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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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チリンの要求

「え?チリン?赤ちゃんが出来たのかい?」


 パノの弟嫁チリンの腹部は目立って来てはいたけれど、ゆったりした服装をしていた事で、チリンの夫スディオは気付いていなかった。

 チリンの事はスディオには、パノの祖母ピナが亡くなってから体調を崩していると説明していた。それなので、その心配ばかりしていたスディオは、チリンが妊娠しているとは考えていなかった。


「それ、私が最初に教えて貰えたのかい?」


 その場にはチリンと助産師の他に、パノとミリとパノの母ナンテもいたので、スディオのその質問に皆が首を傾げる。


「いや、バルさんより前に知らせて貰えたのかなと思って」


 スディオには、ミリが生まれた時の事が頭にあった。

 ラーラがミリを出産した事をバルが知らない内に、スディオはミリを抱いていて、後から皆に怒られたのだ。ラーラを邸まで送って来て、その後も近くに控えていたスディオは、男性では一番と言うかなり早い順番でミリを抱いていた。

 その事をバルは今でも根に持っていると、スディオは思っていたりする。


「どうして?もちろんだわ。お義父(とう)様にもまだ伝えていないし、王家にもまだ連絡はしていないのよ?」

「そうか。チリン、ありがとう」

「え?ありがとうって、バルさんより先にあなたに教えたから?」

「いや、ちがうよ。子供を産んでくれて、ありがとう」

「まだ妊娠しただけよ。まだ産んでないわ」

「そう、そうだね。妊娠してくれてありがとう」

「どういたしまして、で良いのかしら?でもね?まだ油断は出来ないの」


 そこで助産師から、まだ死産の恐れがある事と、王家の女性ではそれ以外の女性に比べるとその可能性が高い事が説明された。


「それなら私はチリンと子供の為に、何をしたら良いのですか?」

「積極的には何も出来ません。気を付けて防げるものではないのです」

「そんな」

「チリン様がストレスやプレッシャーを感じない様に心掛けて頂く事が精々ですが、スディオ様がチリン様に気を遣い過ぎると、それはそれでチリン様にはプレッシャーになる事もありますので」

「それでは、私はチリンの傍にいない方が良いのですか?」

「それは逆効果です。できるだけ傍にいて差し上げて下さい」

「何もせずに傍にいれば良いと言う事ですか?」

「ストレスの捌け口になって差し上げて下されば良いのですけれど、それはそれでまた難しく、逆にストレスの種になったりしますので」

「それは、難しいですね」

「はい。正直なところ、正解はありません」

「困ったな」

「そうですね。妊婦さんは常に妊娠している事を意識していますから、夫や周囲の(かた)には気を遣われたくないと言う方もいます。『そんな事、言われなくても分かってる』と思ったりしますので」

「なるほど」

「ですので接し方は普段通りで、妊婦さんを大切にして上げるのは大切ですけれど、妊娠しているから大切にするのではなくて、奥様だから大切にする事を心掛けて頂くのがよろしいかも知れません」

「妻だから・・・そうですね」


 助産師の言葉をスディオは、死産などで子供を失う事になった場合も想定しての助言だと受け取った。

 肯くスディオに助産師は微笑む。


「その辺りは、スディオ様とパノ様をお産みになったナンテ様にご相談するのも良いかと思います」

「そうですね」


 スディオに顔を向けられて、ナンテは肯く。


「それとあと、やはりミリにも関わって貰おうと思うのです」


 助産師に向けたナンテの言葉に、チリンも肯いてミリを見た。


養伯母(おば)様?わたくしもよろしいのですか?」

「ええ、ミリ。理由は後ほど話しますけれど、ミリはよろしいですか?」

「はい、もちろんです。わたくしにもお手伝いをさせて下さい」

「よろしく、ミリ」

「よろしくね、ミリちゃん」

「はい」


 ミリは笑顔で肯いた。



 助産師が帰ってから、チリンからミリに理由の説明があった。


「王家からは、妊娠の事を色々と言われているの」


 そのチリンの一言でミリは、ソロン王太子との茶会での話題を思い出した。


「妊娠していなくてもそうなのだから、私が妊娠した事を知ったら、もっと色々と口を出して来るのではないかと思っているのよ」

「そうなのですか?」

「ええ。ニッキ王太子妃殿下が妊娠なさった時は、御実家のコウバ公爵家からも人が来たりして、色々と口出しをされたみたいなの」

「そうだったのですね。そうすると、チリン様の御実家の王家から、コーハナル侯爵家に人が送られて来ると言う事ですね?」

「それが、王家からも来るかも知れないけれど、コウグ公爵家から送られて来そうなのよ」

「なるほど。王妃陛下の御実家ですか」

「ええ。ニッキ王太子妃の妊娠で、コウグ公爵家も意見を出しているけれど、コウバ公爵家の言葉の方が重んじられているらしくて」

「それは、なんとも」


 下手な事は口に出来ないと、ミリは言葉を濁す。


「ええ。妊婦と姑、それぞれの実家が主導権を争っているのよ。それでニッキ王太子妃が流産なさったのがコウバ公爵家の所為だって、コウグ公爵家が言い始めているらしくて、そんな時に私の妊娠が知られたら、絶対に口を出して来るでしょう?」

「そうなのですか?」

「そうに決まっているわ。爵位を笠に着て好き放題、言ったりやったりして来るわよ」


 元王女で嫁いでも未だに王位継承権を持つチリンだから許される言葉に、ミリはうっかり肯かない様に注意をする。


「それなので助産院で経験を積んでいるミリちゃんの名前を借りて、コウグ公爵家に口出しをさせない様にしたいの」

「わたくしはまだ見習いの立場ですけれど、助産師見習いの肩書きでも効き目はありますか?」

「もちろん。それでももし口を出して来ようとしたら、その撃退もミリちゃんにお願いしたいの」

「撃退?コウグ公爵家の(かた)を撃退するのですか?わたくしが?」

「ええ。ミリちゃんなら出来ると思って」

「そんな・・・」


 ミリは眉尻を下げてナンテを見ると、ナンテからは微笑みと肯きを返された。


「私も、デドラ様とお義母(かあ)様に育てられたミリなら、出来ると思います」


 ますます眉尻を下げたミリがパノを見ると、苦笑しながらもパノも肯く。


「そうね。出来る出来ないだけで言えば、ミリには出来ると私も思うわ」


 パノの言い回しに、ミリがやりたくないと思っている事が分かっているとの意味が含まれている事に気付いて、ミリは断れないのだなと諦めると、コウグ公爵家の撃退も引き受ける事にした。

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