就ける仕事
翌日、漁村の宿から出たレント達は、女達に囲まれた。女達からは、宿の部屋に今朝もまだ残っていたのと同じ様な、香水の臭いがする。
「ホントだ。可愛らしい子じゃないか」
「でもまだちょっと幼いよ」
「小間使いとかでも良いだろ?」
「そうだね」
「賢そうな顔してるし、芸を仕込めば化けるんじゃないかい?」
「仕込むのは芸だけじゃないけどね」
何が面白いのか、女達は「あっはっは」と笑い声を上げる。
「あんたら、夕べのお姉さん達だよな?」
会話担当の護衛が訊くと、女達は口々に肯定した。
「あんたら三人、仕事を探してんだろ?」
「ああ」
「この子なら、あたしが雇うよ」
「抜け駆けすんじゃないよ」
「あたしんとこ来なよ」
「あたしんとこの方が楽しいよ?」
「ウチに来たら直ぐにこの町一番の売れっ子にしたげるよ?」
「何言ってんだ。一番はあたしのとこだよ」
「あんたらのとこじゃダメだよ。ウチは上品だから、あんたに合うよ?」
「どこが上品なのさ?」
「胸がお淑やかって事だろ?」
「なんだって?あたしはあんたらみたいに垂れてないだけだよ」
「誰が垂れてるって?」
「比べてみるかい?」
「もちろんだ。兄ちゃん達?誰のおっぱいの格好が一番良いか審判してくれ」
「待った待った」
会話護衛が両手を突き出して、女達を止める。
「こんなとこで胸を出そうとするなよ」
「夕べは暗くて良く見えなかったろ?」
「手触りだけじゃなくて、形もちゃんと比べてよ」
「肌触りも確かめ直すかい?」
「止めろってば。弟の教育に悪いだろ?」
「はあ?」
「自分はさんざん味わっといて、何言ってんだい?」
「俺は良いの、俺は。それに言っとくけど、弟は男だぞ?」
「弟ってそっちのでかいのかい?」
「でかいのは兄貴。ちっこいのが弟」
女達がまた「あっはっは」と笑い声を上げる。
「分かった分かった」
「弟だね?分かったよ」
「だけど言っとくけどね?子供なんて直ぐに大きくなるんだよ?」
「そうそう。仕事、探してんだろ?男として勤めても、直ぐに女っぽくなっちゃうから」
「そうだよ」
「あんたら二人なら、この先に行けば仕事が見付かるんじゃないか?」
「二人って、俺と兄貴?」
「ああ、そうだよ」
「力仕事探してんだろ?この先に漁村があるから、行ってみな。でもこの子の仕事はないよ」
「そんでこの子はここに残れば良い」
「ああ、ウチで雇ってやるから」
「あたしが雇うってば」
「まあ誰かしら面倒見るから、あんたらは金が出来たら遊びに来れば良いんだよ」
「そうそう、この子の為にもいっぱい稼いどいで」
「いや、待てよ。ここはよそもんには仕事がないんじゃなかったのか?」
「確かに男にはないよ」
「でも女なら別さ」
「あたしらだって、よそもんって言えばよそもんだし」
「あたし達みたいな商売は、ここの女達はやらないからね」
「そうそう。あたしらみたいなのがいなければ、男らが困る。だから女ならよそもんでも仕事があるんだよ」
「そうなのか。でもな?弟は男で、俺達三人は一緒に働きたいんだ」
「だから、男って事にしたら、この子の働き先なんて見付からないって」
「そうだよ」
「いや、どう見ても男だろ?」
「カッコはね」
「でも、旅するのに男のカッコさせてるだけだろ?」
「お嬢様が言ってたよ」
「ホントは女だってね」
「ねえ?お嬢様?」
女達が振り向くと、後ろにいた少女が「ああ」と返した。
会話護衛が眉間に皺を寄せてお嬢様に尋ねる。
「お嬢様?なんでそんな話になってんだ?」
「ホントは女だから、海に入らなかったんだろ?」
「海に?」
「裸になったら女だってバレるじゃないか」
「何言ってんだよ。俺らも入らなかっただろ?」
「あんたらは海に来た事があんるだろ?初めて来たのに海に入らないなんて、女だってバレない様にしてるしかないじゃないか」
少女は得意気な表情を浮かべた。
「いや、お嬢様?なに、その決め付け?」
「それにゆうべ遅く、あんたら海見に行ったろ?」
「え?なんで?」
「見てたやつがいるんだよ。初めて海で泊まったら、必ず夜の海を見るからね」
「見てた?どこで?」
「自分家からだろ?」
「自分家って、海岸の方にあるのか?」
「そんな訳ないだろ?」
「それなら見えないんじゃないか?」
「あんたらと違って、みんな目が良いんだよ。暗くても遠くまで見えるさ」
「そう言う、事か。それで?俺達を見たからなんだって?」
「でっかい兄ちゃんがその子を抱いて歩いてたろ?」
レントは塩田に行った事が見られたのかと思ったけれど、少女や周りの様子から、そうではなさそうだと考えた。護衛二人に目配せすると小さく肯き返されたので、二人も同じ意見だろうとレントは少し安心した。
しかし今度は、あれを見られていたのかと思うと、羞恥が込み上げて来る。
「ああ。それが?」
「そんなの、女の子にする事じゃないか」
その結論も仕方ないとは思うけれど、レントは言い返したい。
「仕方ないんだよ。コイツはおっちょこちょいだから、暗い中歩いたら転ぶだろ?抱っこして歩くんが俺達も楽なのさ」
言い返す言葉をレントが考えている内にまた、今度はおっちょこちょいだとの設定がレントに増えた。




