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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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再び漁村へ

 ミリからレントへの手紙には、先ずは商品の品質を確認したいから、売ろうとしている干し魚を送って欲しいとあった。それをミリの馴染みの船員達に見せて、売れるかどうかの手応えを測るとある。


 干し魚は売れそうでもそうでなくても、船員達に相談に乗って貰うお礼として渡してしまうので、先に金額をミリに教えれば、レントが干し魚を送る前に代金を届けるとも書いてあった。

 レントはその費用は自分で持つべきだと考えて、ミリにはそう返そうと思っている。そしてそんな細かい事に注意を向けて考えているのは、思考の逃避だとレントは自分でも分かっていた。


 レントは脱税問題こそ、ミリに相談をしたかった。


 レントの父スルトには好きにしろと言われ、レントの祖父リートにも好きにして良いと言われている。けれどレントはどうしたら良いのか全く分からなくて、好きも嫌いもあったもんではなかった。


 これまでの手紙の封筒に隠した秘密の遣り取りでは、レントはコーカデスの領政についてミリに相談をしたりもしていた。

 もちろん秘密にしなければならない事柄は相談の対象外にしていたし、ミリに伝えたりはしていない。脱税問題など本来なら、ミリに伝えられる筈がない。

 しかしスルトもリートも脱税問題解決の為に、力を貸してはくれるとは思えない。貸すと言うか、本来はスルトが解決すべき問題ではあるけれど。


 好きにしろと言われたのですからミリ様に相談しても良いと言う事ですよね、などとの考えが浮かぶレントの心は、かなりやさぐれていた。



 ミリからの手紙の封筒には、前回までの文通での秘密の遣り取りの続きが記されていた。もしかしたら秘密の遣り取りも、干物に付いての内容が書かれているかとレントは考えていたけれど、その様な事はない。

 ミリの取っているその対応で、自分はさんざん悩んで干物の話の相談に乗って欲しいと書いたのに、ミリにはそれが大した問題でもなさそうにレントには思えてくる。そう思ってしまうとますますレントは、ミリに脱税問題を相談したくなった。



 レントは取り敢えず、ミリからの依頼を熟す事にした。現実逃避気味に。


 漁村に行って干物を分けて貰う。そしてもしミリを通して販売して貰えるのなら、どれくらいの量なら売る為の干物を作れるのか、村人に確認しなければならない。


 前回と同様に三人の護衛と騎馬で向かい、一人に馬を任せて一つ目の漁村に入る。

 すると直ぐにレントは、お嬢様と呼ばせていた少女ビーニに捕まった。


「キロ!また来たのか?」

「うん」


 ビーニの脇を三人で通り抜け様とするけれど、ビーニがレントの隣に並んで付いてくる。


「この間は仕事が見付からなかったんだろう?」

「うん」

「キロならあたしが仕事を紹介してやるよ?」

「兄さん達と一緒ではないと」

「この辺りじゃそれは無理だって、前回分かったろ?」

「けれども一緒ではないとダメだ」

「キロはこの町で働いて、二人は漁村で良いじゃないか?近いんだし」

「ううん」

「そんなワガママ言ってたら、仕事なんて見付かんないよ?良いからあたしの言う事ききな」

「ううん」

「はあ?あたしを誰だと思ってんだ?」

「お嬢様?」

「はあ?キロにはビーニって呼んで良いって言ったろ?だけどそうだよ。この町の町長の娘だ。あたしの言う事をきかないで、この町やこの辺の村で仕事が出来るなんて思わない事だね」

「うん」

「うん?うんってなんだい?うんって?」

「うん」

「だから何だってんだよ?」

「うん」


 それからはレントは「うん」か「ううん」しか口にしなかった。

 けれどビーニはレントに纏わり付いて、ビーニがやっとレントから離れたのは、次の漁村に向かう道に入ってからだった。


「後悔しても知らないからな!」


 ビーニのその言葉にも、レントは「うん」とだけ返した。



 三つ目の漁村を再訪すると、干物を作る村人の家にレント達が泊まった事が、村人達に知られていた。

 レント達の姿を見ると、心配する言葉だったり気の毒そうな表情だったり好奇の視線だったりを村人達は向けてくる。その事から干物を作る村人が、この漁村の人達に偏屈と言われていた事をレントは思いだした。その話とは干物作りの村人が違った事に、レントは僅かに首を傾げる。そしてそれらの村人達には会話担当の護衛が対応しながら、村の先の干物を作る村人の家にレント達三人は向かった。


 レント達が声を掛ける前に村人は気付いて、三人に向けて手を挙げる。


「お前、また来たのか。兄さん達もご苦労だね」

「こんにちは。今日は相談があって来ました」


 手を振り返しながらのレントの言葉に、村人は訝しげな表情を見せて手を下ろした。


「相談?なんだい?」

「干物を分けて貰えないかと思って」

「それは構わないけれど、今日直ぐには無理だよ?」

「え?そうなのですか?」

「一枚でいいならあるが、私の晩ご飯だからね」

「え?もう作らないのですか?」

「明日、漁をする予定だ。明日は焼き魚を食べて、干物が出来るのは明後日だね」

「また泊めて貰って良いですか?自分達の食事の用意はして来ました」

「それは構わないよ」

「漁をするところも見せて貰えますか?」

「ああ、構わないし、何なら手伝うかい?」


 少しいたずらっぽく村人は言って、少し慌てている護衛二人をチラリと見た。


「是非!」

「是非じゃないだろ?キロ?」


 会話護衛がレントを止めると、武力担当の護衛も肯いた。


「大丈夫だよ、兄さん達」

「いや、しかし、キロは泳げないんだ」


 村人を振り向いての会話護衛の言葉に、武力護衛も肯いて見せる。

 キロの設定でもレント自身も泳げなかった。


「その子の言う通り、大丈夫だよ。海には出ないで、浜で網を引くだけだ。兄さん達にも是非、手伝って欲しいのだけどね」

「地引き網ですね?」


 嬉しそうなレントに、村人が微笑みを返す。


「ああ。知っているのかい?」

「知識だけです。やった事はありません」

「そうかい。どうだい兄さん達?危ない事はないから、弟に経験させてやらないかい?」

「兄さん達!やらせて下さい!」


 レントがそう言うなら、護衛達には止められない。

 結局レント達三人で漁を手伝う事になった。


「でも干物を分けるって、どうするんだい?ここなら良いけど、余所で食べたりしたら爪弾きにされるよ?」

「爪弾きは困りますけれど、俺達が食べるのではなくて、王都に持って行こうかと思っているのです」

「王都?なんでまた?」

「知り合いが、港町で船員達に売れないか、確認してくれる事になったんです」

「知り合いが?」

「はい。それなのでもし売れるとしたら、どれくらい作る事が出来るのかも教えて下さい」

「その知り合いには、この間の干物の事を話したんだね?」

「はい」


 村人は「はあ」と大きめの溜め息を吐いた。


「え?あの?」

「あれは日保ちがしないから、王都には持って行けないよ」

「え?でも以前は、王都の港で他国の船に売っていたのですよね?」

「それはこの間食べさせたのよりもっと乾燥させて、日保ちがする様に作った干物の話だよ。この間のとは違うんだ」

「どう違うんですか?」

「この間のはあのタイプの干物として、一番美味しい干し具合にしているのさ」

「つまり、王都で売るのはあの味にはならないと言う事ですか?」

「ああ。パサパサしてしまっているし、硬いし塩っぱい。そうしないと王都に運ぶ途中で、傷んで食べられなくなるからね」

「・・・あなたとしては、王都で売れる干物より、先日食べさせて下さった干物の方が、美味しいと言う事なのですね?」

「その通りだよ」


 レントはガックリと項垂れた。

 しかし直ぐに顔を上げる。


「王都向けの干物も食べさせて頂けませんか?」


 そのレントの表情を見て、村人は笑みを零した。


「ああ。作るから比べてみると良い」

「ありがとうございます!」

「ただし」


 村人が勢い付くレントを手で停める。


「ただし?」

「この間のより乾燥させる必要があるから、作るのに日にちが掛かるけれど大丈夫かい?」

「はい!」


 間髪入れないレントの返事に護衛二人は慌て、その様子を見て村人はまた笑いを浮かべた。

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