事にミリは心配を感じている。
コーカデス伯爵領での脱税は、それだけでも大きな問題なのに、他領でも同様な状況が発生している可能性があると言う。国の安定を揺るがす大問題に発展するとの話なのに、ソロン王太子とレントの醸している雰囲気が、少し呑気過ぎる様にミリには思えた。
レントはまだ良い。自領の事で精一杯なのだろうし、実際に他領でも脱税が行われていたとしても、レントに出来る事はないかも知れない。少なくとも現時点では、レントから他領へアドバイスを行ったりも出来ないだろう。
しかしソロン王太子は、国レベルの問題を避けてはいられない筈だ。実際には対応を部下に命じるのだとしても、無関係でいられる筈がない。それなのに話題が逸れて行くのは、ソロン王太子の所為の様にミリには感じられていた。
そうは言っても、前提を置く置かないの話になったのは、ミリがレントに対して自分への配慮が不要だと言った事が切っ掛けだった。それなのでミリは、自分が話を戻すのもおかしい気がして、ソロン王太子が話を戻そうとするか、レントが続きを話し出すのを待っていた。
「さて、話を戻すけれど」
ソロン王太子のその言葉に、ミリとレントの「はい」との返事は声が揃った。
「レント殿は更に秘密裏に調査を進めるのか、それとも公開するのか、前提がないとしたら、どちらが良いと思う?」
レントは視線を下げて考えて、結論を出すと顔を上げてソロン王太子に向ける。
「やはり、公開して行った方がよろしいかと考えます」
ソロン王太子はレントに対して肯いたが、しかし質問を口にする。
「それは何故かな?」
「先程も申し上げましたが、これ以上は内密に調査を進める事が、難しいと言う事がございます。わたくしとしましては、ここに持ちました資料が、コーカデス伯爵領に於いての秘密裏調査としては、限界だと考えております」
「なるほど。確かにこの先も内密に調査をするのでは、時間を掛けてもそれほど成果が上がらないのかも知れないだろうしね」
「はい」
「しかし公開してから調査をするとして、一斉には調査を出来ないのではないかい?」
「はい」
「そうすると遅い順番の者達には、脱税の証拠を隠されたり消されたりするのではないかな?」
「それはあるかと考えますが、ミリ殿に提示頂いた方法でしたら、取引相手と話を合わせ、矛盾なく隠すのは難しいのではないでしょうか?」
「確かにそうかもね」
「それに秘密裏に調査を行ったとしても、どこかで調査に気付かれたり、調査している事が漏れたりしますと、秘密裏に進めて時間が掛かる分、証拠を綺麗に隠されるかも知れません」
「それもあるね」
「はい。それと、捜査を公開するのに当たっては、自首を勧めます。取引先が脱税していれば、その相手先も徹底的に調べる事と、自首をして来ればその時点で追徴金の比率を固定する事を併せて周知する事で、取引先より先に自首をした方が得だと考えさせたいと思います」
「なるほど」
「はい」
レントが肯いたので、レントの説明は終わったのだと判断して、ソロン王太子も肯き返した。
そしてソロン王太子はミリを見る。
「ミリ殿はどう思う?」
「はい。わたくしもコーカデス殿の意見に賛成です」
「そうか。理由など、付け加える事はないかな?」
「理由ですと、コーカデス伯爵領での脱税調査が公になる事で、他領でも自発的に調査が始められる可能性が上げられます」
「なるほど、そうだね」
レントが自領の事しか口に出来なかったのに、ミリが他領への影響を考えていた事に対して、またレントの負けん気が刺激された。
ミリが想定内の答えを返した事に、ソロン王太子は肯いたが、「しかし」と言って言葉を続ける。
「その調査が効果を出せるだろうか?」
ソロン王太子の意図が分からず、ミリは小首を傾げた。
「・・・と、仰いますと?」
「コーカデス伯爵領はこのレント殿の調査結果があるので、既に脱税が行われている事が分かっている。それなので公開調査に踏み切っても、脱税している者達は逃げ切れないだろう。その事は公開に当たって周知すれば、観念する者も出て来るだろうし、自首に繋がると思う」
「他領では脱税が行われているかどうか分からないので、そのまま証拠を消されたら調査が難しいと言う事ですか」
「そうだね」
ミリはソロン王太子の話を聞いて、それって前提に当たらないのかな?と考えてみる。
ミリがそちらに気を取られている隙に、レントが「それでは」と発言した。
「他領でも秘密裏に調査を始めさせて、わたくしの調査と同程度の情報が集まった時点で公開する、と言うのはいかがでしょうか?」
「それだと、公開までに日にちが必要になり、追徴金の算出比率が上がるけれど、それは良いのかい?」
「それに付いては、現時点で自首をした事にして頂いて、比率を固定して頂けないかと」
「法を曲げると?」
ソロン王太子にそう言われ、レントは息を飲んだが、ヤケクソに任せて「はい」と肯いた。




