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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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更なる望み

 ミリがコーカデス領まで干物を取りに行く事が決まり、レントは頭を下げた。


「ありがとうございます、バル・コードナ様、ラーラ・コードナ様。よろしくお願いいたします、ミリ・コードナ様」


 今更反対は出来ないと思って、バルは「ああ」と肯いた。そのバルの表情からバルの心情が良く分かったラーラは、苦笑気味の微笑みを頭を下げたままのレントに向けた。


「いいえ。これからが大変だと思います。コーカデス領の干し魚がまた港町で販売される事は、わたくしも楽しみにしていますので、よろしくお願いしますね?」


 レントはもう一段頭を下げて、「はい」と返す。


「精一杯、努力をいたします」

「はい。期待させて頂きますね」

「はい。ありがとうございます」


 レントは更にもう一段、頭を下げた。その姿にラーラの微笑みから苦味が消えて、代わりに慈愛が滲み出す。


「それとわたくしの事はラーラと呼んで頂いて構いません」


 バルは反射的にラーラを見た。その目は少し細まっている。


 レントは返事を一瞬躊躇した。

 ラーラがレントに向ける好意がレントには理解出来ず、どうしても何かの罠の様な気がしてしまう。しかし断る訳にもいかないので、レントはラーラの申し出を受ける決意を固めた。


「ありがとうございます、ラーラ様。わたくしの事はレントとお呼び下さい」

「分かりました、レント殿」


 レントに対するバルの好感度は下がったので、(あなが)ち罠ではないとは言えなかった。


 ラーラがレントに名前呼びを許した事に、レントは単純にヤキモチを焼いた訳ではない。

 ミリもレントに名前呼びを許している事は、バルも報告を受けて知っていた。この場ではミリもレントも家名を付けて呼び合っているが、それは公の場だと弁えているからだろう。それは良い、当然だ、とバルは心の中で肯いた。しかしそれは、裏を返せば、ミリとレントが名前呼びをしている時は、プライベートな時間扱いをしていると言う事だ。それに気付くとバルの気分は下がる。

 いやつまり、良く考えたら、単純なヤキモチだった。

 しかしバルはそれを真っ直ぐに認める事などはせずに、こう言うのは俺が名前呼びを許してからラーラが許すべきだろう?などと考えていた。しかしそれをラーラの所為ではなくて、レントの所為だとバルは思っていた。

 ちなみにラーラは、バルが前回レントに会った時に、レントの事をバルが気に入ったと感じていたので、ミリもレントに名前呼びを許しているし、男同士のバルとレントも当然名前で呼び合っているとラーラは思っていたりする。

 その様な事を知らないバルは、余程の事がない限りレントには名前呼びを許さない、とヘソを曲げての結論を心に決めていた。


 一方で、罠を覚悟してラーラの申し出を受けたレントの心には、ヤケクソが広がる。そのヤケクソを自分で利用して、言い出すのが難しい筈の話題をレントは口にした。


「実は別件で、コードナ家の皆様に、お願いさせて頂きたい事がございます」

「願い?」


 そう呟くバルの眉間に皺が出来る。

 ラーラは、顔を伏せたままのレントの表情が読めず、ミリの様子を見た。ラーラの視線に気付いたミリはラーラを見返して、疑問を浮かべるラーラの顔に向けて小さく左右に首を振って返す。

 二人の様子を視界の端で見て取ったバルは、声を低くしてレントに尋ねた。


「コーカデス家の願いとは?」

「わたくしはソロン王太子殿下に、報告と相談をさせて頂きたい事がございます。しかしコーカデス家としてではございません。レント・コーカデスとしてでございます」

「個人的な話だと言う事か?」

「いいえ」

「いいえ?」

「はい。わたくし個人とは言い切れず、内容はコーカデス領に付いての事で、将来当主を継ぐ立場のレント・コーカデスとして、ソロン王太子殿下との謁見を望んでおります」

「領地の事なら、コーカデス伯爵が国王陛下に報告なり相談なりする筈だが、違うのか?」

「事情がございまして、先ずはわたくしからソロン王太子殿下に、話をさせて頂きたいと思っております」

「その事情と言うのは、我々には話せないのだな?」

「はい」


 レントはヤケクソ状態ではあったけれど、ミリには相談に乗って欲しいがバルとラーラには知られない方が良いと、その判断は冷静にしていた。


「申し訳ございません。皆様にお伝えして良いかに付いても、先ずはソロン王太子殿下のご意見を伺いたいと考えております」


 バルはラーラとミリを見る。

 ラーラは少し首を傾げてバルに返した。貴族の立ち回りに関して、ラーラも習ってはいる。しかし社交界が機能しなくなっているので、ラーラは実践経験が少ない。それなので生まれ付き貴族であるバルに、この件の判断を委ねる事にラーラはしていた。

 ミリはバルの視線に気付くと、真っ直ぐにバルを見詰め返した。バルにはそれが、バルとラーラの言う通りにすると言うミリの意思表示かと思えてしまう。

 バルは心の中で溜め息を吐くと、レントの姿に顔を向けた。


「ソロン王太子殿下に直接取り成す事は、我が家の者では出来ない」


 バルの言葉にレントは、ミリなら出来る筈だと思ったけれど、一旦は「はい」とバルの意見に譲った。

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