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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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女でも男でも

 会話担当の護衛が新しく付けた、レントがおっちょこちょいだと言う設定に、少女は納得していない表情だが、女達は笑って肯いた。


「お嬢様よりこの子の方が、よっぽどお嬢様っぽいんじゃないか?」

「なんだって?」

「睨むなって、お嬢様」

「お嬢様は抱っこで運ばれた事なんてないだろ?」

「そうよ、お嬢様。こういう時は謙虚に、この子から学ぶべきよ?」

「うるさい。お前らの意見なんか聞くもんか」


 少女は女達を押し退けて、レントの傍に立った。


「あんた、ホントに男なのか?」

「うん」


 レントの返事に女達が嬌声あげる。


「あはは、うんだって」

「可愛らしい声」

「ホント、女の子みたいなの声ね」


 その評価にレントの気分は下がるけれど、顔には出さない。ただし昨日は、微笑みを浮かべていたら喜んでいると少女に思われたので、レントは無表情を作っていた。


「お前らうるさい!今はあたしが話してんだ!」


 お嬢様が女達を睨み回すけれど、女達には気に()める様子が全くなかった。


「だって、どう見ても聞いても女の子に見えるよね?」

「お前ら!どっか行けって!」

「ねえ?こっちおいで、あたしが男か女か確かめてあげるから」

「あ、そうだよね。ほら?確かめてあげるから」

「あたしが確かめるって」

「みんなで確かめれば良いだろ?」

「ほら、おいでよ?女の子なら女同士なんだから構わないだろ?」

「男の子ならお姉さんがサービスしてあげるよ?」

「男の子なら大人にしてあげるから」

「そうそう。だからほら、照れないで」

「お前ら!邪魔すんな!」


 少女はレントの手首を取って、女達の輪を抜けた。護衛二人はその後を付いて行ったが、女達はその場で笑い声を上げる。


「どうしたの?お嬢様?」

「お嬢様もその子が気に入ったの?」

「その子にときめいちゃった?」

「もしかして、その子に永久就職させる気?」

「え?その仕事って、お嬢様のダンナ様って事?」

「まあ!さすがお嬢様!お目が高い!」

「良い買い物だよ、お嬢様!」

「二人ともお幸せに!」

「兄さん達は邪魔しちゃダメだよ!」

「そうそう、弟が幸せを掴むんだから!」

「ほら!戻っておいで!」

「兄さん達はあたし達が相手してあげるから!」

「そうだよ!あたし達でガマンしときな!」

「ガマンってなんだい?」


 女達の笑い声は続いていた。



 少女はレントの手首を握ったまま、海が見える場所まで来て足を止めた。


「あんた、ホントに男なのか?」


 レントはちょっと躊躇って「ああ」と返した。「うん」だとまたバカにされるかと思ったのだけれど、「ああ」と言う返事は自分に少し似合わない様にレントには思えて、また少し気分が下がる。

 そんなレントの気分など関係ない様に、少女は笑顔を向けた。


「そうか。あたしはビーニってんだ。あんた名前は?」

「オレは、キロ」


 レントの「オレ」は声が裏返ったけれど、ビーニと名乗った少女はそこは気にしなかった。


「キロ?あの悪魔の話に出て来るキロかい?」


 悪魔がラーラの事だと分かり、レントは口を閉じる。


 偽名を付けるに当たってレントは、先ずは良くある名前にする事に決めていた。そして声を掛けられた時に気付かない事がない様に、多少でも関わりのある名前を選んだ。

 つまりラーラの亡くなった護衛のキロの名前から偽名を付けていたので、ビーニの言葉は合ってはいたのだけれど、ミリの母であるラーラを悪魔と言われたら、それを知らない振りして直ぐに肯定は出来なかった。


「ねえ?ホントは女で、ミリって名前だったりはしないよね?」


 レントは少しドキリとする。ビーニの言うミリはラーラの亡くなったメイドの名前だけれど、レントに取ってはラーラの娘のミリの方が頭に浮かぶからだ。

 もちろん、キロの妹のミリの事もレントは知識にあるし、偽名をキロにする時に、ミリとお揃いの様な感覚を持った事もレントは覚えていた。


「・・・ちがう」

「じゃあ、ハダカになってみな」

「え?」


 レントは思わず胸を守る様に自分を抱いた。


「え?ホントに男なの?」

「もちろん、だ」

「胸を隠して?」

「男の裸が見たいなんて、破廉恥だろう?」

「ハレンチ?ってなに?」

「君みたいな人の事だ」

「なによ?どう言う意味よ?恥ずかしいって事?あんたはまだ子供でしょ?」

「当たり前だ」

「・・・あたしが男なら見せた?」

「男でも女でも見せない」


 レントと睨み合うビーニは、「ぷっ」と吹き出してから笑い声をあげる。


「分かったよ。見ないけど男って信じてあげるよ」


 ビーニがケラケラと笑うけれど、レントには何がおかしいのか、さっぱり理解が出来なかった。


「あんたら、漁村に行くの?」


 ビーニが会話護衛を振り返って訊く。


「ああ、その積もりだ」

「あいつらが言ってた通り、キロには仕事は見付かんないよ?」

「そうか?」

「ああ。行くだけムダだね」

「だけど、ここじゃあ仕事がないんだろ?」

「まあね。キロはもしかしたら、あいつらが雇ってくれるかも知んないけど」

「オレは男だ」


 レントはまた「オレ」を声を上擦らせながら言った。


「分かったよ。でも男でもキロなら、あいつらが面倒見るかもよ?」

「え?なんで?」

「キロが可愛いからさ」


 ビーニはまた笑い始めたけれど、いったい何が面白いのか、今度もレントには全くわからなかった。

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