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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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誰が話を回すのか

 ミリが会話をリードすると思っているラーラは、ミリの様子を見て疑問を感じていた。

 そのミリは一向に話し出さない。お茶を淹れて皆に勧めたミリはその後は、自分の席に戻って静かにお茶を飲んでいる。

 ラーラの疑問は直ぐに不安に繋がって行く。

 しかしミリに視線を送ってみても気付く素振(そぶ)りもなく、いつまでもミリはラーラもバルもレントも見ずに、ただお茶を飲んでいるだけだった。


 魚の干物の話は、レントとミリの手紙で遣り取りされていた話題だ。

 バルにもラーラにも、自分が話を出すのには違和感がある。


 ラーラがバルを見ると、ラーラの視線に気付いたバルが、眉根を少しだけ寄せてラーラを見返す。

 レントを見れば何故かレントは、最初の挨拶の時より緊張している様に見えた。

 ラーラは、もしかしたらこれがミリの作戦なのかも知れない、と思った。そうは思ったのだけれど、このままレントに我慢をさせるのも可哀想にも思える。レントはミリより年上だと言う事はラーラにも分かってはいたけれど、ミリより小さくてか弱そうなレントを放って置くのは、ラーラの良心や親心が刺激されてしまう。


 ラーラはミリに少し腹を立てながら、レントに対して押し葉の話題を振った。

 しかしラーラはミリとレントの表向きの手紙を読んでいるし、ミリから押し葉の実物も見せて貰っている。ミリが確かめた押し葉の効果も、ラーラは確認済みだ。それなので押し葉に付いてはラーラも詳しくなっていて、その所為で話が中々広がらない。知っている事を知らない振りをしてレントに訊ければ良いのだけれど、ラーラはまだ子供であるレントから侮られる訳にもいかなかった。

 それなのでラーラは次に、茶菓子を話題にする。レントに茶菓子を勧めながらバルにも話を振るけれど、今度はコードナ家の三人とレントとの間のスイーツに対する知識の差があり過ぎて、レントは聞くだけとなってしまい、やはり話が盛り上がらなかった。


 話が盛り上がらずに切れ切れになってしまうので、ラーラはどうしても上手く干し魚に話が繋げられない。もうこうなったら自分の口から話題を直接切り出すか、それとも一層の事この場から退席しようかとラーラは思い始めていた。

 もしかしたらレントは食用の魚の話など、バルとラーラには聞かれたくないのかも知れない。ラーラはそう気付くと、退席するなら自分だけではなくて、バルも一緒の方が良いかも知れないと思い、バルに視線を送ってみる。

 バルはそのラーラからの視線に迷いや憂いが含まれているのを感じ取り、この場を何とかして欲しいとの催促だと受け取った。


「あの、ミリ?」

「はい、お父様」

「以前、魚の調理方法に付いて、レント・コーカデス殿に質問したと言ってはなかったかい?」


 魚の調理方法の話題はラーラも思い付いていたけれど、ミリが質問を取り下げた事を知っていたので、ラーラは話題にしない事にしていた。

 それはバルも同じではあったのだけれど、ラーラからの要望を満たす為だと思えば、バルに(いな)はない。


 そのバルの質問の直前まで、ラーラが中々干し魚の話題を出さない事を不思議に思って、この先どの様に話を進めて行くのだろうかと、ミリは他人事の様に考えていた。

 そしてバルが魚の調理方法の話を出すと、ラーラの眉間に一瞬皺が寄った後に納得した様にラーラが小さく一つ肯くのを見て、またレントもホッとした様な表情をしているのを見て、もしかしたらこの場の会話を回す事を皆が自分に期待しているのかも?とミリは思い至る。やっとである。


「魚の調理方法に付いての質問は、既に取り下げさせて頂いています」


 ミリは会話を回す気になっていた。しかしレントはミリが取り下げに言及しているので、干物に付いて話す為の折角の足掛かりがなくなってしまうと判断した。それなのでレントは少し慌てて話を広げようとする。


「実はミリ・コードナ様に質問を頂いてから、わたくしは改めて領地の漁業に関して調べてみたのです」


 レントと同じ様に、ミリが話を断ち切る気なのかも知れないと心配していたラーラは、レントの言葉に乗っかった。


「まあ、そうなのですね?わたくしはコーカデス領の特産品だった干し魚が、王都の港町に来る船員達に好評だった事を覚えています」


 ラーラがレントの発言を干し魚に結び付ける。


「ラーラ・コードナ様に覚えて頂いて頂けるなんて、とても嬉しいです」

「ですが、今はその干し魚を作っていらっしゃらないと聞いていますけれど?」

「それがほんの僅かな量なのですけれど、今も作ってはおりました」

「そうなのですか?それは良かったわ」

「その干物を改めてコーカデス領の特産品にする事が出来ないか、実はそれに付いてミリ・コードナ様に相談させて頂きたいと思って今回、コードナ様の(もと)を訪ねさせて頂いたのです」

「なるほど、そうなのですね」


 上手く話を引き出せた事にラーラは喜び、笑みを零す。バルはやっと話が予定の方向に進みそうで、ほっとする。レントは話の持って行き方が少し強引だったのではないかと、心の中で冷や汗をかいていた。

 そしてミリは、やはりお母様が話を動かすのね、と考えて、ただの聞き役にまた戻る気になっていた。

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