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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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確認と調査依頼

 助産院でリルは、コウグ公爵家の跡継の妻ハッカの記録を書き写していた。


 パノの弟嫁チリン元王女に対してのコウグ公爵家の使者の言動に付いては、王妃の心を騙った件と合わせて王家預かりになった。

 それなのでチリンとしてもコーハナル侯爵家としても、ハッカの妊娠記録は不要になったのだけれど、念の為に、いざとなったら使う為に、ミリが個人的に確認しているのだ。


「序でに、コウグ公爵家の馬車の情報も調べて置こうかな?」


 ミリはぽつりと呟く。

 使者の事を知らないと言って、コウグ公爵家がシラを切る事はあるだろうか?あるいはそれを調べたら、もしかしたら本当は、コウグ公爵と王妃が遣り取りをしていた、などと言う事を知ってしまうかも知れない。

 ミリはバルの祖母デドラから、知らない事が良い結果に繋がった歴史はない事を教わっていた。そしてパノの祖母ピナからは、知っていても知らない振りをして相手の口から言わせる場合のメリットと、その為の戦術を習っていた。更にラーラの祖母フェリとの遣り取りからは、得た知識が思ってもいない所で役に立つ事を学んでもいた。


「うん、そうしよう」


 ミリは、会った事のないハッカに対してのデリケートな事柄を調べる事に付いて、少し後ろめたくは感じていた。それなので作業にあまり集中出来てはいなかった。しかし、馬車の情報までも調べる事に決めたので、ハッカの記録の残りを急いで書き写す事にした。



 馬車クラブでミリは、コウグ公爵家の馬車の記録を見せる様に依頼する。


「この三ヶ月でよろしいですか?」


 使者の事だけを調べるなら、十日もあれば充分だ。しかし誰がいつ、王妃と会ったのか会っていないのか、分からない。公爵本人が王妃を訪ねたかも知れない。もしかしたらサニン王子の誕生会で?いや、あの時はまだ、チリンの妊娠が分かっていなかった。


 そんな事をぐるぐる考えたけれど、ミリは結局、係員の言う通りに、まずは三ヶ月分を出して貰う事にした。



 資料を確認していると直ぐに、特定の馬車に付いて王宮への出入りが多い事に気付く。その馬車はコウグ公爵領と王都の宿と王宮を行き来していた。

 それを見てミリは、ハッカとハッカの夫タラン・コウグが良く王妃を訪ねて来ると、国王が言っていた事を思い出す。

 月に一度は王都に来て三日程宿に滞在し、その三日の間に毎日王宮を訪ね、多ければ日に二回の行き来をしている。王宮内での馬車の動きは不明なので、王妃を訪ねているかどうかは分からないけれど、国王の言葉と合わせれば、この中の少なくない回数は王妃と会っているのだろう。


 ミリは、王妃にも公務がある筈なのに問題にならないのか、と心配になったけれど、国王も王太子も知っているのだから大丈夫な筈、と考えて忘れる事にした。


 そしてコウグ公爵家でもう一台、ミリの目を引いた馬車があった。

 王宮を訪ねている馬車でコウグ公爵領から来た人物が、宿に泊まっていると思われる期間、別の馬車が定期的に同じ場所を訪ねていた。

 その行き先は、コウラ子爵邸。パノと交際練習をした相手、ラブラの家だ。


 ミリはコウラ子爵家が社交を行わない家だと聞いていた。それなのにハッカやタランが王都にいるかも知れない時に、コウグ公爵家の馬車が毎日の様にコウラ子爵邸を訪ねている。

 そこでミリは、ラブラの結婚相手がコウバ公爵家出身だった事を思い出す。

 コウラ子爵家は社交をしないとは言っても、他の貴族家との行き来はあると言う事か、とミリは納得した。もしかしたらハッカもコウゾ公爵家の出身だし、ラブラは入らなくてもタランを含めて、公爵家出身者同士の交流が続いているのかも知れない、とミリは考える。


 そうするとやはり、コウグ公爵領から王都に来て頻繁に王宮を訪ねているのはタランとハッカなのだろう、と思った所でミリは小首を傾げた。

 タランとハッカなら、王宮を訪ねる馬車でそのまま、コウラ子爵家を訪ねれば良い筈。見るとコウラ子爵家を訪ねている時間と王宮を訪ねている時間に重なってる所もある。もしかしたらタランとハッカが別行動する事もあるのだろうけれど、しかしそれでも被らない時間帯なら、王宮へ向かうのと同じ馬車でも良いのではないだろうか?


 目の前の資料では、使われている馬車の格は分からない。王宮に乗り入れるには格の高い馬車を使うだろうけれど、コウラ子爵家を訪ねるにはそれでは格が合わないなどと言う事があるだろうか?

 ミリは馬車がこの様な使われ方する場合として、身元を隠して相手先を訪ねるケースしか知らなかった。そしてそれは、ミリが犯罪調査の時の資料を見ているからであり、単に犯罪が絡まない時のケースを知らないからでもあったのだけれど。


 ミリが生まれる前後に、コードナ侯爵家もコーハナル侯爵家もソウサ家も、三公爵家からは敵視をされていた。ミリから見ると三家とも、攻撃的な家風に思えている。

 王宮に何の用事で出入りしているのか分からないけれど、チリンの妊娠に関する件で、コウグ公爵家はコーハナル侯爵家に対して、敵視は分からないけれど軽視はしていると考えられる。

 もしかしたら三公爵家がまた何か、コーハナル侯爵家やコードナ侯爵家に対して仕掛けて来る気なのかも知れない。それも王家を巻き込んで。

 ミリは国王にも王妃にももちろんソロン王太子にも、もうこれ以上近付きたくないし巻き込まれたくもない。しかし何かあればチリンが辛い立場に陥るかも知れないし、それを誰かが狙っているのかも知れない。

 何かがあってもチリンの夫スディオやソロン王太子がチリンを守る事は分かっている。けれどそれでも何かが起こる事で、チリンの心は傷付くし、何より妊娠への影響があるかも知れない。


 ミリは万が一の念の為に、コウラ子爵家への馬車の出入りを確認する事にした。



 カウンターでミリが係員に依頼をする。


「以前、コードナ侯爵家に出入りする馬車の、その先まで調べて貰った事があったのですが、分かりますか?」

「はい。出入りする馬車の家が持っている、他の馬車の移動先も合わせて報告させて頂いた資料ですね?」

「はい」


 ミリは係員に話が通じたので、微笑みながら肯いた。

 それは犯罪者に共犯がいた場合に、資料にはどの様な具合に現れるのか、確認していた時の依頼だった。


「コウラ子爵家に対して、同じ様に資料をまとめて下さい」


 そう依頼をすると、係員の顔が引き攣った様にミリには思えた。


「それはお急ぎでしょうか?」


 係員からその様な確認をされた覚えは、ミリには今までなかった。


「なるべく早く欲しいのですけれど、他に優先する案件があるのでしたら、それらの後で構いません」


 係員の顔は「早く」の部分でまた引き攣った様にミリには感じられた。しかき優先順位を下げても良いとの言葉には、安堵している様には見えない。


「いいえ。今は他の案件はございません。しかしもし、今後何かが発生しましたら、その節にはご相談させて頂きます」

「はい。優先順位の判断は任せますので、わたくしには相談ではなく、結果だけを知らせて頂ければ構いません」

「ご配慮頂き、ありがとうございます」


 係員はそう言って頭を下げるけれど、まだいつもより雰囲気は硬かった。


「何もございませずとも、それなりのお時間を頂く事になりますが、よろしいでしょうか?」


 何故か係員は、縋る様な表情をしている。


「ええ。前回もそうでしたので、それは構いません」


 そのミリの答えには、今度は何故か係員は、悲しそうにも見えた。


「いつ出来上がるのかの目処が立ったり予定が変わったら、教えて頂けますか?」


 ミリのその言葉には、係員は表情を引き締めて、「畏まりました」と返した。



 後日、ソウサ邸に届いた資料を見て、ミリは係員の表情の意味を理解した。

 その資料はコードナ侯爵家に付いて調べた時の、百倍はいかないけれど、それなりの量だった。

 係員は多量の資料を作る事になると気付いていて、あの様な表情をしていたのだ。


「社交をしない家と聞いていたから、コードナ侯爵家の半分もいかないと思っていたのに」


 室内に置かれた資料の山を見て、ミリは力なくそう呟いた。数枚(めく)ると、文字の大きさや行間は、コードナ侯爵家に付いての報告書と変わりない。純粋に資料の枚数の差分、コウラ子爵家を中心に活発な馬車の行き来が行われていると言う事だったのだ。


 ミリは直ぐに自分付きのメイドに頼んで、馬車クラブに差し入れをして貰った。

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