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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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塩田

 レント達は漁村の宿に泊まった。

 その深夜、武力担当の護衛がレントを揺り起こす。

 室内には香水の(にお)いがしていた。


 会話担当の護衛が先導し、武力担当の護衛がレントを抱き上げて、音を立てずに宿を抜け出す。

 三人はそのまま会話をせずに、昼間より風が出ている暗い道を進んだ。

 


 やがて開けた場所に着く。昼に来たのとは別の場所だったが、その先にも海が広がっていた。

 昼に見た海は輝いて見えたが、いまレントの目に映るのは黒い海だった。


 三人が訪れた場所は塩田だ。


 過去には塩もコーカデス領の特産品だった。

 そして他領への流通がなくなり、領内の人口も減った為、塩の生産量も減らしている筈だった。

 しかし目の前の情景からは、領地の書類上では()めたとされている筈の場所でも、今でも生産が続けられている様にしか見えない。


 レントは塩田を一通り見て回り、ここで塩の密造が行われている事を確信した。


「ここは警備がされていないのでしょうか?」


 秘密裏に塩を作って販売しているのなら、秘密を守る為に警戒をする筈だった。密造酒を作っている場所ではかなり用心がされていたので、夜とは言え塩田に誰もいないのにはおかしいと感じる。悪い事をしている認識がないのだろうかとレントは疑った。


「いいえ。日中は見張りがいて、人を近付けない様にしているそうです」

「なるほど。夜は何故、見張らないのでしょうか?」

「こうして見て回った所ですと、出来上がった塩はどこかにしまわれている様ですので、この状況を見られる事だけでしたら、問題がないと考えているのではないでしょうか?」

「まあ、そうなのでしょうね」


 レントはこれ以上、ここで分かる事も手に入れられる情報もはないと考えて、引き上げる事を決める。

 来た時と同じ様に武力護衛がレントを抱き上げ、その後ろを会話護衛が自分達の足跡を消しながら、三人は昼に行った海岸に向かった。



 海岸の手前の高くなっている場所に着き、昼より満ちている海をレントは眺める。


「随分と波の音がしますね」

「昼より海が近いからでしょうか?」

「昼より風がありますので、その所為かも知れません」

「なるほど」


 レントは小さく肯いて、視線を水平線に向けた。

 しばらく海を眺めてから、レントは会話護衛を振り向いた。


「他には何か、分かった事はありましたか?」


 そのレントの問いに会話護衛は「はい」と肯く。


「酒も果物も簡単に手に入ります。果物は高めですが、酒はやはり安いですね」

「そうですか」


 レントは僅かに視線を下げた。この漁村の近辺では、過去にも果物を作ってはいない。密造された酒と共に、どこからか運ばれて来たのだろう。それは詰まり、領地の書類に載らない流通が存在している事になる。


「あと、乳製品や卵も、昔の様に流通している様です」

「なるほど。それらを購う為の利益は、塩が元になっているのでしょうか?」

「肥料も以前と変わらない程度に作っているそうなので、そちらからも利益は出ているのではないでしょうか?」

「やはりそうですか。他には?」

「村長が町長を自称しているのは、本当の様です」

「それは、なんの意味があるんでしょう?」

「どうやら村長の収入が昔より増えていて、町長並みだからと言う事らしいです」

「・・・それで?」

「つまり、偉いのだと言いたいのでは?」

「・・・その方が村民が言う事を聞くとか?」

「そうかも知れません。金離れも良い様で、慕われてもいる様です」

「そうですか」


 この漁村に限らず、密造酒を造ったりして脱税している村や町の長は、町民村民から強い支持を受けている様に見える事が多い。

 それは町や村が経済的な危機に直面した時に、長達が対処を行って成果を出していたからだ。それが脱税を含む行為であっても、人々に取っては生活を救ってくれた事になるのだから、歓迎されて当然だったのだろう。

 その上に廃れて行く村の話を耳にしたりすれば、自分達を助けてくれる町長村長は、人々に取っては英雄に違いない。


 コーカデス領の立て直しの時に不正を正せば、領民の心が領主から離れて行く事になる様にしか、レントには思えなかった。


 黙ってしまったレントに、護衛が声を掛ける。


「レント様?明日はどうしますか?予定通り、この先の村に視察に行く事で、よろしいですか?」


 護衛達はレントの体力を心配していた。

 この先の村までは距離があるが、この村からは砂地を歩いて行く事になる。


「この先の村は、よそものが訪ねても大丈夫でしょうか?」

「訪ねるだけでしたら大丈夫そうです。しかし色々と話を訊き出すのは難しいでしょう」

「それならここで引き返す事も選択肢に入れましょう。先の村にも仕事がないとの話が朝の内に出たら、我々は諦めて帰ると言う事にします。出なければ予定通り先に進みましょう」

「了解です」

「承知しました」


 それからもうしばらくレントは夜の海を眺め、体が冷える事を護衛に心配されたので、宿に戻る事にした。



 宿の部屋にはまだ少し、香水の臭いが残っていた。

 それは会話護衛が情報収集をする際に付けて来たもので、レントを起こす前に会話護衛は体を拭いたし着ていた服も洗ったのだが、どうした訳か臭いが消し切れなかったのだ。

 武力護衛も協力して消臭を試みていたし、最初よりは大分臭いが減ったのだが、二人は途中で諦めて、レントを起こしていた。

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