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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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 漁村の料理店を出たレント達は、海に向かった。先頭にはレントと少女が並び、その後ろに護衛二人が並んで歩く。少女と一緒だった大人達とは、料理店を出たところで別れていた。

 少女はレントに興味を向けていた。


「そんなほっそい手足で、よくこの町まで歩いて来れたね?」

「うん」

「あの街道を来たんだろ?」

「うん」

「隣の村から、どれくらい掛かった?」

大分(だいぶ)

「途中で兄ちゃん達におぶって貰ったんじゃない?」

「ううん」

「抱っこは?」

「ううん」

「ずっと自分で歩いたのか?」

「うん」

「兄ちゃん達?ホントに?」

「ああ。そいつはちゃんと自分で歩いて来たぞ」

「へ~、こんな細い手足でねえ?」


 そう言って少女はレントの手首を掴んだ。

 護衛達は反応はしなかったが、もちろん少女を取り押さえる算段は、頭の中で常にしている。レントが少しでも危ない様なら、武力担当の護衛がレントを守り、会話担当の護衛が危険な相手を取り押さえる。もし相手が多数なら、おんぶでも抱っこでも良いからレントを運んで、とにかく逃げる予定だ。


「ほら?あたしの手首よりほっそい」


 指で輪を作って掴んで、自分の手首とレントの手首の一回りの長さを比べて見せて、少女はケラケラと笑った。

 レントも微笑んではいたけれど、内心では面倒に思っている。


 レント達はこの周辺の地理を前もって地図で確認しているので、少女に海まで案内をして貰う必要はなかった。

 しかしよそから来た人間が、店を出て何も訊かずに海を目指すのもおかしいかと思って、会話護衛が確認する振りをして訊いたのだ。そうしたら少女が案内を買って出て、断る為の良い口実がなくて、こうして同行していた。


 表通りの広めの道を歩きながら店の説明をしてくれた事は良かったけれど、建物が集まっている所を抜けてから少女はレントに何かと話し掛け、揶揄ったり自慢したりをし続けている。


「足もほっそい。あんた、走ったり出来るの?」

「うん」

「ホント?走ったら足折れない?」

「うん」

「でも転んだら折れそうだよね?転んだ事ある?」

「うん」

「折れた?」

「ううん」

「え~?折れたんじゃない?痛かったでしょ?」

「ううん」

「あ~、やせっぽちで小っちゃくて軽いから、痛くないのか」


 レントは肯定も否定もせずに、微笑んでおいた。

 少女の方がレントより少し背が高い。ミリと同じくらいにレントからは見える。しかし小っちゃいと言われる程の差ではないとレントは思っていた。


「あんた・・・ホントに男の子?」

「え?なんで?」

「だって、やせてるとか小っちゃいとか言われて喜んでるなんて、女の子みたいじゃない」


 内心ではモヤモヤと感じていたレントは、思わず驚きの表情を表に出した。それを見て、少女はニヤリと笑う。


「図星ね」

「ずぼし?」

「ホントは女の子なんでしょ?」


 レントは首を小さく左右に振る。レントは急に疲労を感じて、声を出すのが面倒になっていた。


 そこからはレントは、首を縦に振るか横に振るかして、声を出さなかった。回答が求められる質問には、首を傾げて済ます。

 そんなレントの応対に、少女は気にせずに話し掛け続けた。



 緩い登り坂を砂に足を取られながら、見た目で思ったのより疲れながら上ると、その先では視界が広がった。


「あれが海だよ」


 そう言って指差す少女の隣に立って、レントは目を見開いた。

 砂地が続く先に水が広がる。その境には小波が打ち寄せ、細く白く泡を残して引く。

 少しずつ強くなっていた臭いも、その景色を前にレントには気にならなくなっていた。


 少女がそのまま先に進むのに気付いて、レントは止まっていた足を一歩踏み出す。すると武力担当の護衛が、レントの耳に顔を寄せた。


「砂地は下りの方が足を取られて危険ですので、お気を付け下さい」


 そう言うと武力護衛は先に進み、レントの前に位置取る。

 レントは肯くと、一歩一歩注意しながらゆっくりと、緩い降り坂を進んだ。少し進んだだけで下りの方が疲れそうだと思ったが、その通りだった。



 波打ち際にしゃがんで、レントは海水に指で触れる。

 舐めてみると、知っている通りにしょっぱかった。


「兄ちゃん達は初めてじゃないのか?」


 護衛二人の先程からの動きを見て、少女がそう尋ねる。


「ああ、俺達は海に行った事があるんだ」

「ふ~ん」


 少女は視線を護衛から外して、レントの隣にしゃがんだ。


「あんたは初めてだね?」

「うん」

「初めてのやつはみんな、海の水を舐めるんだ。それで分かんのさ」


 レントは少女に顔を向けて微笑みを返すと、質問をした。


「ここでは塩を作っているのでしょう?」

「作ってるけど、そんなのに興味があんの?」

「うん」

「でも塩田はよそもんは見れないよ」

「え?なんで?」

「そう言う決まりだから」


 少女は立ち上がって、レントを見下ろす。


「海に入らないの?」

「うん」

「折角来たのに?」

「着替えがないし」

「裸で入りゃ良いじゃん」

「ううん」

「そう」


 少女は振り返って、来た道を戻り始めた。


「これから潮が満ちるから、気を付けな」


 レント達を見ずにそう言うと、レント達の返事も聞かずに少女は、砂地の坂を登って行った。



 レントは立ち上がり、少女の姿が見えないのを確認してから、護衛二人を振り返る。


「二人はどこで海を見たのですか?」

「ここです」

「砂地に慣れる為の訓練をここで行うのです」

「なるほど。その時には塩田は見ましたか?」

「いいえ」

「私も見ておりません」

「店の裏側は?」

「いいえ」

「私は表側にも入った事がありませんでした」

「私もです」

「食事はどうするのですか?」

「この砂浜で自炊しました」

「食事を作るのも訓練の一環になっております」

「なるほど。そうなのですね」


 レントは肯くと海に目を向けた。そして王都の港町からも海が見える事を思い出し、見ておけば良かったと思った。

 もしかしたらミリに案内を頼めたかも知れないとの考えが浮かぶと、レントはもう一度、見ておけば良かったと心の中で繰り返した。

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