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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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調査の進め方

 ミリは自分の失敗に気付くと、商人の笑みを引っ込めて表情を取り繕った。そして反射的に失敗を誤魔化そうとして、ソロン王太子とレントに真剣な視線を向ける。


「それでですが、王太子殿下、コーカデス殿」

「なんだい?」

「はい」


 二人からも真面目な視線が返された事を確認して、ミリは小さく肯いた。


「調査はどの様に進めるのでしょうか?」


 ミリの言葉にソロン王太子もレントも、眉間が僅かに狭まる。その様子を見てミリは、質問が具体的ではなかった事を自覚した。失敗を取り繕う為に、ミリは少し話を急いでしまっていたのだ。

 そして、どう伝えるのが良いかミリが改めて考える前に、ソロン王太子が尋ねる。


「どの様にと言うのは?」

「はい。幾つかの進め方があるかと存じますが、先ずはコーカデス伯爵領だけを調査するのですね?」


 前提の確認をしたかったのかと納得したソロン王太子が肯こうとすると、ミリの言葉が続いた。


「それとも他領も並行して行うのでしょうか?」


 ミリを見てレントが「並行?」と呟いて小首を傾げるが、ソロン王太子も同じ様に小首を傾げる。


「手順書を作りながらでは、コーカデス伯爵領からになるのではないのかい?」

「手順書は予め作る事が可能ですので、調査を担当する(かた)達には、前以て説明させて頂く事も可能です。それでしたら、疑わしい地域を並行して調査する事も可能かと存じます」


 ミリの答えを聞いてソロン王太子は「なるほどね」と小さく肯くが、「だかしかし」と続けた。


「教えるのに当たっては手順だけを伝えるのより、実際の情報を元に手順を確かめさせた方が、理解しやすいのではないかな?」

「はい。仰る通りだと考えます。そしてそれでしたら、コードナ侯爵領の過去の情報を使う事も可能かと存じます」

「コードナ侯爵領のってそれは、公開出来るものなのかい?」


 ソロン王太子が心配そうな表情をするので、ミリは「はい」と肯いて返す。


「コードナ侯爵領の納税の元となっている資料ですので、公開しても問題はございません。原本の持ち出しは難しいかと存じますが、写しでしたらわたくしの手元にございますので」

「なるほど。コードナ侯爵領は納税に関して、清廉潔白と言う事か」


 ソロン王太子の言葉にレントが僅かに反応した。コードナ侯爵領と暗にコーカデス伯爵領が比較された事を感じて、レントの肩に少し力が入る。


「コーハナル侯爵領もそうなのかい?」


 レントの様子は視界に入ったけれど、言及するのも可哀想かと思って、ソロン王太子は気付かぬ素振(そぶ)りでミリに尋ねた。


 ミリは再び「はい」と肯く。


 ミリにはレントの変化は見えなかったが、ソロン王太子がまたチラリとレントを見たのには気付いた。コーハナル侯爵領も「清廉潔白」ではあるけれど、ミリはそれには触れずに返す。


「そちらも写しは手元にございますが、他家の資料ですので、公表するにはコーハナル侯爵家に許可を頂きたいと考えます」

「それはそうだね」


 小さく何度か肯くソロン王太子に、ミリも肯いて「はい」と応える。


「まあ、いざとなれば、私からコーハナル卿に願うと言う手もある」


 そう言うソロン王太子に向けて「はい」と応えたミリだが、実は少し納得が出来ていない。それは、この件にソロン王太子がどの様に関わって来るのかに付いて、はっきりとは分かっていないからだ。ソロン王太子からコーハナル侯爵に依頼をすると言うのなら、ソロン王太子が先頭に立って問題を解決して行く様にもミリには思えた。

 この辺りも後で確認しようと考えて、ミリは今は取り敢えず、目の前の話題で認識が異なっていそうな点に付いて確認する事にする。


「ですがコーハナル侯爵領の資料には不備がそれ程ございませんでしたので、教材と致しますならば、コードナ侯爵領の方が適しているかと存じます」

「つまりコードナ侯爵領では、不備があったと言う事かい?」

「はい。不備と申しますか、コーハナル侯爵領でも申告に誤記や勘違いはございますが、コードナ侯爵領ですと過小申告しておりました商人もおりましたので」

「なるほど。コーカデス伯爵領の調査の練習には、コードナ侯爵領の修正前の資料の方が向いていると言う事か」

「はい」


 ソロン王太子は「なるほどなるほど」と繰り返して肯いてから、顔を伏せ加減で一瞬動きを止めて、顔を上げるとミリを見た。


「それならやはり、コーハナル侯爵領の資料も併せて使わせて貰おう」

「・・・はい。畏まりました」

「不服かな?」


 ミリの返しが少し遅れた事に、ソロン王太子は切り込んでみる。

 無用な揺さ振りをソロン王太子にされない様にしようとして、ミリは警戒をした。


「いえ、その様な事はございません」

「不敬には取らないよ?ミリ殿が思った事を言ってみて」


 躱そうとしたところを追って来るソロン王太子の言葉に、ミリは面倒臭いと思った気持ちを表情に出さない様にと気を付ける。


「はい。コーハナル侯爵領の資料には例年、単なる誤記なども少なく、教材として使うのは適さないかと考えます」

「なるほど。やはりミリ殿は真面目だね」


 この言葉は褒められてはいないのではないか?とミリは思った。

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