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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ソロン王太子との再謁

 王宮に着いたミリが、元王女チリンからソロン王太子への手紙を持参した事を告げると、それ程待たされずにソロン王太子の元にミリは案内をされた。

 以前にソロン王太子とチリンとミリの三人の茶会に使ったのは汎用の応接間の一つであったが、今回はそこではなかった。案内された先は汎用応接間より王宮の奥に位置する、ソロン王太子の執務室の隣にあるソロン王太子専用の応接室だった。


 廊下でドアの前を守る近衛兵士に、案内人がミリの来室を告げる。近衛兵士が肯いて開いたドアの中に、ミリは導かれて入った。

 ソロン王太子がまだ室内にいない事に、ミリはホッと息を()く。しかし直ぐに別のドアが開いて、ソロン王太子が入室して来た。

 ミリの体が反射的に、王族に対しての礼を取る。そのミリの頭上から、ソロン王太子が声を掛けた。


「良く訪ねて来てくれた、ミリ・コードナ殿」

「王太子殿下に置かれましては御健勝の御様子、心よりお慶び申し上げます」

「ありがとう。さあ、顔を上げて、こちらに掛けてくれ」


 やはり手紙を渡して説明して終わり、とは直ぐにはならなそうな様子に、ミリは緊張感を募らせた。



 ミリの席の前に、ソロン王太子の侍従が淹れたお茶が置かれる。ソロン王太子に「どうぞ」と勧められ、ミリは「ありがとうございます」と頭を下げた。


「久しぶりだね、ミリ殿?」

「はい。ご無沙汰いたしておりました」

「もっと頻繁に訪ねて来てくれて、構わないんだよ?」

「もったいなき御言葉、ありがとうございます」

「いや、本当に。さあ、遠慮しないで、召し上がれ」

「ありがとうございます。頂きます」


 そう言って下げた頭を上げて、ミリはカップに手を伸ばす。


「それで?ミリ殿は応対係を脅したと聞いたけれど?」


 そのソロン王太子の言葉に、カップを持とうとしたミリの手が止まる。それを見たソロン王太子はフッと笑った。


「ゴメンね?イジワルだったね?」


 ソロン王太子のフランクな口調と言葉の内容に、ミリの表情が引き攣り掛ける。


「いえ」

「どうぞ、遠慮しないで飲んで」

「ありがとうございます」

「こちらのお菓子もどうぞ。コードナ侯爵家の人の口に合えば良いのだけれど?」


 カップを持ち上げたミリの手が僅かに震える。

 ソロン王太子の後ろから侍従が小声で掛けた「殿下」の声には、窘めの色が含まれていた。


「ゴメン、ゴメン。いや、遠慮されてしまうかと思っただけなんだ。良ければ食べてね?」

「ありがとうございます」


 ミリはカップを両手で胸元に抱えながら、頭を下げた。


 お茶に口を付けたミリがカップを置くのを待って、ソロン王太子が口を開く。


「なんでも応対係には、手紙を開封するのはチリンの面目に関わると、ミリ殿は告げたんだって?」


 ソロン王太子が不安そうな表情をミリに向けた。ミリはその胡散臭い顔を直視しない様に、僅かに視線を下げる。


「はい。王太子殿下以外の方の目に()れるのは、よろしくないのではないかと考えました。それなので、チリン様の体面を傷付ける事がないか、ご確認のお願いを致しましたのです」

「そうなのだね」


 うんうんと肯きながらソロン王太子が手で合図すると、封筒を載せたトレーを持って、侍従がソロン王太子の傍に寄る。


「王家のルールで、私が直接は開封出来ないから開けさせるけれど、文面は読ませない。それで良いかな?」

「はい、ありがとうございます」

「いや。文面を見たら、感謝するのは私になるのではないかとは、思っているのだよ」


 侍従が封筒を開いて便箋を取り出すと、トレーの上に封筒と便箋を載せて、ソロン王太子に差し出した。

 便箋を取って開くと、その文面を目で追ったソロン王太子は片手で顔を覆い、椅子の背に凭れ掛かる。するとソロン王太子のその様子を見て近衛兵士が動くが、ソロン王太子が便箋を持った手を上げて近衛兵士を制した。


「見てご覧よ」


 ソロン王太子が振り向いて、便箋を侍従に渡した。それを見てミリは、見せて大丈夫なのかと驚いて、体を硬くする。

 便箋に目を落とした侍従がさっと顔を背けるのを見て、ソロン王太子は満足そうな表情で肯くと、ミリを振り向いた。


「ミリ殿は文面を知っていたのかい?」

「それは、はい。チリン様が記されている時に傍におりまして、目に入れてしまっておりました」

「なるほどね。それなので応対係に警告をしてくれたのだね?」

「警告と言いますか、はい」

「いや、ありがとう。ミリ殿のお陰でチリンの尊厳が保たれた。ありがとう」

「あの、もったいなき御言葉でございます」

「チリンは良く、こう言うイタズラをするんだよ。被害者も多い」


 そう言うとソロン王太子は、まだ顔を背けている侍従をチラリと見る。それを見てミリは、でも侍従はソロン王太子の被害者だ、と思った。


「今回はミリ殿も被害者だな」


 ソロン王太子にそう言われてうっかり肯きそうになったミリは、頭を下げる事で誤魔化した。


「その様な事はございません。チリン様には王太子殿下にお目に掛かれる機会を頂けて、わたくしは嬉しく思っております」

「なるほど。これはチリンがミリ殿に、イタズラをしたくなる訳だ」


 ソロン王太子のこの言葉に、ミリは納得出来なかった。でも今は、王太子に反論出来る材料もないし、反論する手段もない。


「チリン様には格別のご厚意を賜っております」


 頭を下げたままのミリのその言葉に、ソロン王太子は少し見開いてから目を細めた。

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