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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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構わないミリ

 ミリからレントへの手紙をラーラに確認させなかった事に付いて、放って置けば、ラーラに余計な疑いを持たれてしまう事に繋がるかも知れなかった。バルは後で確りとラーラに説明する事を心に決める。

 そして気持ちを切り替えて、ラーラとミリに話し掛けた。


「祖母様の話は置いて置くとして、話を戻すけれど」


 バルの言葉にラーラとミリが肯く。


「この手紙に書かれている内容だと、レント殿の要望を叶えるにはソウサ商会の協力が必要だと思うのだけれど、ミリ?どう思う?」

「はい、お父様。仰る通りだと、私も思います」

「ミリが頼めばソウサ家の皆さんにも協力をして貰えると思うけれど、ミリはどうする?」

「レント殿の依頼は断ります」


 ミリの答えを聞いて、ラーラは少し残念に思った。コーカデス領の干し魚の評判が良かった事をラーラは覚えていたので、手紙の内容を知ってから、もしかしたら利益に繋がるかも知れないと考えていたからだ。もちろん一方で、コーカデス領のリリ・コーカデスの存在が気になるのも確かだった。


 バルはミリとレントの間で、何らかの約束があったのだろうと思っていた。それなのでミリがレントの要望を断ると答えた事に、バルは驚いていた。ミリの口からどの様な話が出るのかと、バルは心の中で身構えていたので、肩透かしをされた様に感じていた。

 その為にバルは、構えていたのとは反対の訊き方をしてしまう。


「ミリ?断って良いのかい?」

「え?」


 ラーラとバルの気持ちを読み間違えたのかと、ミリは戸惑った。


「ミリ?」

「はい、お母様」

「あなたが断る事で、レント殿は困ると思うけれど、それは構わないのね?」

「いいえ、お母様」

「え?構うの?」

「あ、いいえ、お母様。レント殿は優秀ですので、私を頼るだけではなく、他にも別の手段を考えていると思います。ですので私が断っても、それだけでレント殿が困ると言う事はない筈です」


 ミリはレントの手紙の便箋に書かれている内容より、もっと詳しい秘密の話が手作り封筒に記されているのだろうと考えていた。本当ならそれも読んでから今後の対応を決めたかったのだけれど、現状では今の手持ちの情報で判断するしかない。


 ラーラとバルは、ミリがレントに多少は好意を持っているのではないかと思っている。それなので、レントの才覚を信じているのだとしても、随分とあっさりと協力しない事を決めるミリを見て、二人ともミリの人間性に少し不安を感じた。

 その二人の気持ちを感じ取って、ミリも不安を覚える。


「あの、受けた方がよろしいですか?」

「あ、いや。ミリはどうしたい?」

「いえ、あの、断ろうかと思いましたけれど、受けても構いません」

「あ、いやいや、断りたいなら断って良いんだよ?」

「あの、はい」

「え~と、ミリ?ミリはどうしたいんだい?」

「どちらでも構いません」


 バルはまたミリが、バルとラーラが決めた事を守ると言いそうだと思って、どうにかしてミリの気持ちを知りたいと考えた。考えたけれど、どう伝えたら良いのか分からない。

 ラーラを見ると、ラーラも同じ様な表情でバルを見ている。

 バルは諦めて、ストレートにミリに伝える事にした。


「ミリ?」

「はい、お父様」

「ミリはどちらにしたいのか、レント殿の要望を受けたいのか、それとも断りたいのか、本当の事を教えてくれないか?」

「あの、お父様とお母様は、依頼を受けるのは反対なのですよね?」

「いや、私達の事は良いから、ミリがどうしたいのか、それを教えてくれないか?」

「あの、お父様とお母様の仰る通りにしたいです」

「ミリ・・・」


 バルの困った表情を見て、ミリの顔にも困惑が浮かぶ。二人の様子を見て、ラーラが口を出した。


「ミリ?」

「はい、お母様」

「お父様はあなたの意見を訊いているのよ?それは分かりますね?」


 責めてしまえばミリは本音を言い出せないだろうと思って、ラーラはなるべく優しい口調でミリに尋ねる。


「・・・はい」

「あなたは受けたいの?断りたいの?」


 最近はこんな遣り取りが多いな、とミリは思った。そして途方に暮れて項垂れる。


「あの」

「ええ」

「・・・私は、お母様に産んで頂いた事も、お父様に育てて頂いた事も、感謝しています」

「ミリ・・・」

「・・・ミリ」


 ミリは顔を上げて二人を見た。


「それなので、お二人のご希望に沿った生き方をしたいと思っているのです」


 バルとラーラは、やはりミリから気持ちを訊き出す事は今回も難しそうだし、出来たとしてもかなりの時間が掛かるだろうと思えて、小さく溜め息を吐いた。

 その溜め息を感じて、ミリは呆れられたのかと受け取ってしまう。


「申し訳ありません」


 そう言って頭を下げるミリに、バルは慌てた。


「いや?ミリ?どうしたのだい?申し訳なくなんてないだろう?」


 一方でラーラは、人の話を真っ直ぐに受け取らないこの頑固者は誰に似たのだろう、と呆れていた。


「ミリは私達に正直に話せない、と言う事?」

「正直にって何をだい?」

「気持ちを正直に話せないから、申し訳ないと言っているの?」

「気持ちを?ミリ?そうなのかい?」


 ミリとしては、二人に感謝しているのは正直な気持ちなので、ラーラが何を言っているのか分からない。


「あの・・・お二人を失望させてしまいましたので」

「失望?」


 バルとラーラはお互いを見合い、お互いの顔に疑問が浮かんでいるのを確認して、二人はミリに顔を向ける。


「ミリに失望している訳、ないだろう?」

「誰かに何かを言われたの?」


 そう口にしていながらラーラは、ミリが簡単に人の意見に左右されるくらいなら、この頑固者から気持ちを訊き出す事だって簡単だろうな、と思っていた。


「いいえ。お二人が溜め息を吐いたので、お二人の気持ちを汲めなかったのだろうと考えました」

「溜め息を吐いたのは違うのだよ」

「私達の気持ちを汲んではいないけれどね」

「ラーラ?何故その様な事を口にするんだ?」

「だってバル、汲んではないでしょう?私達はミリがどうしたいのかを知りたいのに、私達の希望に沿いたいなんて」

「いや、そうだけれど」

「申し訳ありません」

「いや、ミリ?違うからね?ミリが私達の希望に沿ってくれようとするのは、私は嬉しいんだよ?嬉しいんだけれど、でもね?でも今は、ミリの気持ちが知りたいんだよ」

「・・・はい」


 ミリからしてみたら、バルとラーラの言う事をきいて二人が望む様にしたい、と言うのがミリの気持ちだった。それがどうしたら伝わるのか、ミリはまた途方に暮れる。

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