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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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伝言と報告

 レントが離れを訪ねると、レントの叔母リリが出迎えた。


「いらっしゃい、レント殿。それと、お帰りなさい」

「おはようございます、叔母上。昨日、帰って参りました」

「お土産は受け取りました。ありがとうございます」

「お気に召して頂けましたか?」

「まだ食べてはいません。お茶の用意をしましたから、一緒に食べませんか?」

「はい、是非、ご一緒させて下さい」


 レントの笑顔に、リリも微笑みを返した。



 離れの居室でテーブルを囲み、リリとレントはお茶を飲む。お茶請けはレントが土産として渡した菓子だ。


「こちらは、コードナ家の(かた)に頂いたの?」

「いいえ。今回もミリ様に餞を頂きましたけれど、これはわたくしが選んだ物です」

「レント殿が?」

「はい」


 リリは改めて、菓子を良く眺めた。そのリリの様子を見ながら、レントは苦笑を浮かべる。


「とは言っても、菓子店の店員にお勧めを聞いて、その中から選んだだけですけれど」

「いいえ。とても美味しいです。良く選びましたね?」

「気に入って頂けましたか?」

「ええ、とても」

「良かった。叔母上に気に入って頂けて、嬉しいです」


 レントはまた笑顔をリリに向け、リリも微笑みで応える。


「叔母上。こちら、ありがとうございました。お借りしたお金は遣わずに済みました」


 そう言ってレントはテーブルの上に、リリの前に小袋を置く。


「でも、ピナ・コーハナル様だけではなく、デドラ・コードナ様とソウサ家のお墓にも、花を(ささ)げたのでしょう?」

「はい。それも、家から渡されたお金で足りましたので、大丈夫です」

「そうなのですね。それなら良かったけれど、食事や泊まる所も、ちゃんとした所を選んだのですよね?」

「はい、もちろんです。コーカデス伯爵家が軽んじられる様な事は、一切しておりません」

「そうですね。レント殿がその様な事をする訳はありませんね」

「はい、ご安心下さい」

「失礼いたしました」

「あ、いえ。わたくしはまだ子供ですし、王都行もまだ二度目ですので、叔母上のご心配は当然です」


 真面目な表情でそう返すレントに、リリはまた微笑んだ。

 そしてテーブルの上の小袋をレントの前に押し遣る。


「これはレント殿が持っていなさい」

「え?しかし・・・」


 レントの王都行に先立って、リリはレントに何かあったら遣う様にと金を渡していた。

 前回の王都行はサニン王子の親睦会に出席する為で、王宮から金銭の援助があったけれど、今回は私的な王都訪問だった。それなので旅費は全てコーカデス伯爵家で出したし、旅費を抑える為にレントに随行したのが護衛二人だけだったのだ。


 リリが現金を得る手段は限られていて、レントに渡した金は編み物を売った利益だ。

 レントはその事を知っていたし、毛糸を仕入れたりする為に遣われる筈の金である事も知っていた。しかしそれを口にするのは、何故だか躊躇われた。それはレントが、リリの厚意も分かっていたからだ。


「レント殿は領地を視察するのですってね?」

「・・・わたくしから叔母上に報告しようと思っておりましたが、既にご存知でしたか」

「ええ。今朝一番で知りました。視察するにも何かと入り用になる筈です」

「そうではありますが、領地内ですので、余りお金を掛けずに済ませる積もりです」

「でも、領民達の目もありますよ?」

「そこは心得ております。ですから移動は馬でさっと通り過ぎて、現地では平服で領民の真似をして見て回ろうかと、考えております」

「平民の格好では、危ないのではないの?」

「護衛もおりますし、大丈夫です」

「それ、お祖母様は許したのですか?」

「この家を発つ時、お祖母様の前ではちゃんとした格好を致しますので、心配は掛けません」

「大丈夫ですか?隠していて、もし知られたら、大変な事になりますよ?」

「はい。隠し通しますので叔母上も、お祖母様にもお祖父様にも父上にも、内緒にして置いて下さい」

「分かりました。こう見えてわたくしも、惚けるのは得意ですから、任せて下さい」

「はい、よろしくお願いいたします」


 そう言って二人は笑顔を向け合った。



「ナンテ・コーハナル様から叔母上への、伝言を預かって参りました」

「そう・・・ナンテ様はなんと仰っていらっしゃいましたか?」

「叔母上がもし王都に行く事があるなら、コーハナル侯爵邸に寄って欲しいと」


 リリはレントの表情を見て、「そうですか」とだけ返す。


「叔母上?わたくしはナンテ様の言葉に、叔母上への好意を感じました。ですので機会がある様でしたら、ナンテ様と連絡を取って見るのはいかがでしょうか?」

「・・・それもナンテ様が?」

「いえ。ナンテ様との遣り取りから、わたくしが思い付いた事です」

「そうですか。ナンテ様はレント殿に良くして下さったのね?」

「はい」

「・・・そうですか」


 リリは一度視線を下げて、再び視線を上げてレントを見た。


「ナンテ様は、いかがでした?ピナ様が亡くなって、気落ちなさっていらっしゃらなかったかしら?」

「普段のナンテ様を存じませんから、確かな事はわたくしには分かりませんが」

「そうね。それもそうですね」

「しかし、気落ちなさっている様には見えませんでした」

「そう。それは良かったわ」

「はい」

「他の方達にはお目に掛かったの?」

「コーハナル侯爵家はナンテ様だけです。コードナ侯爵家ではリルデ様にお目に掛かって、デドラ様のお墓にもリルデ様が案内して下さいました」

「そうなのね」

「後はミリ様と、バル様です」


 レントはバルの名を出すのに、僅かに躊躇した。そしてそれはリリにも伝わった。

 リリは直ぐに言葉が出ず、唾を飲み込む。


「・・・お二人とも、お変わりはなかったかしら?」


 そう訊かれてレントは、ラーラの祖母フェリの墓前のミリを思い出す。そしてレントも唾を飲み込んだ。


「あの、はい。ミリ様はお変わりありませんでした。バル様は初めてお目に掛かりましたが、お元気そうでした」

「そう、ですか」

「はい」

「それは、良かったわ」

「はい」


 そこで二人の会話は、途切れてしまった。

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