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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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みたび漁村へ

 レントは一度邸に戻り、自分が王都に干物を届ける事をミリに手紙で伝えた。

 それに当たってレントは、祖父リートには相談したし、祖母セリも説得したけれど、父スルト・コーカデス伯爵には手紙で報告しただけだった。


「好きにしろと言われましたし、伝えるだけで良いでしょう」


 そう独り言を呟くレントの心は、干物の件が想定とは違ったりした為、前よりもやさぐれてはいる。

 何しろスルトは、脱税問題ではレントに向かって好きにしろと言っていたけれど、干物の件では言っていない。それを拡大解釈して良しとしている辺り、レントも大分不貞腐れ気味ではあった。



 レントはミリに手紙を出すと、また漁村を訪ねた。

 するとまた、お嬢様と呼ばせていた少女ビーニが、レントの姿をめざとく見付けた。


「キロ!また仕事探しか?」


 ビーニの村を通る度に、ビーニはレントに仕事を斡旋しようとしていた。レントは面倒臭くなって、仕事が見付かった事にしようかと思ったけれど、そうしたらそうしたで更にビーニに搦まれるかも知れないとも思える。

 何の仕事だと訊かれたら、護衛二人分の仕事に付いても説明しなくてはならないので、それもまた面倒臭いと思ってレントは「うん」と答えた。


「だからあたしの言う事をきけって言ったろ?悪い事は言わないから、あたしの言う通りにしときな」

「ううん」

「はあ?なんでだ?だって仕事が見付かんないんだろ?」

「うん」

「キロだけじゃなくて、そっちの兄ちゃん達もだよな?」

「うん」

「・・・お前ら、もう随分と長い事、仕事を探してるよな?」


 レントは面倒臭くて答えを返さなかった。確かに初めてこの村に来てから、結構な日数が経っている。それに付いてはビーニも訊かなくても分かっている筈だ。


「お前ら、まだ金あるのか?」


 レントはこの質問にも答えを口にせず、ただ目を細めて訝しげな表情をビーニに向ける。


「あ!ちがう!お前らの金を狙ってるんじゃないからな?!ホントだから!」


 レントはビーニから目を逸らした。


「いや!キロ!信じろって!今までだって、お前らの金を盗ろうとしたりしてないだろ?!」


 ビーニは顔をレントから護衛二人に向けるけれど、武力担当の護衛は眉間に皺を寄せてビーニを一瞥して前を向いてしまい、会話担当の護衛は肩を竦めて見せるだけだった。

 ビーニがレントの腕を掴もうとするのを武力護衛が遮る。


「キロ!信じろよ!お前らが金に困ってないか心配だっただけなんだ!おい!キロってば!」

「うん」

「え?・・・信じてくれるのか?」

「うん」

「そうか!ありがとう!キロ!」


 ビーニは結局、次の漁村に向かう道に入るまで、レントに纏わり付いていた。

 レントは、ビーニには信じないと言った方が良かったのかも知れないと、少しだけ後悔した。



 干物を作る村人は、今回もレント達が声を掛ける前に気付いて、手を挙げて三人を迎えた。


「やあ、キロ。良く来たね。兄さん達も」

「こんにちは、ニダさん。またお邪魔します」

「ああ、待っていたよ。干物もそれぞれ用意してあるから」

「ありがとうございます!」

「早速、食べてみるかい?」

「はい!」


 レントの元気な返事に村人ニダは笑いながら、「こっちだ」と三人を案内する。

 領都の邸ではやさぐれたりして元気のない事もあるレントが、前回もニダの所に来ると明るくなる事に気付いていた護衛二人は、お互いに苦笑を見合わせてから、二人の後に付いて行った。



 レントはニダに、三種類の干物を作る様に依頼していた。


「これが昔、王都に運ばれていた干物の作り方で作った物」


 ニダが手で示す干物をレントは顔を近付けて眺めた。


「見た目も随分と違いますね」


 振り仰いでそう言うレントに、ニダは肯いて返す。


「触ってご覧」


 ニダの言葉に「はい」と返して、レントは干物に手を伸ばした。


「硬い。本当に煮干しと同じくらい硬いのですね」

「あの干物とは違うだろ?食べるともっと違うよ」

「なるほど」


 レントの様子を笑みを浮かべて見ながら、ニダは別の干物の傍に立つ。


「こっちはそれより干しが甘い物」


 その干物は領都で食べる事を考えて、レントがニダに賞味期限を調整して貰ったものだった。

 それにもレントは手を伸ばした。


「色も硬さも、さっきのといつものとの間くらいですね」

「まあ、そう干したからね」


 ニダは笑いながら、また場所を移動する。


「そしてこれが、いつものだね」

「はい。やはり見た目では、いつもの干物が一番美味しそうに見えます」

「そうかい?焼いたら見た目は余り変わらなくなるけどね」

「そうなのですか?」

「まあ、焼いてみようか」

「はい」


 レントはニダに干物の焼き方も教わっていた。今回もニダに見守られながら、三種類ともレントが焼く。


 前回、レントが焼くと言い出した時に、護衛二人は当然止めた。しかしレントが煮干しも自分で炙っていると主張して、魚を焼く事を譲らなかったので、二人は渋々とレントの主張を受け入れて、レントが焼く姿をハラハラとしながら見守った。だがさすがに、魚を捌きたいとのレントの要望は、認めてはいなかった。

 魚を捌く事は二人が絶対に許さないだろうと思っていたレントは、それを譲る事で魚を焼く権利を手に入れていたのだった。


 焼けた干物を交互に味わう。


「確かに、格段の差ですね」


 レントの言葉にニダは苦笑する。


「水分を飛ばす事で日保ちをさせるから、どうしても差は出てしまうね」


 ニダはそう言いながら、王都向けの干物を口にした。


「これだって、浅干しの物と比べなければ、そこそこ美味しいとは思うんだけれどね」

「はい。煮干しよりは美味しいです」

「まあ煮干しは食用ではなくて、出汁を取る様に作っているからね」


 そう言いながらニダは領都向けの干物も口にする。


「そうでした。失礼しました」

「失礼ではないよ」


 ニダは自分がいつも食べている干物も口にして、「うん」と肯いた。


「どれも上出来」


 笑うニダから視線を移して、レントは王都向けの干物をつぶさに見詰める。

 護衛二人も二人に倣って、干物を食べ比べてみている。

 その三人の様子を見て微笑みながら、ニダは立ち上がった。


「さて、酒と芋を用意しようか」

「ああ。手伝うよ」


 会話護衛が立ち上がる。それに肯いてニダは、まだ干物を見詰めているレントに視線を向けた。


「あの干物も食べるかい?」


 レントが顔を上げて「是非!」と言う。

 会話護衛がその様子を笑って見てからニダに顔を向けた。


「俺も頼む」

「俺もお願いしたい」


 武力護衛も強く肯いてニダに言う。


「じゃあ持って来るから、兄さんは芋と酒を頼むよ」

「ああ、任せてくれ」


 そう応えて会話護衛が建物の中に入って行く。ニダは少し離れた別の建物に向かった。



 前回ニダの所に泊まった時に、三人は(にお)いの強い干物を食べて、それの虜になっていた。

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