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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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干物の過去

 干物をあまり食べ進められない会話担当の護衛に向けて、村人は手を差し出した。


「食べきれないなら残して構わないよ。寄越しな」

「いや、味わってるんだ」


 少しずつ干物を囓っていく会話護衛の姿に、村人は口角を上げる。

 同じ様に少しずつ口にしていたけれど明らかに味を楽しんでいたレントが、今は少し気不味そうな表情をしているのを見て、村人は今度は苦笑を見せた。


「煮干しはこの国でもスープに使う使われ方が残っていたから、今でも使い続けている店があるんだろう。領都でも手に入るんだね」

「干物も昔は使われていたのですか?」

「干物は王都に運ばれて、王都の港で貿易船に積まれていた筈だ。その昔はこの国でも食べていたそうだけれどね」


 レントは今日まで煮干しと干物の区別が付いていなかったけれど、干物がコーカデス領の特産品だった事は知っていた。

 広域事業者特別税を起因とした流通の混乱が起こった時に、ソウサ商会がコーカデス領から撤退したのと共に、干物は王都に運ばれなくなっていた。

 しかしレントも、この国でも昔は干物が食べられていたのは知らなかった。


「そうなのですか」


 この件もミリとの手紙の話題にして、知っているかどうか尋ねてみようとレントは思う。


「ああ。ウチはその頃からずっと干物を作り続けている。神殿がこの国に広がる前までは、この辺りの村には干物を作っている家が何十軒もあったそうだよ」

「え?そうなのですか?」

「ああ。神殿の信仰が広がるまでは、この国でも魚は食べられていたらしいからね。神殿では、魚は魂の格が低いって教えるんだろう?」

「え?どうでしょう?神殿には行かないので、俺には分かりませんが」


 レントは護衛二人を振り向くが、二人とも首を左右に振って返す。


「お前達、領都から来たのかい?」

「え?ええ、まあ、はい」

「領都では神殿に行かない様になっているのかい?」


 村人が眉根を寄せて尋ねた。


「そうですね。昔より信徒は減っているとの話ですけれど」

「それは人口が減ったからではなくて?」

「いや、どうでしょう?」


 村人はレントの応えにフッと息を吐く。


「まあ、信徒ではないなら、お前達に聞いても分からないか」

「あなたも神殿の信徒ではないのですか?」

「ウチはずっと辰座教だよ」

「しんざ?」


 村人は「知らないか」と呟いて苦笑した。そして片手を空に翳す。


「天の星々に神々がいらっしゃって、その中心に大神が座していらっしゃるって言う、船乗りに広く信仰されている宗教だよ。今の神殿の宗教の前身にあたる筈で、古くからある宗教だ」

「え?その宗教では魚を食べるのですか?」

「船乗りの宗教だし、元々は漁民の間で信じられていたものだからね。他の肉も食べるけれど、魚も食べて構わないよ」

「え?それなのに、今の神殿は魚を食べる事を禁止しているのですか?」


 驚いて尋ねるレントに、村人は「う~ん」と首を傾げる。


「禁止ではなかったと思うけれど、なんか理由があるんだろう。まあ、余所の戒律は良く知らないから、気になるなら自分で神殿で確かめておくれ」

「あ?そうですよね。失礼しました」


 村人は「失礼ではないよ」と笑って立ち上がった。護衛二人が少し身構える。


「お前はまだダメだろうけれど、兄さん達は酒は飲むのかい?」

「俺は飲むけど、兄貴は飲めないんだ」


 会話護衛がそう返す。


「良ければ干物をまだ焼くけれど、一杯飲むかい?」

「え?良いのか?」

「ああ。商人が置いていくんだけれど、一人だとあまり飲む気にならなくて、余っているんだ。良ければ付き合ってくれ」

「それはもう喜んで」

「俺にももっと干物を下さい」


 見上げてそう言うレントに対して、村人は「もちろん」と答えた。


「お前に食べさせようと思って、そうでもなさそうな兄さん達には酒を薦めたのさ」


 村人は武力担当の護衛を振り向いた。


「そっちの兄さんは芋なら食べるかい?」


 チラリと見るとレントが小さく肯くので、武力護衛は村人に「ああ」と返す。


「それなら芋を()かすから、手伝ってくれ」

「それは俺が手伝うよ」


 会話護衛が立ち上がって村人に並ぶ。


「そうかい?じゃあこっちだ」


 村人と会話護衛が建物の中に入って姿が見えなくなってから、武力護衛がレントを向いた。


「酒を飲まされたりして、このままですと、宿に戻れなくなります」

「今日はここに泊めて頂きましょう」

「よろしいのですか?」

「よろしいもなにも、泊めて頂けるのならではありますけれど、明日は早めにここを出て、他の村は素通りして帰りましょう」

「分かりました。ですが素通りは難しいのでは?」

「村人に絡まれそうですか?」

「女達は絡んで来るでしょうし、あのお嬢様が素通りさせないのでは?」


 レントはお嬢様と呼ばせていたビーニの事を思い出して、苦笑いを浮かべる。


「そうなったら、わたくしを抱えて突破して貰えますか?」

「よろしいのですか?その、また、レント様の事を少女とか言われるかも知れませんが?」

「そうなったらもう、キロは女の子と言う設定でも良いかも知れません」


 表情を消してそう言うレントに、武力護衛は言葉を返さなかった。

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