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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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タランの苦悩

 コウグ公爵の言葉に脱力したタラン・コウグは、気を取り直して公爵に尋ねる。


「そう思われる様な行為を使者がする事に、父上は思い当たらないのですね?」

「当たり前だ!」

「それに該当する様な事を命じてもいないと?」

「当たり前ではないか!何を命じたらチリン殿を突き飛ばす話になるのだ!」

「いえ、分かりませんけれど」

「普段でさえそんな事はさせる訳がないのに、妊娠した事を知った上で、その様な訳があるか!」

「そうですね。それで、使者はなんと言っているのです?」

「まだ連絡がない」

「はあ?詰まり王都で、コーハナル侯爵家に()い様にされたって事ですね?」

「それも分からん」


 タランは首を左右交互に何度も倒す。


「もしかして父上?私を喚んだのは王都に行って、王妃陛下に謝って来いと言う事ですか?」

「まあ、お前が行くのが妥当かとは思っている」

「私は先日、王都から帰って来たばかりですよ?」

「それでお前がチリン殿の妊娠の話を持ち帰って来たから、こんな事になったのではないか!」


 公爵の言葉に、タランは首を傾げたまま、小さく左右に何度も振った。


「チリン殿の妊娠を伝え聞いて来たのはその前です。まあそれはどうでも良いですけど」

「どうでも良い事があるか!」

「父上?父上はコーハナル侯爵家が、何を狙ってこんな騒ぎを起こしてると思います?」

「分からん。見当も付かん」

「そうですよね。父上が勘違いしてチリン殿を領地に迎えようとしたからと言って」

「私の勘違いと決まった訳ではない」

「使者がチリン殿を突き飛ばそうとしたなんて、あり得なそうな言い掛かりを付けて、王妃陛下に抗議させる。う~ん?」

「どうした?」

「父上?コーハナル侯爵家ではなく、王家に何かちょっかいを出しました?」

「そんな訳!ある訳ないだろうが!」

「伝統のクッキー以降、何もしていませんよね?」

「当たり前だ!だが!あの件もお前が悪いのではないか!あんなクッキーを提案しおって!」

「なんでですか?国王陛下と王妃陛下にご助力頂いたお陰で、我が領だけではなくコウバとコウゾも経営が立ち直って来た事を示す為に、王家直轄領の生産物と合わせてクッキーを作ってみただけじゃないですか?」

「そのアイデアが問題だったのではないか!」

「いや、あのクッキー自体は成功でしょう?国王陛下も王妃陛下も喜んでくれたじゃないですか?」

「それはそうだが、それはそうだが!そうではない!」

「そうですよ。それがどこでどうしてレシピを置き換えるなんて話になったのか、それは私の所為ではないではありませんか?」

「それはそうだが」

「ウィンに余計な事を教えたのも、私ではないですよ?」

「それはそうだが」

「王都でのサニン殿下の親睦会に、ウィンの参加を決めたのも私ではない」

「それは!それは決めるも何もないだろう?」

「初回は辞退したではありませんか?」

「それは、だが、お前も賛成していたではないか!」

「それは賛成しますよ。だって我が家にはウィンを公爵家の跡取りに相応しい支度をさせて、王都に送るなんて余裕はありませんから」

「そうは言いながらも、お前は毎月王都に行っているではないか」

「だからお忍びでしょう?泊まってる宿だって、人に知られたら恥ずかしいくらいですよ。それにあれは王家の秘術をハッカが望むから、仕方ないじゃないですか?私が好きで王都に行っていると思います?跡継ぎにはウィンがいるから、もう他には要らないでしょう?」

「そうはいかん!ウィンに万が一の事があったらどうするんだ!」

「ありませんよ。ハッカは流産ばかりしてるのに、ウィンだけは生まれて来れたのです。あの子は運が良いのだから、万が一もありません」

「そんなのは分からんし、たとえそうだったとしても、この先に何があるか分からんだろう?」

「そうなったら養子を貰えば良いんですよ。公爵家同士なら血の濃さは変わらんでしょう」

「その様な安易に考えられるか!」

「王家の秘術を使おうとももう一人、ハッカが子を産めるとは限りませんよ?」

「だが、家を栄えさせるには、嫁に出す娘も必要なのだ」

「ハッカが歳を取れば、ますます出産は出来ないでしょうね」

「何を他人事の様に言っているのだ!」

「他人事ですよ。ウィンで充分との意見も、王家の秘術なんて当てにならないと言う意見も、子作りばかりさせられて遊びにも行けないのも、どれも私の思い通りにはならないじゃないですか?どれも私の意見が通らないのに、責任だけ取らされても困ります」

「責任だけ取らせている訳ではないだろう?」

「ニッキの事だって」

「おい!」

「なんですか?」

「滅多な事を言うな」

「何故ですか?お祖父様はニッキと結婚しても良いって言っていたのですよ?」

「それはあの時の状況だからだ」

「でも父上も母上も反対していた」

「当然だ」

「その所為で私には子供が一人しかいない」

「は?それは王太子妃殿下も同じではないか」

「違いますよ。家系図を良く見て下さい。私とニッキ、ソロンとハッカより、私とハッカ、ソロンとニッキの方が血が濃いじゃないですか?」

「まだそんな事を言ってるのか?」

「いつまでも言いますよ。だって事実だし」

「何代も前の僅かな差ではないか」

「それなら父上が女なら良かったのです」

「・・・いきなり、何を言っている?」

「父上が女だったら、王妃になったのは父上だ」

「そんな、恐ろしい事を考えるのは()めろ!」

()めませんよ。だってそうしたら、ソロンになったのは私だったのですから」

「王太子殿下と呼べ。それにたとえそうでも、王太子殿下は王太子殿下、お前はお前だ」

「違います。これだけ血が濃いのですから、私は父上の子ソロンとして生まれた筈です。そしてニッキと結婚していた筈なんだ」

「たとえそうだとしても、現実の役には立たん。その様な事を考えるのは、無駄なだけではなく、危険なので()めるのだ」

「ほら、また、私の意見は通らない。でも役には立ちますよ?少なくとも現実の(つら)さは忘れさせてくれる」

「領政だって上向いている。チリン殿の件以外に大きな問題はない。ウィンの教育だって上手く言っている。(つら)い事など、何があると言うのだ?」

「子作りが(つら)いのに決まってるじゃないですか!私はもうハッカとなんて寝たくないんだ!」


 そう言うと蹲ったタランに、その姿を見たコウグ公爵は言葉を失った。



 その後、タランには休養が必要だとのコウグ公爵の意見は、女性達には受け入れられなかった。流産を繰り返しても頑張っているハッカこそ可哀想だと思わないのかと詰め寄られたら、コウグ公爵は言葉を返せなかった。

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