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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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馬車か騎馬か

「でもレントは、どうやって視察をするの?スルトの馬車に同乗するの?」


 レントの祖母セリのその質問に、「いいえ」と答えたレントが言葉を続けるより先に、セリが先回りをする。


「馬に乗って行くのならダメですよ?」

「ですがお祖母様。わたくしは馬車では酔ってしまいますので」

「ですから、視察はあなたが馬車に乗れる様になってから、考えなさい」

「しかしそれですと、どれ程の時間を無駄にする事になるのかと」

「無駄ではありませんよ。あなたが領主になった時には、馬車で移動する必要がありますからね?」

「え?いえ、お祖母様?必要はないのではありませんか?」


 レントからしてみたら、その話は既に決着が付いている筈だった。それなのでレントは乗馬の訓練を受けられる様になった筈だ。

 レントの祖父リートも、妻のセリの言葉に眉間に皺が寄る。


「ないわけはないでしょう?領主が馬で移動したりしたら、馬車も持てないのかと、侮られますよ?」

「その様な、しかし」

「それに領民達も、領主が馬に乗って現れたら、戦争でも起こるのかと慌てます」

「いえ、その様な事にはならないかと」

「なりますよ」


 セリに断言されると、レントは言葉を繋げられなかった。

 ここでリートに援護して貰う手もあるけれど、リートには最後にセリを宥める役として当てにしている。それなのでレントは、ここはまだ自分で何とかしようとして、作戦を少し変えた。


「わたくしは、たとえ歳を取って大人になっても、馬車に乗れる気はしません」

「そんな事はないでしょう?少しは乗れるのだから、その距離を少しずつ伸ばして行けば良いのよ」

「今回も王都でミリ・コードナ様と共に馬車に乗ったのですが」

「ミリと?」


 口調と表情が厳しくなったセリに、リートが声を掛けた。


「落ち着けセリ。レントはミリにピナ・コーハナル様の墓に案内して貰ったのだ。馬車に同乗しても仕方がないだろう?」

「分かっています。それでレント?馬車に乗ったからどうしたの?」

「前回乗った時よりも早く具合が悪くなって、馬車を停めて頂いてしまいました」


 確かに、コードナ侯爵邸から乗った時間で計れば、前回我慢して乗っていた時間よりは短い。けれど、レントはミリを迎えに行くにも、コーハナル侯爵邸に行くにも、コードナ侯爵邸に行くにも、馬車に乗っていた。一旦は馬車を降りたとしても、その積み重ねられた時間が影響してないとは言えない。

 もちろんレントはそれを分かっていながら、この様に伝えていた。

 ちなみに、前回の方が良い馬車だったので、同じ馬車を使って比較したならやはり、前回の方が早くレントの具合が悪くなった可能性は高い。


「それは元々体調が悪かったのでは?」

「いいえ。今回も馬車に乗る前は、体調に問題はありませんでした」


 正確には、これから馬車に乗らなくてはならないと思って、レントは馬車に乗る前から少し憂鬱ではあった。その事を覚えてはいるが、レントは口にはしない。


「しかし直ぐに馬車を停めましたので、今回もミリ様の前では、無様な姿を曝してはおりません」

「馬車を停めると言うのが、充分情けなくはあるな」

「そんなリート!それではミリの目の前でレントが、粗相をした方が良かったと言うの?」

「そうではないが、体調不良を理由に馬車を停めさせるのも、充分に外聞が悪いではないか」

「レントは馬車が苦手なのだから仕方ないでしょう?リートだって苦手なものはあるじゃないの!」

「いや、私の事は良い。そうではなくてレントだ」

「だから、大人になればレントだって、馬車が平気になるわよ」

「大人でも、馬車に酔う者はいるぞ?」

「そうなの?」

「レントがそうなると決まった訳ではないが、馬車が平気になるまでレントに視察をさせないと言う事は出来ない。それは分かるな?」

「なぜよ?視察させなければ良いのでしょう?」

「領民達に、今度の領主様は馬車に乗れないから視察を行わない、などと言われるぞ?」

「秘密にすればいいでしょう?もしそんな事を言う者がいれば、不敬罪で処罰すれば良いのよ」

「それよりは、レントに騎馬で領地視察をさせるべきだ」

「騎馬はダメよ!」

「しかしレントはこうして王都まで、無事に往復しているではないか?」

「私がどれだけ心配したか、リート?あなたは分かっていないの?」

「そうしたらレントは今度は、祖母が心配するから視察が出来ない領主と言われるぞ?」

「何ですって?!」

「お祖母様、落ち着いて下さい」

「落ち着ける訳がないでしょう?お祖父様は私の所為であなたが馬鹿にされると言ったのよ?」

「わたくしはそんな事は思いませんし、領民にも思わせません」

「でも!」

「それでですねお祖母様?お祖父様も。話は少し変わりますけれど、こちらをご覧頂けますか?」


 レントはファイルを取り出して、テーブルの上に資料を広げた。


「これは?何なの?」

「日時と領地内の地名が書かれているな?」

「これはこのコーカデス領内での、馬車の移動記録です」


 リートの眉間に深く皺が出来る。セリは首を傾げた。


「領地でこの様な物を付けさせているの?」

「いや、私は見た事がない。レント?これはお前が調べたのか?」


 厳しい表情のリートに、レントは「いいえ」とゆっくり首を左右に振る。


「今回、ミリ様の案内で、馬車クラブと言う場所に行きました」


 セリはミリの名に不快な表情を浮かべ、リートは眉間の皺を深くした。

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