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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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36 気付ける人達

 ラーラは届けられた手紙を見ていた。既に3度読み直したので、今は眺めているだけだ。


 その差出人の名はパノ・コーハナル侯爵令嬢となっていた。

 ラーラに渡された時には既に封が切られていたので、祖父母も両親も内容は把握済みだ。そしてラーラに渡したと言う事は、パノの誘いにラーラが乗る事に問題ないと、家族は判断していると言う事だ。


 もっともラーラの家族からは、パノ宛てに質問の手紙が送られている。

 パノからの手紙には、誰にも言わずに一人で指定の日時に指定の店に来いと書かれていた。それを家族が検閲の為に見てしまったので、問題ないかを確認しているのだ。それに貴族の言う人数には、通常は使用人を含まない。つまり一人と言われても、ラーラに護衛とメイドを付けても構わない筈だけれど、それも念の為に確認している。

 ただソウサ家はもちろん、ソウサ商会もコーハナル侯爵家との付き合いがほとんどない。ソウサ家が出した質問の手紙をちゃんと読んでくれているのか、セールスメールと間違えられて捨てられたりはしていないか、心配ではある。



 ラーラがバルへの気持ちを忘れる件は、上手くいってはいなかった。

 それはバルの所為でもある。ラーラへの気持ちを自覚したバルは、ラーラから見たら以前より輝いて見えるのだ。恋する男の子は輝くらしい。

 もちろんラーラはバルの気持ちを知らないので、日々眩しさに磨きが掛かるバルに対して、ハッキリ言って迷惑だと思っている。諦めに繋がらない。


 大親友計画なんて立てなければ良かったかも知れないと、ラーラは思い始めていた。少なくともタイミングは悪い。

 まだ計画を立てただけで、実際にはマスト登りも湖での舟遊びも料理も(おこな)っていない。

 けれど二人で楽しく計画を立てるだけでも、気持ちが膨らんでしまう。


 それは仕方がない。何故ならバルはラーラの気持ちを膨らましに掛かっているのだから。

 正確には、ラーラの思いをバルは知らないので、ラーラに気持ちを芽生えさせようとしているのだけれど、もうどっちでも一緒だ。



 自分の気持ちを楽にする為にも、ラーラはパノからの誘いに乗ろうと思っていた。


 パノはバルのクラスメイトだ。そのパノがラーラを喚び出すのだから、バルに関しての話だろう。

 パノはリリ・コーカデス侯爵令嬢の友人でもある。もしかしたら、リリも同席するのかも知れない。


 ソウサ家の集めた情報では、リリもバルの事を満更でもなく思っていた筈だ。

 ラーラには、少なくともバルとの関係の事情聴取が、もしかしたらバルとの関係に付いての警告が、ひょっとするとリリとバルの仲を取り持つ様に要請が、あるのかも知れない。


 ラーラはリリの事を遠目に見た事があるだけだ。けれどもかなりの美少女なのは知っていた。貴族令嬢は美しい人ばかりだが、リリは殊更に美しいとラーラは感じている。さすがバルの想い人だと思っていた。


 リリと会って話すことが出来たなら、きっとラーラのバルへの気持ちも諦めが付く。少なくとも静める事は出来る筈だ。

 もちろんバルに相応しい人かどうかは、バルの親友としてしっかりと確認させて貰う。


 最近のコードナ侯爵家の人達との付き合いで、特にバルの祖母デドラ、バルの母リルデ、たまにバルの姉ヒデリも参加するお茶会に頻繁に招かれているラーラに取って、年上とは言えまだ学生のパノもリリも怖い存在には思えなかった。

 所詮はバルのクラスメイトだ。


 ただパノの指定した日が、マスト登りの約束の日である事は、ラーラの気分を下げている。

 バルとマスト登りの日時変更を相談して、船の持ち主のスランガと船見学の日時変更を調整して、コードナ侯爵家とソウサ家の両方に日時変更の了承を取らなければならなかった。



 迎えに来るバルを待つ為に玄関に向かおうとして、ラーラは二人の男性に気付いた。


「ワール兄さんと、え?ヤール兄さん?」


 ラーラの次兄ワールと三兄ヤールが玄関の手前で話をしていた。


「取り敢えずワール兄さん、おはよう」

「おはようだけど、取り敢えずはいらんだろう?」

「だってヤール兄さんがいるんだもの。どうしたの?」

「え?俺にはおはようなし?」

「おはよう、ヤール兄さん」

「おはようラーラ。今日も可愛いよ」

「あ?何俺のセリフを取ってんだ?」

「早い者勝ちだろう?商売と一緒だ。機を見るに敏だよ」

「ヤールのは急いては事をし損じるだ」

「し損じてないだろう?」

「ラーラ。今日ももちろん素敵だけれど、ここ数日で更に磨きが掛かる様な幸せな出来事があったんじゃないのか?」

「うわ~。俺のラーラに何言ってんの?」

「俺のラーラだ」

「兄さん達。朝から二人に会えた事が今日一番の幸せよ」

「相変わらず可愛い事言うね、ラーラは」

「ありがとう、ラーラ。さあ、ラーラの顔も見たんだし、お前はさっさと行商に戻れ」

「いや、今来たトコだし」

「どうしたの?ヤール兄さんが王都に戻ってるなんて、トラブル?」

「トラブルはお前だよ、ラーラ。酷い噂が俺ん所まで流れて来たぞ?」

「西にまでか?」

「そう!いつもは噂が届くのが遅い、西にまで。南や北はもっと酷いんじゃないか?」

「所詮は噂よ。ヤール兄さんだって信じてないでしょう?」

「それが微妙だから、慌てて帰って来たんじゃないか。ラーラが何人もの男を手玉に取っていて、本命の侯爵令孫は骨抜きにしてるなんて、みんな信じるだろう?」

「まあラーラがやるかどうかは別にして、ラーラなら出来るからな」

「はあ。そんな事言うの、兄さん達だけよ」

「父さんは?」

「祖父さんも」

「まあ、あの二人も近い事は言うけど、そうじゃなくて、私くらいの容姿でそんな事を言ってると、ソウサ商会の商品は誇大広告だろうって言われちゃうわよ」

「ラーラくらいの容姿って、完璧って事だろう?」

「馬鹿だなヤール。女神だって事だ」

「女神だって欠けてるね。欠けてないラーラの方が上だ」

「欠けているのではない。未満の美だ。まだ大人になりきってないラーラだから」

「待ってワール兄さん!そう言う評価はたとえ兄弟からでも気持ち悪いんだけど?」

「え?」

「あはは!やーい嫌われてやんの!」

「嫌われてない!」

「嫌ってないけど、ヤール兄さんも止めて。学院にはそれこそ完璧な美少女がいるんだから。私なんて十人並みよ」

「はあ?」

「ラーラの部屋の鏡、誰が仕入れたんだ?」

「確かザール兄さんがどっかから手に入れたんじゃなかったか?」

「兄さん、仕入れに失敗してるんだな」

「ラーラ、俺が新しい鏡を贈るよ。歪んでないやつ」

「いや鏡なら輸入品の方が良い。ラーラ、俺が手に入れて来るから、それまではまあ、ザール兄さんのかヤールのか、我慢して使っていてくれ」

「我慢ってなんだよ?」

「歪んだ鏡を使うと目も悪くなるらしいから、早急に仕入れるからな」

「ザール兄さんにも貰ったけど、今使ってるのは父さんが仕入れたやつだから」

「古いな」

「古いね」

「鏡の話はもう良いわよ。それより噂ってヤール兄さんが戻って来るほど酷いの?」

「まあな。かなり悪い噂が流れてる」

「それは王都でも一緒だ」

「なんで放っといてるのさ?」

「貴族が絡んでて、上手く消しきれないらしい」

「貴族って、侯爵令孫の所為?」

「バル様の所為じゃないわ!」


 ラーラはつい大声を出した。兄二人は思わず眉を上げ口を半開き、ラーラを見る。ソックリな表情だ。


「コードナ侯爵家の見解でも、コードナ家向けの噂ではなく、私向けかソウサ商会向けらしいって事なの」

「そんなの、貴族が自分で言ってるだけだろう?」

「なに?ヤール兄さんは私には人を見る目がないって言ってるの?私がコードナ侯爵家の事を信じるのは間違いだって?」

「え?いいや、違うって」

「それともヤール兄さんには、私の言う事が信じられないって訳?」

「そんな事、言ってないだろう?」

「ラーラ。ヤールがラーラを心配してるのは分かってるな?」

「それは、うん。心配してくれたから私の為に戻って来てくれたんでしょう?」

「そう!そうなんだ!」

「ヤール。王都に残ってるみんなも、噂に対応しようとしてはいるんだ」

「それは分かってる。みんながラーラを守らない訳ないもんな」

「ああ。その上、コードナ侯爵家も侯爵令孫もラーラには好意的で、貴族対応もしっかりとやってくれている」

「自分達の為だろう?」

「その貴族の自分達の為が、ラーラの為になるんなら一緒だ」

「一緒じゃねえよ」

「結果が一緒なら一緒だ」

「はあ。貴族なんて信じちまってんの?ワール兄さんは?」

「まあ、人によるだろう?」

「そりゃそうだけどさ」

「ヤール兄さん、これからバル様が来るけれど、会って行く?」

「これから?ラーラはこれから学院じゃないのか?」

「学院までバル様と一緒に、コードナ侯爵家の馬車で送って頂いてるの」

「はあ?貴族様が可愛いとは言え平民のラーラを?」

「コードナ侯爵家の皆様は、ラーラに魅了されてるからな」

「ワール兄さん!変な事言わないで!それがまた噂になっちゃったらどうするのよ!」

「でも、それ、使えるかも?」

「貴族の庇護があるってな」

「駄目だって!ウチはそう言う商売じゃないでしょう?」

「商売じゃなくて、ラーラを守る為だろう?」

「そうだな」

「取り敢えずダメ!バル様との交際練習が終われば、コードナ侯爵家の庇護もなくなるんだから、当てにしてたらダメなんだから」

「ラーラがこんな調子だからな」

「はあ。まあ、分かったよ」

「多分バル様に会えば、ヤール兄さんにも良く分かるよ。貴族とか貴族じゃないとかじゃなくて、私の大切な友達だから。この後来るからヤール兄さんも会ってよ。紹介したいから。そう言えばワール兄さんもしばらく会ってないよね?」

「いや、俺はもう仕事に行かなければ」

「え?そう?」

「あれ?ワール兄さん?」

「ラーラの顔を見たから、今日も一日頑張れる。じゃあまた夜にな、ラーラ。ヤールは早く西に戻れ」

「行ってらっしゃい!ワール兄さん!」


 ラーラを何度も振り返りながら、その都度ワールは手を振った。


「俺も、侯爵令孫にお目に掛かるのはまた今度で」

「ヤール兄さんが貴族嫌いなのも分かるけど」

「嫌いじゃないよラーラ?俺の仕事を邪魔する様な事は口にしない」

「ごめんなさい。貴族が得意じゃないのは分かるけど。是非一度は会って欲しいな」

「はあ。ラーラがそう言うなら」

「ホント?」

「西から帰ったら考えるな」


 そう良ってラーラの頭に手を乗せてグリグリと撫でると、その手を離して振って、ヤールはワールと同じ方向に消えて行った。


 ラーラはヤールが見えなくなると急いで髪型を整え直し、バルの来るのを待つ為に玄関に向かった。



「待ってくれ!ワール兄さん!」


 ヤールの声にワールは振り返る。


「ワール兄さんは貴族令孫を避けてるのか?」

「ラーラを見てらんなくてな」

「どう言う事だ?」

「ラーラがバル様に惚れてる様子なんて、見てて辛いもんだ」

「え?俺のラーラが?」

「俺のラーラだ」

「ワール兄さんは恋人がいるだろう?ラーラは俺のだ」

「俺のだって。お前も恋人なり婚約者なり持てば良い」

「俺はラーラが結婚してから考えるから、今は良い」

「そんな事を言ってると、ラーラが可愛い子を産んでしまうぞ?そしたらその子が大きくなるまで大人になるまで結婚するまでって、いつまでも切りがなくなる」

「それならそれで良いさ。ソウサ家の将来は3人の子供達に任せるよ」

「子供を持つのはラーラと兄さんの二人だな。俺は当てにするな。でもあの様子だと、ラーラの結婚はまだまだだろうな」

「なんで?縁談が来てるって話だろう?」

「スランガさんのトコのパサンドな。ラーラはほとんど興味を示してないぞ」

「それで良いのか?ラーラがパサンドと結婚すれば、ワール兄さんがやりたがっている船の商売は楽に始められるんじゃないのか?」

「ソウサ商会のお得意様は兄さんに任せて、新規顧客の開拓はお前に任せて置けば大丈夫だから、俺の新規事業は損や不利益を出さなければ良いだけだ。ラーラとバル様との様子を見たら、ラーラにパサンドを薦めるなんて、俺には無理だ」

「そんなに?もしかしてパサンドを薦めたら、ラーラに嫌われるって事か?」

「ラーラ、随分と綺麗になってるだろう?」

「ラーラは昔から綺麗だ。でも正直、ちょっと驚いたな」

「ああ。ラーラがバル様に向ける笑顔なんて見たら、お前の目は潰れるな」

「そんなにか?」

「自分の目で確かめろ。いつまで王都にいるんだ?」

「父さん達に挨拶して、祖父さん祖母さんのトコに顔を出したら直ぐ戻るけど」

「それなら今すぐ玄関に行って来い。機を見るに敏なんだろう?」

「そうだな。ワール兄さんのお薦めなら、見ておくか」



 玄関に戻り、バルに向けるラーラの笑顔をコッソリと盗み見たヤールの目は、潰れはしなかった。

 しかし、ラーラのあの笑顔をもう一度見たい、まだ見たい、もっと見たいと、王都に居座りそうになったので、ヤールは早く行商に戻れと家族達に追い出された。

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