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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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コードナ家を訪ねるレント

 王都に向かって旅立つ時には、レントの心は決まっていた。


 密造や脱税をしている町村を更に見付けて更にやさぐれたり、干物を作る村人ニダの所で干物を食べて楽しんだり、海を見て癒やされたり、途中の漁村でお嬢様と呼ばせていたビーニや商売女達に搦まれて心を荒ませたりしていたら、何が大切なのかが良く分からなくなる。


 それなのでレントは、自分がしなければならない事を改めて整理した。そして自分がやった方が良い事、他の人にやって貰った方が良い事も決める。それからやって貰うなら誰が良いのかまで決めたら、その前提で行動をする事にした。

 それは改めて自分を見直す事にもなり、見直して並べてみると、自分で出来る事と言ったら人にお願いする事ばかりである事にレントは気付いた。


 そしてそこで開き直って、わたくしが頭を下げる事で問題が解決出来るならいくらでも下げましょう、とレントは決心をする。

 その決心を後押ししたのは、やさぐれ続けていたレントの心だとも言えなくはなかった。ヤケクソと言うヤツである。



 事前に約束をして置いた日時の通りに、レントは王都のコードナ邸にミリを訪ねた。

 使用人に先導をされて、レントは何故か庭に案内をされる。

 そしてそこにはミリと、レントの予想通りバルの姿もあり、更にもう一つの人影があった。

 ミリにそっくりのその女性が誰なのか、レントには直ぐに目星が付いたのだけれど、だからと言ってどう対処をしたら良いのかまでは分からない。

 レントなりに本日のシナリオを描いていたのだけれど、どの様に修正したら良いのか、そもそもレントに修正する事が出来るのか分からず、一瞬レントは目の前が暗くなる。そうするとここ最近のやさぐれがレントの心に広がって、ヤケクソにも改めて火が付いた。


 レントは三人の前で、上位貴族に対しての礼を取る。


「良く来たね、レント・コーカデス殿」

「いらっしゃいませ、レント・コーカデス殿」


 最初にバルが言葉を掛けて来たので、本日はミリではなく、やはりバルが主導するのであろう事をレントは感じた。


「再びお目に掛かれて嬉しく思います、バル・コードナ様。ミリ・コードナ様も本日はお目に掛かる機会を作って頂き、ありがとうございます」

「レント・コーカデス殿。紹介しよう。妻のラーラだ」

「ラーラ・コードナです。あなたがレント・コーカデス殿ですか」


 レントは顔を伏せているので、ミリが言ったのかとレントは一瞬思った。だがミリとは声のする向きが違う。声もミリと良く似ていると思い、ミリの方がラーラに似ているのだと気付いて、レントは少し可笑しくなる。

 笑いを顔に出しそうになっている自分を感じて、レントは自分がかなり緊張しているのかも知れないと思った。緊張から逃げる為に笑いそうになっている自分に、また可笑しさが込み上げそうになる。


「はい。レント・コーカデスと申します」


 笑わない様に、声が震えたりしない様にとばかりに注意を取られ、レントは名乗りを返すだけしか出来なかった。


「顔を上げて下さい」


 ラーラにそう声を掛けられて、レントは姿勢を正した。

 バルの左右に立つラーラとミリは、身長と年齢こそ違うけれど、本当に良く似ていた。

 ミリの心配そうな視線に気付いてミリに微笑みを返すと、レントは視線をラーラに向ける。


「お目に掛かれて光栄です。ラーラ・コードナ様」


 ミリの様子を見て、レントは自分を落ち着かせようとしていた。ミリに心配される事に、レントの負けん気が刺激される。ミリには恥ずかしい姿を見せる訳にはいかないとレントには思えた。

 そのレントの態度に、ラーラは微笑みを向ける。


「こちらこそ、お目に掛かりたいとかねがね思っておりましたので、今日はお会い出来て良かったわ。歓迎いたします、レント・コーカデス殿」


 そのラーラの醸し出す雰囲気に、温かい態度と表情と言葉なのに、レントは何故か背筋に寒気を感じた。



 コードナ家の庭には手入れが良く行き届いていて、季節の花が美しく咲いている。

 その花々が良く見えるガゼボにテーブルと椅子が用意され、使用人も護衛も下がらせて、そこに四人だけになった。


 ミリが四人分のお茶を淹れ、それぞれの前に置く。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 レントの言葉にミリは「いいえ」とだけ返す。


 ミリは今日の話し合いに付いて、両親に任せる気でいた。

 レントの要望に応じる様にとミリに命じたのはラーラだし、今日のこの場にもラーラが同席している。

 バルは同席するかも知れないとミリは考えていたけれど、男性を恐れるラーラが、子供とは言えレントに会うとはミリは思ってもいなかった。

 無理をしてでもラーラが同席すると言う事は、今日のこの場もラーラが仕切るのだろうとミリは考えて、何かあってもバルがラーラをフォローするだろうと思えるし、結論が出たらミリはそれに従う積もりでいるだけだった。

 ただしそれにしては、ラーラの雰囲気がおかしい様にミリには思えた。もしかしたらレントの要望には答えられない何かがある事に付いて、ラーラが気付くなり知るなりして状況が変わったのかも知れない。あるいはレントをこの場で試して、結論を変えるのかも知れない。

 どちらにしても結論に従うだけね、とミリは思って、かなり気楽にこの場に臨んでいた。


 ところがラーラは自分が主導する気はない。

 ラーラの今日の目的は、レントを評価する事だ。

 もちろんミリに良くない展開になれば口を挟む積もりではいるけれど、ミリにはレントの要望に応じる様に命じてあるので、基本はミリに任せる積もりでラーラはいた。


 バルは前回レントに会った時の別れ際に、また邸に寄る様にとレントに告げていた。

 だから今回もミリと一緒に迎えたし、ラーラも話に同席すると言うのならバルも同席する(ほか)にない。そもそもラーラが同席すると言うのはバルの同席を前提にしていると分かるので、こうなってはバルには同席する以外は選べなかった。

 つまり今回の話し合いの内容に対しては、バルは一切の思惑を持っていなかった。


 そしてレントは、会話の口火を切る訳にはいかなかった。

 ミリと二人ならレントから話し始めただろうし、バルが同席するのも想定内だったから、話を切り出す覚悟をしていた。バルならレントから口を開いても許して貰えそうに思っていたからだ。そう開き直っていたとも言える。

 しかしラーラがいるならそうはいかない。

 この国のマナーでは、上位者が話題を振って下位者が話を広げて、会話を進めて行く事になっている。レントも当然それを叔母リリ・コーカデスから教え込まれている。

 つまりここでレントから話を切り出すと、貴族の常識を知らない無知な子供との評価が、レントに対してラーラから下されるかも知れない。あるいはラーラをレントより下だとレントが評価したと、バルやミリに受け取られてしまうかも知れない。

 そしてそれはどちらも、コーカデス家やあるいはリリの評判を下げる事になるだろう。


 先程ラーラから感じたのはこの罠の予感だったのかも知れないと思うと、レントは再び背筋に寒気を感じ、口を開く事は出来なかった。

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