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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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意図を汲むと

 ミリを真面目だと評するソロン王太子の今の言葉は、今の話の流れ的にも、ミリを揶揄っている可能性が高い様にミリには感じられる。何よりソロン王太子の表情が胡散臭い。

 それなので誤魔化す様に、ミリは首を少しだけ傾げるだけの反応を返す。


 応えに詰まった様に見えたミリの様子に小さく肯くと、ソロン王太子はレントに顔を向けた。


「レント殿?」

「はい、王太子殿下」

「レント殿もミリ殿と同じ意見だろうか?」


 レントはミリの提案する調査方法に付いて、ソロン王太子に意見を聞かれるかとは思っていなかった。

 しかし、不敬にも取られないのですから思った事を言っても良いでしょう、と考えて、ミリに向けていた体をソロン王太子に向け直しながら「いいえ」と返し、言葉を続ける。


「王太子殿下がお考えなのは、コードナ侯爵領の資料で学ばせた後に、瑕疵の少ないコーハナル侯爵領の資料を確認させる事なのではないでしょうか」


 レントの応えにソロン王太子は笑顔を見せた。


「そうだ、レント殿、その通りだ」


 ソロン王太子の言葉は褒めたとまでは言えないが、意図を汲めた事は認めて貰えたので、レントは軽く頭を下げた。しかしソロン王太子は「しかし」と言葉を続ける。


「何故レント殿はそう思ったのか、説明して貰えるだろうか?」


 レントは、それは問われますよね、と思いながら、「はい」と肯いて考えを述べる。


「同じ資料を繰り返して使うと、緊張感が保てないと考えます。資料を読み解く事に意識を集中していられなければ、問題が無かったと分かっている部分に付いては、読み流してしまうのではないでしょうか?」

「そうだな。それで?」


 ソロン王太子の「それで?」の言葉に、それでもこれでももうありませんけれど?とレントは思った。チラリとミリを見ると目が合って微笑まれる。その様子から、ミリにはまだ何かしらの意見があるのだと考えると、レントの負けん気が騒ぎ始めた。

 レントは視線を下げて、自分がその状況に置かれた場合の問題点を考えた。

 一つだけ思い付くとレントは視線を上げ、ソロン王太子に顔を向ける。


「読み流してしまう様でしたら、経験にはなりません。ミリ殿が教師役としてその場に同席するのだとしますと、二人分の時間が、無駄とまでは申しませんが、少なくとも時間を有効に使っているとは言えないのではないでしょうか?」

「そうだね、レント殿。その通りだと私も思うよ。良く分かったね?大したものだ」


 ソロン王太子に褒められ、また、レントには固めだったソロン王太子の口調が、ミリに対する時の様に砕けた事に気付いて、レントの胸が熱くなっていく。今度こそ涙が零れそうになった。


「お褒め頂き、光栄にございます」


 頭を下げて顔を伏せ、レントは目を瞑って気持ちを落ち着かせようとする。


「ミリ殿」

「はい、王太子殿下」

「私が何故そうしようと考えたのか、それは分かるかな?」


 そう尋ねて来るソロン王太子の表情が、それほど胡散臭くは無くなっているので、ミリは不思議に思いながら「はい」と肯いて答えた。


「レント殿の意見と重複いたしますが、コーハナル侯爵領の資料から瑕疵が見付けられない事で、手順を辿る(かた)の集中力を高める事を狙い、それを以て手順に対する理解を深めて頂く為でしょうか?」

「そうだね」


 ソロン王太子は肯定を笑みでも示して、言葉を続ける。


「失敗する事で理解できる事もあるから、上手く見付けられない状況を与えれば、手順とか、あるいはそれの元となっている考え方とかと言ったものを見直したり、考え直したりするだろうし、より身に付くと思ったのだよ。どうかな?」

「はい。王太子殿下の仰る意味とレント殿の言葉が、わたくしにも理解できました」


 そう返すミリの様子を見て、ソロン王太子はミリの事を一つ理解できた気がして、満足を感じた。ミリ殿はあまり失敗した事がないのだろう、とソロン王太子は考えたのだ。

 それはそうだ、とソロン王太子は思う。厳しい事で有名だったデドラ・コードナとピナ・コーハナルに教育されたとはいえ、ミリが失敗してばかりだったのなら、これ程の教養や礼儀作法がこの歳で身に付いてはいないだろう。フェリ・ソウサからも商人としての知識を叩き込まれている様子なので、それこそ失敗していられる時間的余裕などミリにはなかった筈だ。

 だからこそ、失敗から学ぶと言う事も知識としては知っている様ではあるけれど、経験した事はそれほどないのだろうな、とソロン王太子は判断した。


 その一方で、ミリと並ぶとアラが見えてしまうけれど、年齢を考えたらしっかりとしていると思えるレントは、失敗から学ぶ経験も積んでいる様だとソロン王太子には思えた。


 周囲はソロン王太子の優秀さを幼い頃から褒めそやしていたが、ソロン王太子は結果を出すのに見合っただけの努力をしていた。もちろん、失敗からも多くを学んでいる。

 そんな自分自身の経験を思い出して、ソロン王太子はレントへの好感度を上げていた。

 今日この場でも幾つかの失敗とも言える行いをしていたレントに対して、ソロン王太子は応援をしてやりたい気持ちになっていた。王太子や王族としては公平を心掛けなければならないが、私人としては助けたい。レントが失敗しない様にさせる気はソロン王太子にはないけれど、失敗した時にはやり直せる手助けを個人的にはしても良い、とソロン王太子は思った。


 ミリ殿も少しはレント殿を見直したのなら良いのだが、と考えたソロン王太子はふと、妹チリン元王女からの手紙に、ミリがレントに恋心を持たない様にして置く様に依頼されていた事を思い出した。

 思い出したがソロン王太子は、これくらいなら今日のレント殿はトータルでまだまだマイナス評価だから大丈夫、と考えて、ミリとレントを見ながら小さく肯きながらもう一度、大丈夫、と心の中で呟いた。

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