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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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38 追跡、突入、発見

 ラーラの噂を流しているのが貴族らしいとの話を受けてから、コードナ侯爵家はラーラに護衛を二人付けていた。ソウサ家の護衛では、貴族絡みの揉め事に対処仕切れない可能性があったからだ。


 差出人がパノ・コーハナルとなっていた手紙に喚び出された日も、ラーラの入った店をコードナ侯爵家の護衛二人が離れた所から見張っていた。

 そして二台の同じ様な馬車が店の別の出入り口に横付けされ、その一台にラーラが乗り込んだ事に気付いた護衛二人は、ラーラが別の馬車で店から離れた事に気付いていなかったソウサ家の馬車の馭者に対してソウサ家とコードナ侯爵家に連絡する様に命じ、自分達二人はラーラの乗った馬車を馬で追った。


 その日ソウサ家は皆出払っていた。大口の取引が重なり、ラーラの祖父ドランも祖母フェリも母ユーレも、それぞれ別の場所に出向いていた。

 また大量の商品やその代金を運ぶために、護衛も引き連れていた。その為、パノからの喚び出しに怪しさはあったが、ソウサ家としてラーラに付けた護衛はいつもの一人だけだった。

 ラーラの父ダンもラーラの次兄ワールと港で新規事業の話をした後に、大口の取引に向かう為にソウサ商会に寄った所でラーラが連れ去られたとの連絡を受け、取引のキャンセルと家族全員への連絡を従業員に命じて、ソウサ邸に戻った。ただし事情を知るのは極一部の従業員に留め、その者達にも口外しない事を命じた。


 コードナ侯爵家も、侯爵であるバルの祖父ゴバ以外は出掛けていた。

 コードナ侯爵邸に連絡が届くと、ゴバ自ら馬でソウサ邸を訪れた。そしてパノからだと言う手紙を持ってダンと共にパノの家、コーハナル侯爵邸を訪ねた。

 コーハナル侯爵もパノも不在だったが、パノの祖母ピナ・コーハナル侯爵夫人の執り成しで発送記録が確認され、少なくともコーハナル侯爵邸からはその手紙が出されていない事が分かる。そして手紙の文字はパノのものでも、コーハナル侯爵家の使用人が代筆したものでもないことが判明した。


 ダンはその情報を持ってソウサ邸に戻り、コードナ侯爵邸にも連絡を出す。

 ゴバはラーラが喚び出された店に向かう。

 ピナはコーハナル侯爵とパノに、用事が済み次第戻る様に連絡を出した。


 ゴバが店の前に着くと、コードナ侯爵家の護衛達が集まっていた。

 取り敢えず店に踏み込み、関係者に話を訊く。

 個室の予約はパノ・コーハナル名義である事、予約した部屋に入った男達は予約の控えを持っていたのでそのまま通した事、男達は高価な服装をしていた事、店員達は男達に見覚えが無い事、名前は名乗らなかった事が分かった。

 ラーラを乗せた馬車が何処に向かったのかは分からなかった。


 ラーラを乗せた馬車は尾行を警戒したのか、大きく迂回したりしながら進んでいた。しかし二台の馬車は分かれる事なく、同じ道を行く。コードナ侯爵家の護衛二人は馬車が遠回りしている事に気付くと、一人が先回りしたり、二人とも別の道に逸れて想定される馬車の移動先で合流したりしながら、馬車からなるべく遠く離れて追跡を行った。

 店からかなりの距離がある場所の建物に到着した時には、遠回りした所為もあって大分(だいぶ)時間が経っていた。

 馬車からの人の乗り降りが感じられる距離でしばらく様子を窺っていた護衛二人は、馬車二台とも馬が外されたのでそこからしばらくは移動しないと判断すると、一人が連絡の為にラーラが喚び出された店に向かう。


 一方ゴバは、馬車を追跡した護衛からの連絡がまだなかった為、一度ソウサ邸に引き返していた。

 ソウサ邸にはダンの他に、ドラン、フェリ、ユーレ、ワールも戻っていた。

 ゴバが店員達から聞き出した情報を元に、6人は今後の方針を話す。

 貴族が絡んでいるのは間違いなさそうだ。たとえ(あと)から違う事が分かっても構わないからと、ゴバはラーラの捜索に全面的に協力する事をラーラの家族に伝えた。


 馬車を追跡した護衛の一人がラーラが喚び出された店に戻り、再びゴバが店に向かう時にはフェリとダンとワールも同行した。

 コードナ侯爵家の護衛は人員が追加され、ソウサ家の護衛も加わったのでかなりの人数になったが、先程とは異なり適当に距離を取って三人程度の集まりに分かれ、周囲に気付かれない様にと今度は気を配る。

 護衛達には目的地だけを伝え、ゴバはフェリとダンと追跡から戻った護衛と一緒に馬車に乗り、馬車の中で詳しい状況説明を聞いた。ワールは騎馬で移動だ。


 その頃、ラーラが連れ込まれた建物では動きがあった。ラーラが乗せられて来た馬車にまた馬が繋がれ、建物の出入り口に横付けされる。

 その馬車には人が運び込まれている様に見える。声は聞こえないが、運ばれている人間は暴れて抵抗している様だ。

 そして馬車はまた二台で、結構な速度で建物から離れて行った。


 一人残っていた護衛は瞬時に決断すると、その場の地面に伝言を書いて馬車の後を追った。


 それからしばらくして、建物の別の出入り口に別の馬車が横付けされて、やはり抵抗する人物を無理矢理馬車に乗せ、同じくかなりの速度で建物から遠ざかって行った。


 ゴバ達は建物に着くと、馬車を追跡した護衛が残した伝言を見て、建物に踏み込む。

 そこは男女が密かに愛を交わす為の場所だった。

 従業員は利用客の出入りは分かるが、顔を見ずに利用料金の支払いを出来る仕組みがあり、相手の顔も服装も人数さえも知らずにいた。

 従業員は馬車がどっちの方角に向かったのかも見ない様に心掛けていたし、そもそもどの利用客の事をゴバ達に尋ねられているのかも分からなかった。


 ゴバは馬車を追った護衛の向かった先に、護衛三人を一組だけ追い掛ける為に向かわせ、自分達は建物で連絡を待つ事にした。


 馬車を追った護衛が通り掛かりの人に伝言を持たせ、建物に送り届けて来た。

 伝言を持って来た人に、護衛からのメモにあった通りの報酬を支払い、ゴバ達はメモに書かれた場所を目指す。


 そこはまた、愛を交わす為の場所だった。

 建物の周囲を護衛達に包囲させ、中に踏み込む。

 ゴバがコードナ侯爵である事を明かして被害者保護と犯罪者確保への協力を従業員に強制し、すべての個室を開けさせた。

 ラーラの護衛とメイドは、発見された時には生きていた。しかし犯人達を制圧して安全が確保され、ソウサ家の家族が建物の中に入った時には、護衛とメイドの意識はなかった。そしてそのまま意識が戻る事なく、二人ともその建物内で亡くなった。


 その建物内にはラーラの姿はなかった。


 犯人達への尋問で、別行動した犯人一味とラーラが一緒にいる事が判明する。しかし何処に行ったのかは分からないと言う。

 思い当たる場所をすべて挙げさせたが、どれも愛を交わす場所で、アジトの様な固定の場所は持たないと捕まえた犯人全員が口を揃えた。

 それなら普段はどうやって連絡を取っているのか喋らせると、王都の隅の酒場で飲んでいると、向こうから声を掛けて来るとの答だった。つまり捕まったのは下っ端ばかりだと言う事だった。


 ダンが尋問方法を変更して犯人達に対し、正しい情報を提供した者の罰を軽くする事を約束する。ソウサ家から請求する慰謝料の額を減らし、事件解決への貢献度によっては逆に謝礼を支払うと書面にしてサインをし、犯人達に配ったのだ。

 犯人一味が使うであろう馬車が分かると申告した犯人の一部を連れて、ゴバ達はラーラが連れ込まれているかも知れない建物を調査した。

 しかしラーラの行方に付いて、なんの手掛かりも掴めなかった。



 ラーラの行方が分かったのは、犯人の共犯者の一人の男がソウサ家に自首して来たからだった。

 その男はソウサ商会の従業員で、恋人が犯人達に囚われていた為に脅迫されて協力させられていたが、ラーラも囚われている事を知ってソウサ家に告白した。ソウサ家が隠していた為、自首男はラーラが攫われた事に気付いていなかったのだ。

 自分の罪は償うから恋人の事も助けて欲しいと、自首男は頭を下げた。


 ラーラが囚われていたのは、下級貴族の邸だった。


 コーカデス侯爵家とソウサ家の護衛達が邸の周囲を取り囲んで踏み込もうとしている時に、王都の警備隊が事情説明を求めて割り込んで来た。

 邸内にいる誘拐事件の被害者保護と犯人逮捕の為だと説明をすると、護衛達に解散する様にと警備隊が命じる。ゴバがコードナ侯爵として前に出ても、警備隊は引き下がらない。

 犯人を逃がさない様に邸の周囲を固めたまま、警備隊の上司を喚び出させれば、今度は犯人逮捕に警備隊も参加すると主張した。

 手柄が欲しいなら警備隊にくれてやると、参加を認めて踏み込む事になった。


 いざ邸に踏み込むと、ラーラの居場所を確認するのも犯人を捕らえるのも、警備隊の動きが邪魔をして上手く進まない。

 時間を掛けずにラーラを発見する事を第一に、時間が掛かっても良いから犯人を逃がさない様にする事をその次として、改めて護衛達は行動する。


 そしてラーラ発見の報がもたらされた。

 しかしラーラは護衛達の事を恐れた。その為ラーラを保護する事が出来ず、その場からラーラを動かせずにいる。

 まだ危険が排除出来ていないので、ソウサ家の家族はもちろん、護衛女性を邸の中に踏み込ませるのも躊躇われる。

 ラーラの周囲を硬く守る事を第一に、そして手荒でも良いから犯人達を速やかに捕らえる事に、護衛達の方針が切り替わった。


 そんな中、首謀者と思われる男が捕まった。その場に連れて来ていた自首男が知る中で、犯人達の一番上に立っていた男だと証言する。

 そこに警備隊が首謀者を取り調べると言い、男の身柄を寄越せと奪う様に連れて行こうとする。

 それに対してゴバは、後で必ず警備隊に引き渡すからと約束し、今はここで情報を訊きだして速やかな犯人逮捕に繋げるべきだとして、首謀者らしき男を渡さない。

 警備隊が職務だ法だと言っても、責任は自分が取るとゴバが譲らない。侯爵本人がそこまで言えば、警備隊も諦めるしかない。

 それでも首謀者らしき男の見張りは警備隊にやらせろと主張するので、ゴバもそれは譲った。現場の状況管理の方が大切で警備隊と揉めている場合ではないし、根負けしたのだ。


 そして首謀者らしき男を警備隊が斬首した。


 ゴバは警備隊の隊長とその上司を拘束した。二人は、男が王族を名乗ったから処刑したまでだと主張する。上司が命じて隊長本人が男を殺していた。

 法と職務と王家への忠誠からの正義の行いだと主張し、拘束は違法だとして解放を要求する隊長と上司の口には、うるさいからと布が詰め込まれた。

 他の警備隊員達は唖然として動けなかった。隊長の命令を聞いていただけでコードナ侯爵に逆らう積もりも元々ないため、コードナ侯爵家の護衛に命じられるまま、隊長と上司からは離れた所で大人しく待機した。


 邸には自首男と同じ様に脅されて誘拐犯達に従っていた者もいる。情報提供者には慰謝料を減額すると言うダン提案の話が広まると、無理矢理協力されていた者達は率先して知っている情報を申告した。

 それは自分から悪事を働いていた者達の口も軽くする雰囲気を作り、隠し部屋や証拠になりそうな書類の在処も判明して行く。



 邸内の安全が確保され、ソウサ家の家族がラーラの所に辿り着くと、ラーラは祖父ドランも父ダンも次兄ワールも連絡を受けて戻って来ていた三兄ヤールも恐れた。

 抱き締めようとして怯えられた母ユーレが取り乱し、祖母フェリがユーレの頬を張って大人しくさせた。


 女性がゆっくりと動くなら傍に近付け、ラーラからなら女性に触れられるのが分かり、フェリとユーレと一緒に馬車に乗って、ラーラは五日振りにソウサ邸に帰った。


 その馬車の中には護衛として、学院の送り迎えにいつもの同乗していた、コードナ侯爵家の護衛女性が付いた。

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