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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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レントからの相談の手紙

 バルに喚び出されてコードナ邸に帰ったミリは、居室に入ると待っていたバルとラーラに向けて挨拶をした。


「ただいま戻りました、お父様、お母様」

「ミリ、お帰り」

「お帰りなさい、ミリ」


 ミリは朝はコードナ邸に来ているけれど、その時は両親とは朝の挨拶をしている。それなので久し振りにただいまと言った気がする。そして久し振りにお帰りと言われた気がした。その所為なのかどうなのか、ミリは少し気分が落ち着かない。

 自分自身を誤魔化す様に、少し早口でミリはバルとラーラに尋ねた。


「急ぎの要件と伺いましたけれど何かあったのでしょうか?」

「取り敢えず、座りなさい」


 バルにそう言われて、二人の向かいの席にミリは腰を下ろす。

 使用人がミリのお茶を用意すると、ラーラは使用人達を下がらせた。


 バルが便箋と封筒の載ったトレーをミリの前に置く。


「レント・コーカデス殿からの手紙なのだが、これに付いては至急に話をした方が良いと思ったのだよ」


 トレーの上の手作り封筒を見て既に、ミリはレントからの手紙だと気付いていた。

 レントもコードナ家宛てに手作り封筒は使わないだろうとミリは考える。しかし普段ならレントからのミリ宛の手紙は開封されて確認された後、ミリの私室の机の上にただ置かれているだけだ。

 もしかして何かトラブルだろうか、とミリは思いを巡らす。


「読んでもよろしいのですか?」

「ああ。ミリ宛てだから読みなさい」

「はい」


 ミリは便箋を手に取って、内容を確認した。

 そこには魚の干物の販売について、アドバイスが欲しいと書かれている。

 魚の干物との事で、思い当たる節のないミリは首を傾げた。


「その内容について前以て、レント殿から何か相談があったりしなかったのかい?」


 バルの問いにミリは「はい」肯く。そして直ぐに「あっ」と声を漏らした。


「うん?何か思い当たるのかい?」

「以前レント殿に、魚の調理方法を知らないか、尋ねた事があります」

「ああ、あれか。それはあったね」

「魚の調理方法?何の事?」


 ミリとバルの会話を聞いて、今度はラーラが首を傾げる。

 バルの祖母デドラが魚を食べてみたいと言った為に、ミリは魚の調理方法を調べていた。そしてそれを手紙でレントに尋ねた事がある。

 その手紙はバルが目を通していたけれど、デドラが魚を食べたがっているとのミリの話を聞いて、バルは頭を抱えた事を思い出した。ラーラに説明するのも躊躇われて、バルはラーラには伝えないまま、ミリからレントに手紙を送らせていた。

 今もラーラへの説明をバルが躊躇っているので、ミリは自分からラーラに説明する事にする。


「お母様?魚を食べる国もあるではありませんか?それなのでどの様な料理をするのか、領地が海に接しているコーカデス伯爵領には、何らかの調理法が伝わっていないか、レント殿に手紙で尋ねたのです」

「私はその手紙を見てはいないのだけれど?」

「それはラーラ、俺が確認してミリに送る事を許可したんだ」

「いつもは私にも確認させてくれるのに?」

「いや、まあ、そうだけれど」

「もしかして、私がヤキモチを焼くかと思って?」

「え?なんで?どうしてそんな話になるんだ?」

「分からないけれど、私に隠す必要がある内容だったのかと思うから」

「そんな訳はないだろう?」


 バルは首を左右に振って溜め息を吐くと、事情を話す決意をした。


祖母(ばあ)様が、魚を食べたがったんだよ」

「え?お義祖母(ばあ)様が?どうして?」

「亡くなる少し前に、食欲が落ちていたろう?」

「ええ。そう聞いたけれど」

「それでミリが食べたい物を尋ねたら、魚を食べてみたいって言ったそうだ」

「魚を?ミリ?本当なの?」

「はい」

「バル?その手紙を私に見せなかったのは、お義祖母様の名誉を守る為だったと言う事?」

「名誉って言うか、そんな話をラーラにしたら、心配するかも知れないと思って」

「心配って何よ?」

「祖母様の体調を心配してくれていたろう?あの状況で魚が食べたいなんて言い出すなんて、一体どうしたのだろうと心配になるじゃないか?少なくとも俺は心配したし」

「そうかも知れないけれど・・・ミリ?」

「はい、お母様」

「魚の調理法はソウサ商会にも問い合わせたの?」

「はい。ヤール伯父ちゃんに、魚を調理出来る料理人を探して貰っていました」

「見付からなかったのね?」

「はい」

「パノにも尋ねた?」

「はい。パノ姉様もピナお養祖母(ばあ)様も、調理法はご存知ありませんでした」

「ピナお養祖母様にも尋ねたの?」

「はい」

「そう・・・でも結局、デドラ曾お祖母様は魚を口になさらなかったのね?」

「はい。もしかしてお母様は調理方法をご存知なのですか?」

「いいえ。知っているのは、魚を生で食べる事もあるって事くらいね」

「生で?」


 ラーラの言葉に、バルは眉間に皺を寄せるが、ミリは肯いた。


「刺身ですね?」

「ええ」

「生で食べて大丈夫なのか?」

「大丈夫な魚がいるそうよ?」

「調理方法も特殊なのではないでしょうか?特定の国でしか食べる事は出来ないそうです」


 バルは魚は生臭いと聞いていた。それを生で食べるなど、バルにはとても信じられない。

 生のまま食べるなんて調理とは言えないと思いながらも、生で良いなら食べるのは簡単な筈だともバルには思える。

 刺身をデドラが食べる事がなかった事に付いて、その調理法がこの国に伝わっていなかった事に、バルはつくづくと感謝した。

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