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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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二つ目の漁村

 次の漁村に着くと、村人を見掛ける度に「見ない顔」「あんたら誰だ?」とレント達は言われる。

 その都度会話担当の護衛が説明するのを聞きながら、お嬢様と呼ばせていたビーニのお陰で結果的に、最初の漁村では初対面の挨拶が一度で済んでいた事に気付き、レントはビーニに少しだけ感謝した。


 こちらの漁村の人達は、絞られた筋肉質の体付きをしており、レントのイメージに合っていた。そして村には活気があった。


 仕事を探していると伝えると、護衛の二人にはあると言われる。どれも食事の寝床付きだが、金額は安い。確かにお駄賃程度だ。


「なんでどこも食事と寝床付きなんだ?」

「朝早かったり、昼寝したり、夜遅かったりするからな」

「一日で二日分、仕事をするんだよ」

「マジか?」

「あはは、マジだって」

「なぁに、すぐ慣れるよ」


 魚が良く獲れる時間帯に合わせて一日二回漁をするから、そう言う生活になるとの話だった。

 獲れた魚を加工するのも、一日二回になる。


「昔からそうなのか?」

「いいや、最近だな」

「最近でもないだろ?」

「ほんの十年くらいじゃないか?」

「これだから年寄りは」

「その前はこうじゃなかったのか?」

「ああ。肥料が売れなくなった時期があって、町では漁をしなくなったからだな」

「その後また肥料が売れ始めても、町ではもう作らなくなってたから、その分の注文がこっちに回って来てるんだよ」

「なるほどね」


 村長が仕切って肥料の生産量を各家に振り分けているけれど、どの家も人手が足りないと村人が笑って言う。

 肥料が売れなくなった時に村を出て行った人達も、帰って来たりはしている。しかし半分も戻らないと、今度は苦笑いをして村人は言った。


「そっちの子は魚を捌けるのかい?」

「ううん」

「じゃあダメだな」


 レントはこの村のどこでも断られた。

 この村での子供の仕事は魚の加工なのだけれど、子供達は人がやるのを見ていつの間にか魚を捌ける様になるから、教え方は分からないと村民は口を揃える。それなのでレントには、魚を捌ける様になってからなら雇うと、これも皆が口を揃えた。


 レントは会話護衛を促して、魚の干物に付いて尋ねてもらう。


「なあ?ここでは魚の干物を作ってるのか?」

「魚の干物?なんだそりゃ?」

「ここで作ってるのは肥料だけだよ?」

「こう、魚を干してあって、シワシワの皺くちゃになってて、そのまま食べられるんだけど」

「食べられる?魚を?」

「家畜に食べさせるのかい?」

「いや、どうかな?」


 会話護衛はチラリとレントを見た。レントは漁村の人間が魚の干物を知らないとは思っていなかったので、護衛には詳しい説明をしていなかった。

 レントが一歩前に出て口を出す。


「獲れた魚を煮て、それを干した物なのです。そのままでも食べられますが、炙って食べたりもします。家畜の餌にする場合は内臓を取りませんが、人の食用では頭や内臓を取ってから煮る事もあります」

「人が食べるのか?」

「うん」

「魚を?」

「うん」

「聞いた事ないな」

「そうね」

「作っていないだけではなくて、聞いた事もないのですか?」

「ああ。聞いた事もない」

「あ!ほら、あの人に聞いてご覧よ」


 村人が指差す方向に、人影が見えた。


「お~い!村長!」


 村人が手を上げると、その人影が手を上げ返す。村長と呼ばれたその人物は、レント達の方に歩いて来た。


「見ない顔だな?お前達、誰だ?」


 会話護衛が自分達の事を村長に説明をする。

 こう何度も尋ねられると、もしかしたらこれがこの村の挨拶なのかも知れないと、レントには思えて来た。


「なあ、村長?魚の干物って知ってるか?」

「干物?」

「干した魚で、食べる人もいるんだってさ」

「食べる?」

「たまに売られているのですが、ご存知ありませんか?」

「人が食べるのはご存知ありませんだが、魚の干物は聞いた事がある」

「この村では作っていないのですね?」

「ああ。作ってた話も聞かないな。お前達、どっから来たんだ?」

「俺達は領都の方から来ました」

「そしたら、町を通ったろ?町の向こう側にも村があって、そっちかも知れん」

「そうなのですか?」

「あ、いや。俺も良く知らんが、なんか(くさ)い物を作ってるって聞いた事がある。もしかしたらそれじゃないか?」

「臭い?」


 レントは一瞬小首を傾げたけれど、直ぐに二人を振り向いて肯く。

 レントの祖父リートと祖母セリは、魚が生臭いと言っていた。もしかしたら二人は作る課程の(にお)いの事を言っていたのかも知れない、とレントは考えた。それなので、この村はもう引き上げて、そちらに向かおうと思ったのだ。


「村長。この子に出来そうな仕事なんてないよな?」

「うん?お前、魚は捌けるのか?」

「ううん」

「じゃあダメだな」


 またレントは不採用を告げられた。

 そしてふと、ミリに頼まれていた事を思い出した。


「魚を捌くとは、調理をすると言う事ですか?」


 ミリは魚の調理の仕方を知りたがっていた。どう調理するのかはレントには分からないけれど、肉料理を作る時には「肉を捌く」と言う言い方をする事をレントは思い出していた。


 小首を傾げて見上げて来るレントに、村長も村人達も笑い声を上げる。

 村長がレントの背中を叩こうとするのを武力担当の護衛が腕を伸ばして遮ると、それを見て村人はまた笑い声を上げた。村長は今度は武力護衛の背中を笑いながら叩いた。

 そして村長はレントに顔を向ける。


「良いか、坊主?調理ってのは食べる為にする事だ。ここの魚は畑の肥料になるんだから、調理の為に捌くんじゃないんだ」


 おかしそうにそう言って、村長も村民達と同じ様に笑う。

 ビーニもそうでしたけれど漁村の人の笑いのツボは全く分かりません、とレントは内心憮然としながら、顔には微笑みを浮かべていた。

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